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千神の世  作者: チカガミ
1章 未知なる旅
15/30

【1-10】気づかないフリ

 城を後にした後、別の宿であるマコト達とは別れ、泊まっている宿に戻る。

 その途中で幾つか薬やらを買い、明日の準備を一通り済ませると、寝台に寝転びつつ天井を見上げる。


(にしても腕輪……か)


 あの場では思い出さなかったが、強いて言えばあの猫野郎、去る間際に前足を気にしていた様な気がする。それに、龍封じの山で出会ったあの竜人の少年も、手首に触れた際に振り解いたのが今になって気になる。

 腕輪という物が、文字通り腕に嵌める物だったならば、位置的にあってもおかしくない。けれど、もしもの話。これが原因であの魔術師が、化け猫が、暴れていたんだとしたら。


(……もし、そうだったとしたら)


 そうだと、したら。俺は何の為に強くなったのだろう。

 そう思った途端、ぐわりと足場が崩れたかの様な感覚に襲われた。俺はすぐに頭を横に振り忘れようとしたが、一度気付いてしまったそれは、小さくも強い存在として胸に痛みを発した。


(俺は、認めねえからな)


 これは決して、仕方がないじゃ片付けられない話である。同等の痛みを相手にも与えないと、俺は気が済まなかった。

 目を瞑りそれを自分に言い聞かせると、横になって眠るのをじっと待ち続けた。



※※※



 ――

 ――

 ――


 怒号が辺りに響く。茂みから次々と火の矢が飛んできて、周囲にいた男達に降り注いでくる。

 自分はそれを見ている事しか出来なくて、一人また一人と倒れていく様子を眺めていた。

 すると、一人の男が自分の名前を叫んで手を取る。取られた自分の手は小さくて、青年の足の速さについて行けず、何度も躓き掛けた。


(一体……何が起きたんだろう)


 訳もわからず、道から外れ木々の隙間を通り抜けながらも進んでいると、不意に青年の身体が前のめりになり膝を突く。それに合わせて自分も地面に倒れ込むと、すぐ近くに矢が地に突き刺さった。


「見つけた‼︎」

「◯せ‼︎」

「従者諸共◯せ‼︎」


 笑い声交じりに男達が叫ぶ。向けられた事のない強い言葉に、凍りつく様に硬直した頭が悲鳴を上げると、自分の口から「怖い」という声が出てくる。


 怖い。助けて。死にたくない。


 命乞いをした所で無理だとは分かる。けれども、心はとうに限界を迎えていた。

 嫌だ嫌だと頭を横に振って泣き噦っていると、隣で蹲っていた青年は身を起こし、自分を見る。そして自分の肩を掴んでこう言った。


「ここは俺が何とかします……だから、お逃げ下さい」

「ッ」


 眉を寄せながらも笑みを浮かべ、青年は最後に自分の頭を撫でると、腰に差していた刀を抜き立ち上がる。庇う様に背を向けた青年のその左肩には、放たれた矢が刺さっていて、赤い陣羽織をより赤黒く染めていた。

 その背中を自分は見つめた後、急かす様に青年に声を上げられた事で跳ね上がりその場所を離れる。して重い短刀を抱えて、逃げていく最中、自分は木の根に足を取られてしまった。


「あっ⁉︎」


 勢いよく地面に転がり、掌や膝に痛みが走る。すぐには立ち上がれず、そこでぼろぼろと目から涙が溢れると、どうしようもなく声を上げて自分は泣いた。


 ……


(あ、れ)


 こんな事、あっただろうか。

 見覚えがない筈なのに、妙に既視感がある。……ああ、村が襲われた状況と似ているからか。けど、【俺】はこの景色を見た事がある。


「?」


 ふとした時。視界は違和感なく田畑に変わる。山が近く見える、田植えを済ませたばかりの水田に囲まれた一本道。

 そこで茫然と立ち尽くしていると、耳に()()()声が入った。


「思い出した?」

「……?」


 振り向けば、そこに立っていたのは自分によく似た青年。身に纏っている着物は上物で、髪も綺麗に纏められて背後で揺れている。何よりも表情はとても穏やかだった。

 瞬きしつつもその青年を眺めていると、彼はこちらに歩いてくる。と、人差し指で俺の眉間を突いた。


「ずっとここに皺寄せて……辛くない?」

「……何が」


 何が辛いだって? もしかして、復讐の事か?

