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千神の世  作者: チカガミ
2章 桜宮の魔術師
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【2-2】ライオネルの謎

 そして次の日。再びエメラル城に向かえば、城外にジークヴァルトとイルマが出ていた。


「今日桜宮(おうみや)に戻る様だな」

「はい! お世話になりました!」

「いやこちらこそ。此度は世話になった」


 レンの挨拶にジークヴァルトは笑んで返す。それから二国間のやりとりについて、ライオネルやウォレスを挟みつつ二人は交わした後、ジークヴァルトはふとこちらを見て話しかける。


「キサラギ! マコト! お前達も元気でな」

「……ああ」

「はい!」


 俺が小さくと、その横でマコトは強く頷き頭を下げた。その返しにまたジークヴァルトは笑みを浮かべ、こちらへやってくる。

 まだ何かあるのかと思いきや、彼が歩んだ先にはカイルがいた。


「ケンタウロスの少年」

「は、はいっ!」


 呼ばれ、カイルは大きく跳ねる。そんなカイルの肩をジークヴァルトは掴む。


「話は聞いた。共に付いていくらしいな」

「は、はい……!」

「気をつけて行ってくるんだぞ」


 そして楽しんでこい。

 ジークヴァルトの言葉に、カイルは先程よりも大きな声で返事する。

 こうして挨拶も済ませ、俺達は乗る船が停泊している港へ揃って歩いていくと、そこにあったのはこれまた大きな船で、乗客が乗り込んでいくのが見える。


「お? 一般の船で帰るんだな?」

「まあ……桜宮も財政はあまりよろしくないですから」


 驚くジークヴァルトに、ライオネルはから笑いで言う。


 (財政難……な)


 何となく思い浮かんだ原因の一つであろうレンを見れば、レンは「はて?」と言わんばかりに、にっこりしたまま首を傾げる。

 まあ、それはさておき。乗る船は期待していた魔鏡(まきょう)製の船で、煙突からは煙が上がっている。

 ジークヴァルトとイルマに見送られつつ、船に乗り込むと、まるで上質な宿屋の様に装飾の施された内装が目に入る。


「数時間だから、大部屋一室借りたよ」


 一応ベッドもあるから。とライオネルが先頭に立ち、ある扉の前まで近づく。して、扉を開けるとレンがライオネルの横を通り過ぎ、長椅子に座り込む。


「ふわふわ〜!」

「あ、本当だ」


 マコトも歩みレンの隣に座ると、長椅子の柔らかさを楽しむ様に小さく跳ねる。その傍にカイルもやってくれば「おぉ」と感激の声を漏らしつつ、長椅子の背凭れを軽く叩いた。

 長椅子を楽しむ三人を横目に見つつ、俺は窓に近づくと、港よりも高い景色をじっと見つめる。


「こうしてみると……エメラルは中々大きな街だよな」


 市場は奥まで続いていて、高い家屋も沢山並んでいる。

 遠くを見れば山は見えるが、それを隠す様に家屋が建っているのもあって、より大きな街に見えるのだろうか。

 手に持った荷物も下ろさず、窓辺で立っていると、いつの間にか傍らにライオネルが立っており、同じく景色を眺めていた。


「魔鏡領域の中でもエメラルは都会だからね。大きいよねー」

「……」


 呟くライオネルに、俺は視線を移す。

 その視線に気付いたライオネルは、こちらを向くなりこてんと首を傾げて言った。


「どうしたの? 顔に何か付いてる?」

「いや……別に急に絡んできたなと思っただけだ」


 だいぶ打ち解けてはきたが、少し前までは仇として長年追っていた人物だ。そんな人物とまさかこうして共に船に乗る事になろうとは。


(昨日に至っては一緒に飯も食ったしな)


 昔だったらこんな事は出来ず、さっさと殺めていただろうに、今はそこまで殺意が湧かない。

 それは、背後で長椅子に屯っているマコト達の説得等のお陰でもあるのだが、未だにそう思っては我が返った様に不思議に感じていた。


(にしても、馴れ馴れしくし過ぎでは)


 仮にもこちとら殺そうとしていたんだぞ。

 口にせずともそう思っていると、ライオネルは笑んだまま「放っておけないんだよね」と返す。


「まあ、贖罪というのも兼ねているけど……色々とね」

「贖罪……」


 これが贖罪かと呆れつつ。しかし、看病含め何かと世話を焼こうとしているのは、ただ単にそれだけじゃない気がする。


(それに……たまに違和感を感じるんだよな)


