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千神の世  作者: チカガミ
1章 未知なる旅
24/30

【1-19】風邪

 それから二人が起きてきた後、里の中央の建物で今後について話し合った。

 と言ってもそこら辺のやり取りは、普段から公務で慣れているレンやライオネル、ウォレスが中心となってやってくれたが、流石に全てを任せるのは気が引けたのもあり、報告だけでもと、俺は一旦エメラルに戻る事にした。


「……で、何でお前らも付いてくるんだよ」

「だって依頼引き受けたのあたし達だよ。キサラギ一人に任せるわけにはいかないって」

「そうだぞ。それに本調子じゃないだろ」

「別に。大した事はない」


 そう言い返し、山を降る。

 して降りた所で馬車を待っていると、レンが声を漏らした。振り向くと、何もない所から紫色の輪が現れ、中からライオネルが出てきた。


「ライ兄様どうしたの」

「んー、手が空いたから三人をエメラルまで転移させに来たんだけど……」

「?」


 やってくるなりこちらを真顔で見つめてくるライオネルに、「何だよ」と不審気に言えば、ライオネルはスタスタと歩いてくるなり、俺の腕を引いた。

 不意に引かれた事で前のめりになると、ライオネルの手が額に置かれる。


「やっぱり。なんかおかしいなと思ったら」

「やめろ。微熱だろどうせ」

「どう見ても微熱の熱さじゃない気がするんですけど?」


 そう言って今度は両手で挟む様に耳を触れられる。


(こいつ遠慮なくベタベタ触りやがって……)

 

 思わずこいつの手を掴み離そうとすると、レンとマコトがやって来て、「大丈夫か」と口々に心配してくる。


「ここは私達が行くから、お前は寝ていろ!」

「そうだよ‼︎キサラギは寝といた方が良いって!……ライ兄様!」

「了解」


 レンの指示にライオネルは従うと、何かを唱え始める。それは昨晩、ケンタウロス達の中から俺を飛ばした時と似ていて、目を瞑ればあっという間に景色がエメラルの街に変わった。

 そこまで日を開けていないのにも関わらず、どうしてか懐かしく感じると、そこで気が抜けた様に膝をつく。


「キサラギ⁉︎」

「大丈夫⁉︎」


 二人が声を掛ける中、ライオネルは溜息を吐き俺の手を引いて起こした。


「やっぱり俺が見に来て正解だったね。……レン。後はお願いしてもいいかな?」

「う、うん。分かった」

「あ、あの。すみませんがキサラギをよろしくお願いします」

「うん」


 任せて。とこちらを気にするマコトに、ライオネルは伝えて二人を見送った後、俺の腕を肩に回しつつ言う。


「さて。とりあえずそこらの宿を借りて休みますか」

「借りなくて良い……一昨日まで泊まっていた宿がある……」

「じゃあそこに行こう」

「バッ……俺は」


 別に俺一人でも。

 そう言いかけたが目眩で目を瞑ると、仕方なくライオネルに身体を預けた。


(くっそ。仇相手に介抱されるとは)


 そう言っていられない状況とはいえ、今まで積み重ねてきた恨みが簡単に許す筈もなく。それによってより症状が重くなっていく気がした。

 目を瞑ったままモヤモヤしていれば、いつの間にか宿に着いていた様で。外の喧騒が無くなった所で目を開けると、ライオネルは寝台の布団を引き剥がしそこに俺を寝かせた。

 言っては悪いがケンタウロスの里とは違い、寝台がとても心地よく感じられると、ライオネルはじっとこちらを見下ろし俺の着物に触れる。


「乾いているみたいだけど……いいや。着替えも買ってこよう。少し空けるから、ここから一歩も出ないでよ」

「いや、そこまで気遣い……要らない……」


 そう言うも、ふとした時には既に姿はなかった。本当にお節介というか何というか。

 かと言って今は怠くて何もしたくない俺は、素直に横になると目を閉じそのまま少しだけ眠った。

 ……それから数刻も経たずうちに目を覚ますと、体調は良くなるどころか悪化して、頭痛や喉の痛みも追加されていた。どうやら完全に風邪をひいたらしい。


(ここまで酷い風邪をひいたのはいつ以来だ?)