 別に辛くないと口にすれば、青年は青い瞳で覗き込みながら「本当に?」と訊ねる。その返しに溜息を漏らすと、青年を見て返した。


「別に俺の勝手だろう。それに、俺は頭領達を奪ったあいつが許せない」

「……だから殺める、か。うん、まあ。復讐心はご尤もだね。僕だって、頭領達にはお世話になったから君の気持ちは分かるよ」

「……だったら」

「でもね。本当にそれで良いの?」


 君だって気付いている筈だよ。

 そう彼は言って、今度は胸の真ん中を指で押す。それに俺は眉間の皺をより深くすれば、青年の手を掴んで声を荒らげた。


「お前には関係ないだろ! 第一、何なんだお前は! スターチスの差金か⁉︎」

「いや、彼は関係ないよ。けど、まさかここまで姿を現しても気が付かないとはね。……いや、もしくは故意に知らないふりをしているのかな?」

「っ、何なんだよ……!」


 意味が分からない。分からないけど……何故かとてもむしゃくしゃした。

 パッと青年の手を離し距離を置こうとすれば、逆に青年から腕を掴まれ引かれる。して、耳元に彼の顔が近づけば、さっきよりも低い声で言った。


「こっちとしてはね。復讐なんてものに時間を掛けている暇はないんだよ」

「ッ……お前……!」


 歯軋りした後、青年の胸倉を掴む。だが、青年の表情は酷く冷めていた。その表情により怒りが込み上げると、青年は口を開けていった。


「どうしても復讐がしたいのならば、明日あの桜宮(おうみや)のお姫様にでも聞いてみるといい。きっと彼女は知っているだろうから」

「桜宮?……ッ、まさか、レンの事か?」

「ま、君の反応を見たら彼女も素直に教えてくれるかは分からないけどね。全てを壊してまで復讐したいのなら、僕は止めないさ」


 その代わり、この身体は返してもらうけど。

 

 青年はそう言って俺を突き放すと、背を向け去っていく。

 強い日照りの中、段々と小さくなるその背中を眺めた後、俺はどうしようもない苛立ちを抱えたまま、地面を強く拳で叩いた。



――次の日。

 目を覚ました俺は、風呂敷片手に宿を出ると、すぐにマコトとレンに会った。

 昨日と変わらず、楽しげに会話する彼女達の様子を眺めながら城へ向かっていると、不意に前にいたレンと視線が合う。この時に昨晩見た夢を思い出した。


(レンが知っている……か)


 変わってはいたが、あくまでも夢の話。とはいえ、気になはないと言ったら嘘になる。


(ま、聞くだけならいいか)


 そう思いつつ、視線が合ったレンに訊ねた。


「レン、ちょっといいか」

「ん? いいよ。どうしたの」

「その……聞きたい事があるんだ。桜宮の事で」

「えっ、桜宮の事?」


 はて、と首を傾げるレン。マコトも足を止めて振り向けば、俺は自分の手を強く握りしめて言った。


「桜宮に、ヴェルダから来た魔術師っていたりするか」

「――」


 その瞬間潮風が吹いて、道の両脇に生えた椰子の木がザワザワと音を立てる。

 背後から照る朝日が、レンの影をより濃く強調すると、レンは笑みを消して言った。


「……いると言ったら?」

「⁉︎」


 俺は言葉を失う。そして目を大きく開けて、レンを凝視した。

 レンもレンで黙ってこちらを見つめた後、ゆっくりと近づいてくると、腕を後ろで組みながら話す。


「あたしもさ、昨日のキサラギの話ちょっと気になったんだ。ヴェルダの魔術師を探しているって」

「……」

「まさか、そんな偶然ある筈ないって思ったんだけど……でもやっぱりそうだったんだね」

「お前……」


 警戒すれば、レンも眉を寄せて刀の柄に手をやった。

 先程までとは違い、一触即発な状況にマコトは戸惑い慌て始めると、俺も短刀に触れつつ言った。


「いつから匿っていた」

「それを聞いてどうするの? ライ兄様(あにさま)を手に掛ける気?」

「ああ。……俺はあいつが許せないからな」

「そう……なら、手加減はできないね」


 そうレンは言って刀を抜く。それを見て反射的に短刀を抜けば、傍を歩んでいたエメラルの人々も騒めき始める。

 唯一マコトだけが、俺達を止めようと声を上げるが、俺はレンだけを見て剣先を向ける。

 ジリジリと互いに近づき、同時に武器を振るおうとした時、そこに一人の影が降りてきた。


「そこまでだ」

「っ⁉︎」

「ウォレス⁉︎」


 降りてきた影にレンが驚きの声を上げる。俺も虚をつかれ唖然としていれば、ウォレスと呼ばれたあの仮面の男はこちらを見るなり腰に差していた刀を抜いてこちらに向ける。


「まさかレン様を傷付けようとしていたとはな……」

「先に抜いたのはあいつだ。俺は、魔術師について問おうとしただけだ……!」

「魔術師だと? ……! お前、もしや」


 何かを察したのか、仮面に空いた目の穴から、彼の目が見開かれるのが見える。

 遅れてマコトがこちらにやってくると、「キサラギ」と名前を呼んで肩を掴んだ。


「どうしたんだ、急に」

「……お前には、関係ない」

「キサラギ!」


 突き放す言い方に、マコトは怒気交じりに返す。と、騒ぎを聞きつけてか、エメラルの兵士がやってくれば、俺は渋々短刀を鞘に戻す。

 それを見たレンとウォレスも鞘に納めれば、ウォレスは俺を見て言った。


「そんなに会いたければ会わせてやってもいい。……だが、感情的になって周囲まで傷付けるのは感心しないな」

「ッ……説教かよ」


 苦々しく呟くと、ウォレスは小さく息を吐いた後レンの方を向いて話をする。

 それによって少しだけ冷静になると、俺はマコトを見た。


「……キサラギ」

「何だ」

「私はまだキサラギの事をよく知らない。だから、関係ないと言われたらそれまでだ。……けど、このままじゃ、誰も味方につけない。そうなるといつか後悔するんじゃないか」


 そう言われ、俺は気まずくなるとマコトから目を逸らした。

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