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千神の世  作者: チカガミ
2章 桜宮の魔術師
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【2-1】出港前夜

 ジークヴァルトと話をし終わった時には日が暮れ始めていた。

 調子が良くなったとはいえ、久々に外に出ると思ったより疲労を感じてしまい、城を出るなり深く溜息を吐いた。

 それを見ていたのか、マコトが苦笑して「お疲れ様」と俺の背に手を添える。


「思った以上に、体力って落ちるんだな」

「病み上がりだからな。無理しない方がいい」

「そうそう! いっぱい食べていっぱい寝るのが一番だよ!」


 マコトに続き、前を歩いていたレンが振り向いて言う。その手には、先程イルマから貰ったクレープと呼ばれる菓子がいくつも握られていた。

 一体どのくらいまで食べるのか。見ているだけで胸焼けがしてくると、レンは辺りをキョロキョロしながら訊ねてくる。


「所で夕飯はどうする? あっちにする?」

「お前……それがあるのにまだ食べるのか」

「甘味は別腹!」


 そう笑顔で返しつつ、新たなクレープを頬張る。こんな大食い姫を抱えている桜宮(おうみや)の料理人は大変だな。後財政も心配になるが。

 一人夢中で食べ続けるレンを、背後から見つめていれば、遠くから大きく手を振るライオネルの姿を見つける。その背後にはウォレスと、何故かケンタウロスの少年もいた。

 彼に対しては流石のレンも不思議そうに「あれ」と呟くと、少年は慌てた後こちらに向けて深々と頭を下げた。


「ライ兄様。その子も連れて来たの?」

「まあね。どうも外の世界に興味があるみたいでさ」


 ライオネル曰く、少し前に隣村の幼馴染が外に出たのもあって、外が気になっていたらしい。

 背には弓矢の他、荷物の入った鞄を肩に掛け、そわそわとしつつもこちらを見る。


「カイルです! ご迷惑をお掛けしない様に頑張ります! よ、よろしくお願いします!」

「よろしく!」

「よろしくな!」


 カイルに対し、レンとマコトが返す。俺も頷くと、こちらにやってきたウォレスに話しかけた。


「お前。怪我は大丈夫なのか」

「ああ。タルタに治療してもらってだいぶ良くなった。……お前も風邪は良くなったみたいだな」

「一応はな」


 まさか風邪を引くとは思わなかったと、苦々しく呟けば「無理もない」とウォレスは返す。


「今までの疲れが溜まっていたんだろう。無理はするなよ」

「……善処はする」


 とはいえ。恐らくはこれから桜宮に向かうのだろうが。しかし、桜宮という事はまたあの山越えをしなければならないわけで。それを考えるだけでも気が遠くなる。

 すると、レン達に呼ばれている事に気付き、「何だ」と返せば、ライオネルがある店を指差して言う。


「夕飯はここで良い?」

「ああ」

「わーい‼︎ じゃあ、今日はカイルの歓迎会だー‼︎」


 こくりと頭を縦に振れば、レンがはしゃぎカイルの肩に腕を回す。カイルは戸惑いつつも最後に笑みを見せると、レンに話しかけた。


「僕、都会に出るの初めてで……! レンさんのおすすめは何ですか?」

「えっとねー……ここだと、ピザとか? 後はサンドイッチとかパスタとか」

「うん。全部だね」


 料理名を次々と口にするレンに、ライオネルが笑んだまま静かに突っ込む。

 それを聞いていたマコトも、「ここは初めてで美味しい料理が多い」と話すと、カイルは馬の尾をより強く振った。

 そんな風に皆で話をしながら店へ入ると、屋外の景色がよく見える席を案内され、それぞれ好きな料理を頼む。

 俺は手軽にいつもの玉子サンドやらを頼むと、隣ではライオネルがハンバーガーとやらをいくつか頼んでいた。


(は?)


