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千神の世  作者: チカガミ
1章 未知なる旅
26/30

【1-21】これからの事

 次の日。外は雨が降っていた。

 昨晩伝えた通りライオネルに二人を呼んできてもらうと、何故か困り顔で二人がやってきた。


「き、キサラギ……大丈夫か? その無理していないか?」

「そ、そうだよ。まだ休んでいたほうが」

「そう言われてもな」


 二人の心配とは裏腹に、体調の方は全快していた。流石名のある医術師の薬といった所だろうか。そこらの薬とは桁違いに良く効いた気がした。


「雨の日だというのに、珍しく頭痛を感じない位にはかなりの好調だ。気にするな」

「そんなに元気なら良いけど」

「ああ……」


 俺の言葉にレンとマコトは顔を見合わせた後、渋々頷く。壁に寄りかかって話を聞いていたライオネルも、俺の言葉に苦笑しつつ言った。

 

「まあ。朝食もおかわりもしていたしね」

「キサラギがおかわり⁉︎ 珍しい……」


 マコトが驚きの声を上げこちらを見つめる。それに釣られレンもこちらを見ると、「普段はおかわりしないんだ」と返した。


「てっきり白米十杯くらい食べるかと」

「そんなに食えるか」

「十杯も食べられるのレン位だと思うよ……」


 俺に続いてライオネルも戸惑いつつ返す。するとしてもせいぜい一、二回位が限度である。

 相変わらずどんな食生活を送っているんだと、レンに対して恐れと呆れを感じていると、レンは笑みを浮かべたまま首を傾げた。


「……飯の事は置いといて。話し合いしたかったんだろ? とりあえず俺が寝込んでいた間の事も合わせて話せ」

「あ、うん。分かった」


 頭を抱えつつ言えば、レンは頷き話し始める。まず初めに話してくれたのは、ジークヴァルト王とのやり取りだった。


「エルフの里で起きた事全て伝えたら、すぐに援護の指示を出してくれたよ」

「そうか」

「うん。……ただ、ジークヴァルト様も従者から伝えられた被害状況とはあまりにも違い過ぎてかなり焦ってた」

「焦っていた。という事は実際の事は知らなかったのか」

「みたいだな」


 レンの言葉に対し、俺は呟くとマコトもそれに合わせる様に頷く。話を聞いていたライオネルも、腕を組みつつ顎に手をやりながら言った。


「レンやウォレス達の話も合わせて考えると、その従者が怪しいのは間違いないよね。他には?」

「他……そうだなぁ」


 レンも腕を組み唸る。と、間を開けて顔を上げて言った。


「そういえば。ジークヴァルト様はトウさんの事は知っていたんだよね」

「……あ。そういやそうだな」


 マコトがレンの言葉に頷く。二人の会話に俺も依頼を受けた時の話を思い出していた。

 トワが暴れていたのはヴェルダの魔術師絡みである事。そして、腕輪の事等。


(腕輪……)


