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千神の世  作者: チカガミ
1章 未知なる旅
16/30

【1-11】馬車の中で

 それから俺達は重い沈黙のまま、城に向かった。

 終始無言。特にレンとは顔を見合わせる事もなく、エメラルの城が見えてきた所で、ジークヴァルトの声が聞こえてきた。


「おーい、遅いぞ。どうした」

「……ちょっとな」


 短く返せば、ジークヴァルトはレン達の様子を見て無表情になる。そして再度俺を見て耳打ちしてきた。


「なんか、空気悪くないか? 何があったんだ」

「……別に」


 そう返すと、ジークヴァルトは呆れる様に息を吐く。と、昨日にはいなかったウォレスを見てキョトンとすれば、ウォレスはジークヴァルトに気付き会釈する。


「もしやジークヴァルト殿下ですか?」

「あ、ああ……お前は」

「俺は桜宮(おうみや)に仕えるウォレスと申します。そこにいらっしゃるレン様の捜索で此度は参りました」

「なっ、桜宮だと⁉︎ しかも、まさか彼女が姫だったとは……‼︎ いや、これは無礼な事を」


 レンの正体に気付いたジークヴァルトは、目を白黒させるなり、慌てて頭を下げる。だが、レンは笑みを浮かべ首を横に振れば、「大丈夫」と力強く言ってジークヴァルトに迫る。


「寧ろ姫扱いされない方が良いから……!」

「そ、そうか……あ、いや、しかし……他国の姫にドラゴンの討伐など……!」

「ん? ドラゴンの討伐?」


 依頼の事情を知らないウォレスが呆けた声で呟けば、レンは苦笑いを浮かべる。

 隣にいるマコトも眉を下げつつ笑うと、ウォレスは頭を抱えた。


「貴女って人は……全く」

「……ドラゴン退治したら、帰るから。ね?」

「ね? じゃありませんよ。もし貴女に何かあったらどうするんですか」


 アユ様達も心配しているんですよと、諭す様にウォレスが言えば、レンは目を泳がせつつも折れずに言い返す。


「それにさ、ほら、ヴェルダの件で新しい情報掴めばきっと兄様も褒めてくれるだろうし……」

「レン様、それは俺達の仕事です。貴女自ら危険を冒してまでやる必要はないんです」

「だとしても、あたしはやりたいの」


 そう言い返すレンに、負けじとウォレスも返す。

 まるで駄々を捏ねる子どもをあやす様な光景に、俺やマコトだけでなく、ジークヴァルトまで呆然として見ていれば、最終的にウォレスが長い溜息を吐いた後「分かりました」と声を上げる。


「で、あれば、俺も討伐に加わります。それでよろしいでしょう?」

「えっ、あ、ま、まあ……戦力が増えるのは別に悪い事じゃないけど……」


 と、レンが呟くと何故か彼女は俺を見る。俺は顔を険しくさせた後、頭を掻きつつ「勝手にしろ」と返せば、レンはウォレスを見る。

 話に決着がつき、新たにウォレスも手を貸す事になると、ジークヴァルトは嬉々としてウォレスの手を握り大きく振った。


「いやぁ、こんなに頼もしいメンバーで助かるよ。けど、くれぐれも無理をしない様に!」

「は、はあ……」


 無理をするなと言われても。そう言いたげな様子でウォレスはジークヴァルトを見つめていた。

 そんなこんなで、ようやく目的地へ向かうための馬車に乗り込み、エメラルを出発すれば、長い移動が始まった。


(……落ち着かねえな)


 ガラガラと音を立てながら、魔鏡式の向かい合って座る狭い馬車の中、俺は窓から外を眺めつつ、苦しい無言の時間を過ごしていた。

 隣に座るマコトは緊張しているのか、薙刀を握り締めたまま固まっていると、対面に座るレンが口を開いた。


「さっきは、ごめんなさい」

「……」


 レンの謝罪に視線を向ける。共にウォレスやマコトからも視線を向けられると、俺は視線を外しつつ「ああ」と言葉を漏らす。


「俺も……大人気なかったな」

「! ……キサラギも謝るなんて」

「んだよ、そんな意外そうに」


 俺だって罪悪感が全く無いわけではない。今更ながらウォレスの言う通り、感情的になってしまった訳で、反省すべき点ではあると思う。

 だが、それはそれとしてやはり、あいつに対しての怨みや怒りが消える事はなかった。

 それでも互いに謝ったからか、空気が少しずつ軽くなっていけば、自然とマコト達の表情も柔らかくなっていく。

 レンも笑顔になれば、窓を見つつ呟いた。


「にしてもドラゴンが誰かを傷つけてないと良いけどね……」「一カ月……ですからね。かなり間が空いていますから」

「うん」


 ウォレスの言葉に、悲しげに眉を下げつつレンは頷く。窓を見れば、そこに映るのは、エメラル国から出てすぐに広がる草原だった。

 草原には聖園(みその)領域にはない花もいくつか咲いており、その内の代表的な植物として、氷空花(ひょうくうか)があった。

 瑠璃唐草にも似たその花は六弁の花で、夏は氷のように透明になり、冬は青い花になると言われており、神獣山(しんじゅうざん)を中心に、魔鏡(まきょう)領域の各地に点在していると言われている。

