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千神の世  作者: チカガミ
2章 桜宮の魔術師
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【2-8】夕方に

 こうしてちょっとした襲撃の後、完全に酔いが醒めた夕方頃に、俺はウォレスと共に母屋へ訪れていた。

 襲撃については少し前にウォレスが先に報告していた様だが、廊下を歩いていると、アユの叱る声が耳に入る。


「全く……何度も言っていますよね? 無理やり飲ませてはならないと」

「いや……無理やりではなくただ……」

「そう言って猪口に絶え間なく注いで……知っていますよね? ライさんは優しいから断れないって。ただえさえお酒に弱いのに、度が高い酒をあんなに」


 ましてやキサラギさんまで飲ませるなんて。

 そう自分の事含め、アユはヤマメに説教していた。ヤマメは言いたい事がある様だが、アユに遮られ言われ続けている。

 まあ、確かに無理やりかというとそうでもなかった様な気はするが、それはそれとして灸を据えられているヤマメに呆れていると、アユ達の傍に俺達が姿を表した事でアユは説教を止める。

 視界に入ったヤマメは、アユの正面で正座し、頭が上がらない様子であったが、俺達を見るなりパッと頭を上げ笑顔を振りまく。その様子にアユは溜息を漏らした。


「すみません。お見苦しい所を。……体調は大丈夫ですか? キサラギさん」

「ああ。酔い醒ましの薬が効いたから何とかな。それよりも、ライオネルは……酒に弱いのか」

「ええ。弱い酒でもすぐに酔い潰れてしまうくらいには弱いのです。なので、極力飲ませたりはしないのですが……生憎我が家には呑兵衛がいらっしゃるので」

「ん? 俺の事か?」

「貴方以外に誰がいますか」


 全く。と、アユは腕を組みつつ横目でヤマメを見る。手の焼ける父親を持つのも大変だなと、アユに軽く同情していると、隣にいたウォレスが膝を突きアユに訊ねる。


「アユ様。先程の男ですが……追わせた者の報告によれば、クリアスタルの者に間違いないかと」

「そうですか……思った以上に動きが早いですね。念の為、明日にでも橙月(とうつき)寒凪(かんなぎ)に使者を送りましょう」

「はっ」


 ウォレスは頷き深々と頭を下げる。俺も遅れて膝をつくと、アユは慌てて「気楽に」と伝えてくる。


「一応はお客様なので。畏まらずにのんびりしていってください」

「そうは言われても。一応は国主と王子の前だからな」

「おいおい今更だなー。昨晩は父さんと呼んでいたくせに」

「なっ⁉︎」


 ここで昨晩の事を引き摺り出しやがった。

 ニヤニヤ笑いながら言うヤマメに、俺は顔を引き攣らせると、アユが笑みを張り付けて肘でヤマメの脇腹を突く。思いの外強く突いた様で、呻いた後ヤマメはしばらくうずくまっていた。

 うずくまるヤマメにウォレスは心配するが、アユは「放っておきなさい」と言った後、俺を見て言う。


「ウォレスから聞きましたが……貴方を危険な目に遭わせてしまいましたね」

「こんなのはよくある事だ。それに、俺も警戒を怠っていた。お互い様だ」


 そう返せば、眉を下げながらも笑んでアユは頷く。

 と、そこに酔いから醒めたのか随分とげっそりしたライオネルがよろよろと現れる。


「ら、ライさん。あまり無理をなさっては……」

「大丈夫大丈夫。朝よりは随分といいから」


 そう言って俺の隣に座る。眉間に皺は寄せたままだが、先程よりは顔色は良さそうだった。

 ヤマメは気まずそうに顔を逸らしていると、アユが一瞬ジト目でヤマメを見た後、俺達に向き合う。


「キサラギさんの事はライさんからある程度聞きました。レンがお世話になりました……お金の方は大丈夫ですか?」

「まあ、払っていたのは本人だしな。それよりもあいつ、いつもあんなに食べていたがどうなっているんだ……後ここの財政は大丈夫か?」

「ええ。何とか」


 何とか……。

 苦笑いしながら言う彼に、幾許か不安を感じた。隣にいたヤマメを見れば、ヤマメは笑んで言った。


「あいつはよく食うからなー‼︎ ま、元気なのはいい事だ‼︎」

「量は気にして欲しい所ですけどね」


 やれやれとアユが呆れる。ちなみに昨晩もレンはかなりの量を平らげていた。それが日常茶飯事なのか、レンの傍には飯桶と共にしゃもじを握った女中が常に待機していたのを覚えている。