 忘れかけていた腕輪の存在を思い出し、ライオネルを見る。偶然にもライオネルと目が合い、「どうしたの」と言われると、俺は視線をライオネルの手元に移した。


「いや。腕輪の話を思い出してな」

「腕輪? ああ……聞いたんだ? ウォレスに」

「後ジークヴァルトにもな」


 そう言うと、ライオネルは苦々しく笑う。して、右の袖を捲りつつ言った。


「じゃあ話は早いかな。……確かにあの腕輪はヴェルダが主導して開発されてる。それはどの国でも知られている情報だ」


 ではヴェルダの魔術師とは誰なのか。

 問う様にライオネルは話すと、俺を見て言った。


「それは恐らく、クリアスタルの魔術師の事じゃないかって俺は思う」

「クリアスタルの魔術師? それは……あのブーリャとやらが居た」

「そう」


 とはいえ、まだ確証は無いとライオネルは話す。それでもそうではないかと思ったのは、やはりエルフの里でのブーリャや兵士達の言葉だったらしい。


「実際俺がヴェルダに居た時、クリアスタルの使者がよく来ていたのは覚えてる。あの時は今の様に密接した関係ではなかったけど、あれから時が随分と経っているからね」

「そうだな。村が襲撃されてから八年だもんな」

「うっ……まあね」


 ぎくりとライオネルは硬直した後、引き攣った笑みを浮かべつつ頭を縦に振った。

 確かに。それ位経っていれば、繋がりが強くなっていてもおかしくない。その上でライオネルは更に言葉を続けた。


「先ずは、ジークヴァルト王に報告した従者は誰かを知る事だよね。まあ間違いなくヴェルダかクリアスタルが絡んでいると思うけど」

「そうだね。後はクリアスタルに関してかな」


 それに関しては、改めてジークヴァルト王と話したいとレンが言うと、ライオネルも頷き「それが良い」と賛成する。

 となると、二人は一旦桜宮(おうみや)に帰るのだろうか。そう思っていると、レンが俺達を見て言った。


「あっ。キサラギ達はこれからどうするの? 旅続ける?」

「あ、ああ……そうだな。私は一先ずキサラギについて行くつもりだが。キサラギはどうする?」

「……そうだな。仇は果たせそうにもないしな」


 マコトの後に低い声で呟けば、ライオネルは再び唸った後目を逸らしながら言った。


「その……本当にごめんね?」

「ああ。……だが」

「?」


 話を続ける俺に、ライオネルはこちらを向く。レンとマコトもこちらを見ると、俺はライオネルを見つめる。

 今もこいつがした事は許せない。許そうとも思えない。だがこいつを殺めて仇を取ろうとは今は考えられなくなった。これもこいつの人柄や、その周りによって絆されたからである。


(今までの俺の旅は一旦ここで終いだな)


 深く息を吐いた後、少しだけ傍らにいるマコトを見てから、再びライオネルやレンを見れば、俺は静かに呟いた。


「お前達が選んだ選択を俺は信じてみる事にする」

「っ⁉︎」

「キサラギ……⁉︎」


 ライオネルは左右色違いの瞳を大きく開く。レンも驚きの声を漏らすと、口元を緩ませて「ありがとう」と言った。

 マコトも穏やかな表情で俺を見れば、俺はマコトに訊ねる。


「マコト。お前もそれで良いか」

「ああ。私もそれで良いさ」

「そうか」


 ここでようやく俺は身体から力を抜きつつ顔を緩めると、今度はライオネルが聞いてくる。


「いいの?」

「いいも何も。やる事が思いつかないからな。だから、一先ずお前達に従ってやる。その代わり、こいつの帰り道を探しつつな」

「あ、そうだった。レンは下層から来たって言ってたね。勿論いいよ!」


 ライオネルの代わりにレンが答える。ライオネルはその事にも驚くと、マコトを見て言った。


「えっ⁉︎ 下層⁉︎ どうやって来たの⁉︎」

「それが、私もよく知らなくて」

「スターチス曰く、俺の短刀と関係があるみたいだけどな」


 そう短刀を抜きつつ言えば、ライオネルは興味深そうに短刀を見つめる。魔術師故のさがなのか顎に手を当てつつ、態々近づき、よりまじまじと見れば、前のめりになっていた身体を引き「魔術関連じゃなさそうだね」と返した。


「けど、こちらも協力するよ。人数は多い方が良いでしょ?」

「良いんですか? ありがとうございます!」

「ふふ。お互い様だからね」


 礼を言うマコトに、ライオネルは人懐っこい笑みで返す。こちらとしては少々複雑な気持ちだが、ライオネルの言う通り人手は多い方がいい。

 それに彼らは王族だ。王族という立場の人間と協力を得る事で、この先有利になるかもしれない。……勿論それはマコトの件に限らず、ヴェルダやクリアスタルの問題もだが。

 レンもライオネルの言葉に賛同する様に、何度も頷くと立ち上がり俺達の前にやって来て、手を差し出してくる。


「二人とも、これからもよろしくね!」

「ああ」

「よろしく。レン」


 返しつつレンの手を握れば、マコトも返しレンの手を握る。

 こうして俺達は改めて手を組み、共にヴェルダやクリアスタルを探りつつ、マコトの帰り道を探す事になった。

 話もある程度まとまった事で、ケンタウロスの里で療養中のウォレスに報告する為にライオネルが宿を離れた後、俺は数日振りに外に出ると、ついて来たレンがある提案をする。


「キサラギも体調が良くなった事だし、ジークヴァルト様の所に行こっか」

「そうだな! 行こう、キサラギ!」

「おい腕を引っ張るな」


 マコトに腕を引かれ城へ向かう。レンも先頭に立ち、年相応の無邪気な笑みで引っ張る中、二人の楽しげな姿に俺も自然と笑みを浮かんでしまう。


(ま、こういうのも悪くはないかもな)


 ほぼ一人で生きて来た俺にとっては、煩わしいものだと思ってはいたが、今はそうでもなくなってきた。

 二人を静かに眺めていれば、マコトが振り向く。


「キサラギ?」

「なんだ」

「何か面白いものでも見つけたか?」


 珍しく笑っていると言われ、「そうか?」と返す。レンも足を止めて振り向けば、「あ、本当だ」と驚いた後笑って言った。


「こっちの方が良いよ。かっこいいし」

「そうだな。ハンサムだ」

「ハンサムって何だよ」


 マコトの言葉にツッこめば、レンが「イケメンだよ」と返す。イケメンも知らないのだが。

 首を捻りつつも、二人の表情を見て悪い言葉ではない事は分かると、呆れつつも笑んだ。

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