 まるで無理をして笑っている様な……

 そう思っていると、後ろからマコトに呼びかけられる。


「今からレン達と甲板に出てくる。キサラギもどうだ?」

「……いや、別にいい。気をつけて行ってこいよ」

「ああ!」


 いつもよりはしゃぐマコトにやれやれと思いつつ、口を緩ませ見送れば、ライオネルが聞く。


「一緒に行かなくてよかったの?」

「ああ。別に海なんてここからでも見られるし」


 わざわざ外に出る程じゃない。なんて言って、長椅子の正面にある、一人座り用の椅子に腰掛ける。

 ライオネルは俺を目で追った後長椅子に座ると、「大人だなぁ」と言って膝に肘をついて顎を支える。


「大人というか……既に成人してるけどな。ってか、このやり取り前にもしなかったか」

「したね。りんごの時でしょ」

「ああ。よく覚えているな」

「魔術師は記憶力が良くないとやっていけないからね。イメージでも発動出来るけど、より細かな事やろうとすれば、それなりに術覚えないとダメなんだよ」


 そう言って溜息を吐くライオネル。三大魔術師などと呼ばれているが、それなりに魔術に対して苦労や努力はしているらしい。

 まあ、それはそれとして興味はさほどないのだが。

 しばらく無言になった後、汽笛と共に船が動き出すのを感じると、ふと独り言の様にライオネルが呟いた。


「やっと、休めそう」


 その言葉の後、背を伸ばして大きく反らすと、そのまま目を伏せて眠り始める。その様子に「寝ていなかったのか」と訊ねれば、ライオネルはこくりと頷いた。


「十日位?」

「とおっ……⁉︎ 」


 平然とした様子で返すライオネルに、俺は声を上げる。いくら何でも寝てなさ過ぎではないだろうか。


「お前……俺に無茶するなと言っていた癖に。もしや桜宮がそうなのか?」

「いや……そういう訳じゃないんだけど……」


 少しして目を開く。して、ライオネルは寂しげに呟いた。


「寝るのが怖い」

「は?」


 どうしてと訊ねると、ライオネルは「さあ?」と首を捻りつつ返す。ただ、不眠気味なのは随分と昔からそうらしい。


「ま、寝不足だからって特に仕事に支障が出る訳じゃないし。眠れない時は横になって本読んだりはしているけど……それでも眠れる事はあまりないかな」

「……」

「でも、寝た方が休めるっちゃあ休めるからね」


 キサラギはちゃんと寝なよと言って、ライオネルは再び目を伏せる。だがしかし、本人が言っていた通り、眠れない様ですぐに瞼を開いた。

 目の下にクマ等はなかったが、深く息を吐いて背凭れに寄りかかると、眉間に皺を寄せて天井を見上げていた。


「……それ、タルタには相談しなかったのか」

「もう何十年もこれだからね。今更って感じがしてしなかったな」


 さっき言った様に支障はないからと、ライオネルは淡々と返す。何げなく通してしまったが、何十年という言葉にじわじわと引っかかってくる。そういや、こいつは年齢はどの位なのだろうか。


(少なくとも年上なのは分かってはいるが……それにしたって、外見が若過ぎる)


 化け猫に化けれる位なのだから、恐らくは人ではないだろう。ただ、そうだとしてもあまりにも実年齢が分からない。……もしや。


「お前、神か?」

「えっ」

「……いや。何でもない」


 そんな訳あるか。ましてや王族とはいえ人に仕えているんだぞ。

 呟いた後即座に自分で否定し、ライオネルから視線を外す。と、正面からクスクスと笑いを堪える様な声が聞こえてきた。


「……何だよ」

「いや。まさか、こんなすぐに当ててくるとは思わなくて……ははっ。やっぱりすごいね。キサラギは」

「はっ?」


 当ててくるとは? 何が? もしや……神という事か?

 まさかのあたりに、もう一度「は?」と素っ頓狂な声で言うと、涙を拭いながらライオネルは話を続けた。


「こう見えて、実は神なんだよ。俺」

「……何ふざけた事を言ってやがる。頭どこかぶつけたか? 」

「いやいやマジだって。信じてよ」


 そうライオネルは半ば焦りつつ、前のめりになって何度も己を指差しながら言う。だが、それによって益々胡散臭く感じる中、俺はある試しを持ち掛ける。


「じゃあ、神らしい事してみせろよ」

「うんいいよ。やって見せるから」


 ライオネルは立ち上がり、手の平をこちらに見せる。して瞼を閉じると、ライオネルの足元から風が吹き、同時に光も差し込んでくる。

 バタバタと周囲の寝台や窓際の布が羽ばたく中、ライオネルの目がカッと開くと、壁にかけられていた時計の穴から白い鳩が鳴きながら出てきた。

 それが一羽、二羽と次々と出てくれば、ライオネルは腰に巻いていた羽織を外し、両手で持って大きく振るう。


「ほーら、ここから更に鳩が一羽二羽……」

「……」

「あーっと、扉からも鳩が次々と‼︎」

「……おい」


 部屋中から聞こえる鳩の鳴き声や羽ばたきに、俺はつい制止のつもりで右手を挙げる。

 神の力かどうかは知らないが、これ以上室内に鳩を増やされても困る。


「あっ、信じてもらえた?」

「微妙だな」

「微妙……」

「それよりも早くコイツらをどうにかしろ。羽根とか舞っているんだが」


 遠慮なく頭上に乗ってくる鳩もいるわ、糞を落とすわで最悪な室内となりつつある。

 その光景に、ライオネルは誤魔化す様に照れ笑いをして舌を出した後、二拍手する。と、鳩はポンと音を立てて消えた。羽根や糞も消えている。

 それと同時にマコト達が戻ってくると、ライオネルは何事も無かったかのように「おかえり」と言った。

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