 姫だけでなく、従者のお前も食うのか。

 レンより控えめではあるとはいえ、五皿頼むライオネルを凝視してると、ライオネルはこちらに気付き「どうしたの?」と訊ねてくる。


「いや……意外とお前も食うんだなと」

「ああ……まあ。レンよりは控えめだけど。大好きなんだよね。ハンバーガー」


 こちらに来た時ぐらいしか食べられないから。そう照れつつ彼は言う。その向こう側では頼み終わって、水を飲むウォレスが居たが、こちらを見た後ボソリと呟いた。


「俺はそこまで食わん。ライオネルとレン様が食べるだけだ」

「ハンバーガーだけだよ。食べるのは」


 後は普通だからとライオネルは弁解するが、レンがその会話を聞いていた様で、既に二枚目のピザに手を伸ばしながら「ライ兄様以外皆少食だね」と言った。

 唯一まだレンの食欲を見た事がないカイルは、レンの食べっぷりを見て唖然としていると、マコトがカイルに話しかける。


「幼馴染が居ると話していたな。どんな子なんだ?」

「ん……そうですねぇ……」


 カイルは口にしたパンを飲み込んだ後、小首を傾げつつ言った。


「とても明るくて、身体がとても大きくて、力持ちで……」

「おぉ。頼もしそうな……」

「それで頭から角が生えていて」

「……角?」


 途中まで頷きつつ聞いていたマコトの表情が、ポカンとした顔に変わる。俺もてっきり同じケンタウロス族の幼馴染かと思っていた。

 話していたカイルは俺達の表情に、「どうかしましたか」と言うと、レンが代わりに言った。


「いや。その……幼馴染がケンタウロス族の子だと思っていたから」

「?……あ、成る程。そういう事でしたか!」


 俺達の驚き様に理解すると、カイルは幼馴染と魔族について説明をしてくれた。


「僕の幼馴染はサイクロプスという、一つ目の巨人族です。炭鉱近くということもあって、ドワーフ族と共に鍛治を生業にやっている人が多くて。……彼も、世界中の色んな武器を見てみたいとかで、憧れて外に出たんです」

「成る程ね」


 夢がある事はいい事だと、ライオネルに続きウォレスは呟く。そんな中、俺はふと脳裏にある人物が思い浮かんでいた。


(サイクロプスで、世界中を回っていた……。まさかと思うが……あいつか?)


 思い返す事数週間前。マシロの使いで橙月に行って、センリの店を訪れた時の話である。確か弟子になったとかで鍛治をしていた若いサイクロプスがいた筈だ。

 その人物の名は確か……


「アイザック……だったか?」

「えっ⁉︎ 知っているんですか⁉︎」


 ぼんやりとしつつ名を口にすれば、カイルがこちらを驚きの表情で見つめる。案の定、あのサイクロプスはカイルの幼馴染だったらしい。

 そのやり取りに、ライオネルが「どっかで会ったの?」と聞いてくると、俺は胸の前で腕を組みつつ「まあな」と返した。


橙月(とうつき)のセンリの所に見習いとしていた」

「橙月⁉︎」

「ま、待て。今センリと言ったか?」


 あのセンリか⁉︎ とライオネルよりも何故かウォレスが興奮混じりに訊ねる。その圧に押されつつも、「ああそうだが」と若干呆れて言えば、今度はマコトが聞いてくる。


「センリというのは……その、すごい鍛冶屋なのか?」

「まあ……そうだな。神器級の武具をいくつも作った名のある鍛冶屋とは言われているな」


 それこそ。俺もマシロに言われるまでは知らなかったのだが。カイルと共に感心するマコトを見つつ思っていれば、ウォレスは微かに震えながら言った。


「あのセンリと知り合いとは、お前……すごいやつだな」

「マシロを通じての紹介だけどな」


 きっかけは何もマシロによるものである。少なくとも俺の力ではない。そう言うと、ウォレス達桜宮組は「あ、成る程」と呟いた。

 しばしこうした雑談をした後、全員がほぼ食事を済ませた所で、ウォレスは明日について話を切り出す。


「それで。明日は予定通り王への謁見後、船で桜宮に向かうのか?」

「ま、そうだね」


 船での移動という事で、あの山越えをしなくていいという事実に安堵する。それが無意識のうちに顔に出ていたのか、ライオネルがフッと笑って言った。


「病み上がりが二人もいるからね。船の方が休めるでしょ」


 天候も良いからとライオネルは話すと、手にした飲み物を口にする。それを聞いたレンは楽しみと言わんばかりに、笑顔でライオネルを見つつ先程届いた甘味を口にした。


「船、滅多に乗らないから楽しみ〜!」

「ほ、僕も乗った事ないから楽しみです……!」


 まさかこんなに早く海が見れるなんてと、カイルは感激しつつ両手で持ったグラスを傾ける。俺も船旅はした事がない為興味はそれなりにあった。

 マコトもマコトで、「私も海は初めてだ」と言えばライオネルは俺達の反応を見て、微笑ましそうに言った。


「数時間の船旅だけど、大きい船だし揺れも少ないからね。海楽しめると思うよ」


 その言葉にカイルはより目を輝かせる。

 大きい船という事は、魔鏡(まきょう)製の船だろうか? 聖園(みその)製は無いわけではないが、最近はあまり大きな船は造らないと以前聞いた事がある。


(魔鏡製の船ならば確かに揺れも少なさそうだ。……ゆっくり出来るな)


 不安一つない船旅。気を張らずに過ごせそうだ。

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