 今は夏が近いため、透明になりかけた花弁が風に乗って散るのが見えると、ウォレスの話し声が耳に入る。


「キサラギ……だったな。お前はあいつをどこまで知っているんだ?」

「あいつ? 魔術師の事か? とりあえず化け猫って事ぐらいは」

「他には」

「他? 他は……」


 ……

 長い沈黙が馬車に広がる。先程とはまた違った重い空気が漂うと、ウォレスが再度訊いた。


「他には? まさか、名前すら知らないとかじゃないよな」

「……」

「え、ホント? ホントに知らないのキサラギ?」

「っ、だぁぁぁぁ‼︎」


 うるせえと声を上げれば、桜宮主従はドン引きする様にこちらを見る。それどころか、マコトですらもあんぐりと口を開けて見てきた。


「名前すら知らない相手に八年間も……」

「隠していたあたし達が言うのもなんだけど……よく探せたよね」

「仕方ねえだろ! マシロすら教えてくれなかったんだからよ‼︎ 聞けていたらとっくに桜宮行ってたわ‼︎」

「まあ、そりゃそうだろうな」

「あークソ、どいつもこいつも……!」


 よしよしとマコトに頭を撫でられると、俺は顔を手で覆い俯く。恥ずかしくて目も当てられないと言わんばかりに、下を向いていれば、ウォレスが返した。


「まあ、あいつはあいつで二年前まで位は世間から隠されていたけどな」

「二年前まで?」

「そう。マシロ様の頼みもあってね」


 マコトの問いにレンが答える。マシロの名前が出た事で顔を上げると、ウォレスは腕を組んだまま俺を見て言った。


「鬼村は聖園守神様の大事な配下だ。それを壊滅させた事は本来ならば重罪で、許されるものではない。……だが、それはあくまで個人的意思による犯行の場合だ」

「それは……つまり、上がいると見込んでいるから」

「ああ。そうだ」


 末端を裁いた所で意味がない。本命を叩かなければ変わらない。

 そうウォレスはマコトに答えると、俺は視線を外したまま黙りこむ。


(何が理由でもあいつのした事は許せねえ。……けど、こいつらの話も理解は出来る)


 第一、本当に悪人であればここまで庇ったりしないものである。マシロ含めてあいつを隠し、俺から遠ざけていたのは、俺の復讐で重要参考人を失わせない為なのだろう。

 周りが絡んでいた事で、なんとも言えない複雑な感情になるが、渋々納得すれば俺は二人に視線を向ける。


「なら、あいつは指示されて襲ったのか?」

「……そうであればまだ良かったんだがな」

「……」


 ウォレスが間を空けて呟けば、レンは俯く。

 そうであれば良かった? 指示されて動いた方がまだマシだったという事だろうか?

 ウォレスの言葉に疑問を感じていれば、ウォレスは窓を向いて言葉を漏らした。


「そう、遠くない内に分かるさ」


 

※※※



 馬車に乗って半日。身動き出来ない場所に引きこもっていた為、身体がこわばって仕方がなかったが、背伸びしつつ顔を上げると、そこには森の入り口があった。


「龍封じの山脈の時と同じだな」

「ああ」


 けど、今回の山は高くはない。強いて言えば、見慣れない草が多いのが気になるが。

 マコトの言葉に頷き、入り口まで歩いていくと、茂みから見た事のない緑色のブヨブヨとした太い蔓が伸びてくる。


「うわ」


 気味悪さに思わず顔を歪め嫌そうな声を上げると、背後からも伸び、それがレンに絡まる。

 レンは「ぎゃー」と少女らしからぬ悲鳴を上げ、腕を振れば、ウォレスが蔓を切って離す。


「スライム草だな。狙った獲物の体力を吸い取る厄介な食肉植物だ」

「そんなやばい草があるのかよ……」


 流石魔族が暮らす山というべきだろうか。次から次へと伸びてくるスライム草とやらに、苦戦しつつ短刀を振るうと、今度は色違いの紫色が襲い掛かる。

 それを切り落とすと、中からびしゃりと液体が飛び散り頭から被った。


「……これは」


 大丈夫なやつか? ……あ、大丈夫じゃないな。

 被った皮膚に熱を感じ、ピリピリと痛みが感じ始めると、マコトが手にしていた飲料水を上から掛けてくる。


「紫のスライム草の液体に触れたな? 早く流さないと皮膚がかぶれるぞ」

「早く言え」


 とはいえ、近場に水場など無いのだが。

 仕方なく袖で顔を拭えば、紫の他に桃色のスライム草も現れる。それは何よりも早くウォレスが声を上げた。


「桃色には気を付けろ! 大変な事になるぞ!」

「大変な事⁉︎」

「と、とにかく切るか⁉︎」


 マコトが困惑しつつも、薙刀を構えて対峙する。と、桃色のスライム草から伸びた蔓がねっとりと粘液を纏いつつ、マコトに向かってくる。

 その光景に、頭の中で警鐘が鳴り響くとマコトを背後に退け、迫ってきた桃色の蔓を大きく切り飛ばした。

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