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千神の世  作者: チカガミ
2章 桜宮の魔術師
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【2-10】疑惑と狼退治(ライオネルside)

 作戦から数週間後。俺とグレンは査問会による取り調べを受けた。大方オリーブの騎士団に言われたのだろうが、三日三晩拘束された後、半月程謹慎処分を受けた。

 しばらくして謹慎は解けたが、隊は解散。どこに行っても常に見張りがついていた。


(完全に信用されていないな)


 まあ、民とはいえ敵国の者を助けたのだから当然といえば当然なのだが。

 やれやれと思いつつ、グレンに会う為に分身を作ると、見張りから離れ、グレンの元に近づいた。

 グレンもまた見張りがついていたが、電撃で見張りの気を失わせた後こちらに来る。


「やり過ぎ。バレるよ」

「バレた時はバレた時だ」


 どうせグラスティアの民は聖園に逃げているのだろう。

 そう言われ頷くと、グレンは「じゃあ別にいい」と笑う。


「恐れるものは何もない」

「とはいえ、やる事は特に決まってはいないけどね」


 確かに兵だけでなく民まで殺める行為に関して、俺達は反感を持っていた。だが、だからといって改革しようだとかそういう考えはなかった。

 最悪無理であればオアシスから出れば良い。後はどうなっても知った事じゃない。なんて思っていたからだ。

 しかしグレンは内側から変えたいという気持ちがある様で、元部下から常に情報を得ていたらしい。


「俺はこの国に忠誠を誓っている。だが、だからと言ってこの国の悪を見過ごす理由にはならない」

「それで、変えたいわけね」


 実際、俺が入ってからしばらくは平穏だった。今ほど身分差の差別は無かったし、緑地もそこそこあった。

 それが大きく変わってしまったのは、周囲との関係が悪化し、貿易が落ち目になってきた頃からだろう。

 そこで改善に舵をきれたら良かったのだが、例のオリーブの騎士やその背後の貴族層によるプライドにより外国に頼らず国内だけで経済を回す様に改革が始まった。

 だが、オアシスは砂漠地帯の真ん中にある緑地の国である。水は地下水を利用し、一応麦などの食物も育てられてはいたが、沢山の人々に行き届かせるには中々難しい。

 更に畳み掛けてきたのが、前年からの冬のみの気候。それに関してはオアシスのみに関わらず、他国も同じ影響を受けているが、オアシスの地下水というものは、実はグラスティア方面からの雪解け水が元である。故にこのまま続くと水不足になるかもしれない。


(様々な要因による貧困、更にはそれによる王族に対しての不満、一方で貴族様は自分の地位やプライドで精一杯)


 貴族層に対する扱いは他国に比べ、とても良いオアシス。なので王族に寄る家が多い。


「ま、オリーブの騎士団の奴ら見てると、変えたいって気持ちは分からなくないけど。態々呼び出すって事は重要な何かを掴んだの」

「……」


 訊ねるとグレンはこちらを見る。して、辺りを気にした後、耳打ちした。


「王の部屋に聖書があったらしい」

「聖書?」

「ああ」


 少なくともこの領域では、ナーシャと呼ばれる女神が崇められる事が多い。人々に安寧と救いを与える女神。

 その詳細は知らないが、『信じれば死後は安泰』と言われ、各国に教会や女神像が建っていた。その女神の聖書であれば特におかしい話ではないのだが……。

 訊ね返せばグレンは頷いた後、話を続けた。


「実物を見てないから何とも言えないが、そいつの話だと少なくともそれはナーシャの聖書ではないそうだ」

「……じゃあ、魔鏡守神(まきょうのまもりかみ)? いや、崇めていたらグラスティアを攻撃する事はないか」


 であれば一体どの神の。

 悩んでいると、グレンは眉間に皺を寄せつつまた別の話をした。それはここ最近、外部からある魔術師が王宮から出入りしているという話だった。


「仮面を着けていて顔は分からないらしいが、どうも山脈地帯から来た魔術師らしい」

「山脈……ね」


 王含めてこそこそと何かをやっている事は分かった。しかし、ここで見張りの兵が目覚め始めた事で、俺達は解散した。

 こうしてその後幾度か密会した後、俺はグラスティア付近の洞窟にて相次いで兵が消息を絶った件でその洞窟に調査に行く事になり、グレンと長らく離れる事になった。

 

※※※


 グラスティア西部にある洞窟。そこにはかつて神殿があったが、数百年前に山が崩れた事で、今は一部のみが残っていた。

 単身で調査を任された俺は、膝まで積もった雪を魔術による魔弾で道を作りながら進んだ。だがそれまでに兵士の姿はなく。代わりに強い気配を感じていた。

 その気配が近づくにつれ大きくなっていく中、洞窟に辿り着くと、魔石で輝く坑内を歩いていった。


(やっぱり。外の吹雪といい、ただの気象現象じゃ無かったみたいだね)