 マコトもその光景には慣れつつある様で、「よく食べるなー」と微笑ましそうに見つめていた。


「昔からああなのか」

「いえ。昔はどちらかというと少食でした。ですが、ライさんが来て、活発になり始めた頃からよく食べる様になりまして……成長期でしょうね」

「成長期……な」


 俺の時よりも食っている気はするが。そう思っていると、空気を読むかの様にレン達が戻ってきた。


「ただいま〜‼︎ 兄様達二日酔いは治った?」

「ええ。……って、またかなり買ってきましたね。夕食入らなくなりますよ?」

「大丈夫‼︎ 甘い物は別腹だから‼︎」


 レンは笑って返すと、俺達の前に大量の甘味の包みを置く、後から来たマコトとカイルを見れば、二人ともそれなりに食べてきた様で、それぞれ腹を摩っている。


「甘いものいっぱい食べちゃいましたね……」

「だなぁ……お腹いっぱいだ」

「どんだけ食べたんだよ」

「えーと、お団子にあんみつ、回転焼きに鯛焼き、後昼食にお蕎麦でしょ……」

「本当に食べてばっかりだな」


 指を折りつつ呟くレンに、他には無かったのかと言えば、レンは悩んだ後「あっ」と言ってライオネルを指差す。

 指を指されたライオネルは瞬きした後、己に向けて指を指して「俺?」と首を捻った。


「そう。お昼位かな。ライ兄様にすっごく似た人を見かけたんだよ。ただ銀髪で目の色が違っていたけど」

「それ、さっき襲ってきたクリアスタルの下っ端じゃない⁉︎ よく無事だったね⁉︎」


 レンの話に俺達は騒然とすると、ライオネルが確かめる様にレンの両肩を掴む。

 一方でレン達は襲撃を知らなかった様で、クリアスタルの者だと言う事含め、それに関して驚いていると、ヤマメが神妙な顔で呟いた。


「ライ君によく似た人物か……確か兄貴はいるんだったか?」

「居たとは聞いてますけど……けど、少なくともあいつは兄じゃないです」

「ライオネルを元に作られたと言っていたしな」


 即座に返したライオネルに続いて俺も言えば、ウォレスも同調して何度も頷く。それに対し、ヤマメは「作られた存在?」と怪訝に呟けば、俺はライオネルを見た。

 ウォレスも身を僅かに前に出して、俺を挟んでライオネルを見れば、ライオネルは間を置いてから目を丸くすれば「作られた存在⁉︎」と他人事の様に驚く


「何それ⁉︎ 俺知らないんだけど⁉︎」

「そうは言うが、あいつはお前をオリジナルと呼んでいたぞ」

「知らないよー‼︎ こっわ‼︎ 何で俺を元に作られてんの⁉︎ 倫理観なさ過ぎか‼︎」


 気味が悪いと言わんばかりに叫びつつ、ライオネルは自分の両腕を摩る。その気持ちは分からなくもないが、本当に何も知らないのだろうか。

 顔が真っ青になったライオネルを見続けていれば、天井から戸惑いの声が聞こえてきた。


「えー……お前知らなかったの?」

「何で天井から出てくるんだ。暇なのか?」


 板を外し顔を出したスターチスに静かに突っ込む。するとスターチスはこっちを向き、「暇じゃないけど⁉︎」と吠える。暇ではないのなら何故天井裏に潜んでいるのか。

 一旦頭を引っ込め天井板を戻した後、違う所から外し降りてくれば、スターチスは話しながらこちらに歩み寄る。


「少なくとも数年前からあいつは動いていたよ。聖園は今回が初みたいだけど」

「へえー……しばらくは桜宮内にいたからねー知らないやー」


 そう笑みを貼り付けながらライオネルが言えば、スターチスは「そっかー」と返しつつ、レンが持ってきた団子の包みを手に取り、勝手に開けて食べ始める。

 相変わらず自由なスターチスに、俺とライオネルは呆れ、皆が苦笑する中、スターチスは咀嚼混じりに話を進める。


「ま、俺も知ったの昨日だけどね」

「昨日なら俺達と殆ど変わらないじゃん。で、なんなのあいつ。いつ作られたの」

「んーと、記録書によると十年前かな。ホムンクルス実験はそれ以前からあった様だけど」

「十年前か……」


 十年前となると、ヴェルダに来た直後かそれ以前だろう。

 しかしライオネル自身は実験に協力した事も覚えがない様で、首を交互に右や左へ傾けていれば、それを見ていたスターチスは口に含んでいた団子を飲み込んだ後、こう言った。


「ホムンクルス実験は、元はグラスティアで行われていた物だった。それ以外にも様々な実験が行われていた様だけど、オアシスが攻めてきた事でその大半は失われたみたい」

「グラスティア……?」


 聞いた事のあるようなないような……

 あまり聞き覚えのない地名に、今度は俺が首を傾げると、ライオネルが神妙な表情で話した。


「グラスティアは、魔鏡守神(まきょうのまもりかみ)がいる神殿のある国だ。そして同時にタルタ達がいた国でもある」

「タルタってエルフの里で会ったあの……?」

「そう」


 マコトの問いにライオネルは頷く。アユ達も表情が硬くなると、ヤマメがライオネルに話しかける。


「そうか、ライ君はかつてオアシスに居たから」

「ええ。それも最前線にいましたから、あの戦いの事は覚えています」


 折角ですし、この機に話しましょうか。

 そうライオネルは眉を下げて笑えば、ヤマメは目を一瞬逸らし考える素ぶりを見せた後、彼に視線を合わせる。


「ああ。頼む」

「……分かりました」


 ライオネルは頷く。して背を伸ばせば、真剣な眼差しで語り始めた。

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