 しかもよりにもよってこんな時に。呻きながらも寝返りを打つと、知らぬ間に格好が変わっており、着ていた着物は窓側に干されていた。

 ここからまた更に熱が上がるのか知らないが、布団に包まれている筈なのに寒く感じて身体が震えた。思わず身を小さくして丸まっていれば、扉から軽く叩く音が聞こえた後、外からライオネルが入ってくる。


「調子はどう?」

「……最悪だ」

「うわ、喉枯れてるじゃん。かなり酷いね」


 そう驚きつつ、ライオネルはやってくる。俺はライオネルを見上げると、彼は苦笑交じりに言った。


「これは……明日タルタを連れてきた方が良いかもなぁ」

「ただの風邪だ。寝ていれば治る……ックシュ」

「随分と可愛いくしゃみするじゃん」

「うるせえ」


 ニヤニヤとするライオネルを睨めば、彼は「はいはい」と言って頭を撫でてくる。こいつ、俺が弱っているからってやりたい放題だな。

 回復したら覚えていろよと、下火な恨みを無理やり燃やしつつ。俺は布団を顔までかき寄せる。

 そんな俺を他所に、ライオネルは再び額や頬に触れた後、傍の台に置かれた桶で浸していた手拭いを絞り額に置いてくる。


「後でお粥持ってくるから。それまで寝ていなよ」

「……」


 返事はしなかった。が、どうしてかそこでモヤモヤは落ち着いていった。



 次の日。熱は昨晩より下がった気がするが、依然高い所で止まっている気がした。

 昨晩に引き続き、思った以上に良くできていたあいつの粥を口にした後寝ていると、ライオネルに連れてこられたのかタルタが部屋を訪ねてくる。


「大丈夫かい? ライオネルさんから聞いて来たけど」

「ああ……と言ってもただの風邪だと思うが」

「うーん。まあ話を聞いていたらそうだね」


 けど念の為に診るよと言われ、タルタは手にしていた革鞄を開く。

 それから、薄っぺらい棒を口に突っ込まれ喉の奥を見られたり、胸を管の先に付けられた丸いやつで音を聞かれたりした後、タルタは腕を組んだ後何度も頷き断言した。


「うん。風邪だね」

「だろうな」

「多分寒暖差だったり、ストレスだったり色々合わさって身体が弱っちゃったんだろうね」


 一応症状を和らげる薬は置いておくから。と、タルタは言うと、革鞄片手に椅子から立ち上がる。

 隙を見計らった様にライオネルも部屋に入ってくれば、タルタはライオネルにいくつか言葉を交わした後、手を振って部屋を後にする。

 二人が去った後横になっていれば、タルタを見送ったライオネルが紙袋を片手に戻ってきた。


「良かったね。タルタの薬は良いからすぐ治るよ」

「だといいけどな」

「……ま、その前にちゃんと食べて寝る事が大事だけど」


 そう紙袋を台に置きつつ、ライオネルはタルタの座っていた椅子に座る。俺はそっぽを向くが、それを他所にライオネルは話を続けた。


「ああそうそう。レンからの言伝だけど、無事に報告が済んだから、キサラギの体調が良くなったらまた話し合おうだってさ」

「……そうか」

「後レンを通じてだけど、ジークヴァルト王からお見舞いだってさ。良かったね」

「お見舞い?」


 国王がわざわざ俺に?

 つい振り向くと、ライオネルがニコニコとしつつ横にある大きな籠に手を添えていた。そこには沢山の果物が積まれており、とても一人じゃ食べきれない量であった。


「どうする? りんご食べる?」

「……まだ良い。というか、食べたければ食べて良いぞ」

「そう? じゃあ遠慮なく」


 いただきます。と言って、籠から赤いりんごを取り出すと、小刀を使って器用に皮を剥き始める。

 その様子を見つつ、俺は思っていた事を口に出してしまった。


「……本当に、お前が(きさらぎ)村を襲ったあの化け猫なのか?」


 ライオネルはその言葉に手を止める。そして顔を上げると、笑みを消して言った。


「うん。そうだよ」

「……そうか」

「……うん」


 沈黙が続く。少しして再びりんごの皮を剥く音が聞こえ始めると、俺は上体を起こしてライオネルに言った。


「やっぱり、俺も食べる」

「えっ。食べるの?」

「……悪いか?」


 そう訊ねると、ライオネルはくすりと困った様に笑って「悪くない」と返した。

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