 その証拠に、坑内には強い力が秘められた魔石が沢山出来ている。魔石も温度差や土壌等環境によって色が変わる。

 ここの魔石は寒冷地で尚且つ常に冷気に当たっていたのか、曇りもなく美しい水色だった。その様な魔石は早々なく、売ったらかなりの高値になるだろう。

 とはいえ、それよりも足元に落ちていた緑の腕章に目がいくと、しゃがみそれを拾い上げる。


(これは……やられているな)


 腕章の傍には兵士服の袖の残骸、奥につれてブーツも片方ずつ落ちている。

 腕章をポケットに入れ歩いていけば、狭かった坑道が徐々に広がり、やがて大きく開けた場所に出る。魔術で灯した炎をかざせば、神殿の一部らしき建築物が視界に入る。天井の一部は崩れ外が見えていた。

 数歩歩くと足元に転がった何かに躓く。危うく転けそうになったが、足元を見れば骸があった。


「っ‼︎」


 死後かなりの時間が経っている様だったが、温度が低く乾燥した環境故に、ミイラ化が始まっていた。

 恐れを感じつつ白い息を吐けば、奥の方で何かが落ちる音が響く。視線をそちらに向けると、口元を拭いながらこちらを見下ろす人物がいた。


(ああ、あいつが)


 辛うじて生存した兵士などの情報から名は分かっている。魔鏡守神の子の一人にして半神。銀髪の長い髪を揺らし、青と金の色違いの双眸が鋭くこちらを見つめる。

 白銀の狼とも呼ばれる彼は、その名の通り頭には三角の耳が生え、白い尾を焦立ち混じりに振りながら、大きく飛び跳ねて目の前に降りてくる。

 その勢いに腕を制した後、俺は腰に提げた短剣に手をやると、身近に見えた彼の顔に何とも言えない懐かしさを感じた。


「アンタがフェンリルか。……そっか」

「……何の用だ」


 笑った俺に狼……フェンリルは警戒を増して返す。

 今にも攻撃を仕掛けてきそうな彼に、俺は笑みを消すと短剣を抜く。して、剣先を向ければフェンリルも右腕に氷の籠手を纏う。血が付着していたのか、その籠手は赤みが強く出ていた。


(なんでかな)


 初めて会った気はしなかった。

 その喜びと覚えのない寂しさを両方抱えつつ、俺は自分を奮い立たせる為に、短剣を向けたまま宣戦布告とも取れる言葉を言い放った。


「フェンリル……神々が恐れる何もかも食い尽くす獣。今夜…アンタは表から居なくなる」


 覚悟しなよ。

 そう言うと、フェンリルは獣の様に唸った後口を開いた。


「その獣の巣に入り込んだんだ。……無事で戻れるとは思うなよ」


 魔術師‼︎

 フェンリルが声を上げ拳を振り上げる。その速さに身構えると、攻撃を受ける前に魔弾で奥に向かって吹き飛ばした。

 一瞬何が起きたのか分かっていない彼だったが、それから更に数発雷撃を与えると、壁に寄りかかり動けなくなる。


(ま、こんな所か)


 勝負をけしかけておいて、申し訳ないが。

 ふと上を見ると今にも崩れそうな神殿の天井が目に入った。これ以上戦うと崩れてしまう所だった。

 一息吐き奥の祭壇に向かえば、そこには未だに力を発する鏡が三枚照らし合わせる用に置かれていた。その一枚を手にし、地面に叩きつけて割ると、辺りが暗くなる。


「さて……と」


 これで何かが変わるといいけど。

 そう思いつつ外に出ようとしたが、フェンリルが気になりそちらに向かうと、フェンリルがゆっくりと顔を上げこちらに向かって唸る。

 それを無視し、俺はフェンリルの腕を引き祭壇の前に連れ出す。ここだと万が一天井が倒壊した所で、彼に被害は及ばないだろう。

 座り込んだ彼に手をかざし、封印の魔術を唱え始めると、フェンリルの身に黄金の鎖が絡まる。それを眺めながら俺はぼんやりと考えていた。


(やっぱり、どこかで会っているのかな)


 しんみりとなって膝をつくと、もう殆ど意識のない彼に向かって言う。彼は何も言わず見つめていた。


「初対面な筈なのに、何故か酷く懐かしくて胸が苦しくなる。……きっと、どこかで会っていたのかな」

「……」

「……ごめんね。遅くなって」


 そう不意に浮かんだ言葉含めて謝り、彼の頭を撫でる。

 そして短剣で彼の髪を切ると、それを大事にポケットに入れた腕章に包み、再びポケットに納めた。

 この後兵士の亡骸を抱え洞窟を出たが、吹雪は止み数年ぶりに雲の合間から青空が出ていた。

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