表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千神の世  作者: チカガミ
1章 未知なる旅
13/30

【1-8】運河沿いの掲示板

 とりあえず通りから離れ、運河の傍にある店に寄った俺達は、そこで様々な料理を口にしつつ話す。


(それにしても……)


 潰した玉子が挟まれたパンを口にする中、目の前で次々と運ばれてくる料理に唖然とする。マコトはその光景を知っている様で、「わあ」と驚きつつもそれ以上は何も言わずにパンを口にしていた。

 円形の台に収まりきれない料理達に、流石に周囲も騒めくが、そんな事気に求めずレンは手を合わせた後料理を平らげていく。

 量といい速さといい。あっという間に空になる皿が積み上げられていくと、俺はマコトに耳打ちした。


「こいつ、こんなに食うのか」

「ああ……私も最初見た時驚いたよ」

「……持ち合わせは大丈夫なのかよ」


 いくら姫とはいえ、こんな食生活をすれば財布も底をつくのではないか?

 異常な程の食欲と共に、財布の心配をしていると、その光景を見ていた男達の声が聞こえてくる。


「あの子、あんな小さな身体でよく入るな……」

「気持ちいい位に良い食いっぷりだよなぁ〜」


 (……すごく、目立っている)


 ましてや、道沿いの屋外の席という事もあり、通りがかりの人々も足を止めて見ていた。

 沢山の視線に何とも言えない気まずさを感じていると、最後に残されていた鉄板料理を食べ終えたレンは大きく手を叩き声を上げる。


「ご馳走様でしたっ‼︎」

「あ、ああ……満足したか?」

「んー、そうだね。後は甘味食べれば完璧かな」

(まだ食うのかよ)


 本当にその身体のどこに、口にした料理が収まっているのだろうか。

 そう思いつつ、食器を回収しに来た店員さんに、新たに注文をするレンを静かに見つめていれば、マコトがある方向を見て俺の肩を軽く叩いてくる。なんだと言いつつ、そちらを向けば、そこには大きな掲示板があった。その前には人だかりも出来ていた。

 注文を待っているレンも、「何?」と身を乗り出し見つめれば、「ああ」と言って俺達に説明する。


「あれは討伐依頼の掲示板だよ。こっちだとクエストって言うんだけど」

「討伐依頼か……なるほど」

 

 レンの説明に俺は納得する。という事は、そこに集っている人達は冒険者とか傭兵なのだろうか。


(金には困っていないが、一度くらい試しても良いかもな)


 なんて考えていれば、いつの間にかレンが席を離れ、その掲示板に向かっていった。

 彼女よりも二回りくらい大きな男達の集団に揉まれつつ、その中に消えていくと、マコトも立ち上がりレンの元へ向かう。

 少しして、何かを手にしたレンは向かってくるマコトに手を振った後、こちらへ戻ってきた。


「何を持ってきた」


 そうレンに訊ねれば、レンは自慢げに「報酬良いヤツ」と言って、貼り付けられた依頼書を見せびらかす。

 ちなみに一度掲示板から剥がした依頼書は、よっぽどの理由がない限り拒否は出来ない決まりになっていた。


(あの人だかりで報酬が良い……な)


 なんか嫌な予感はした。ふと顔を上げ、その依頼書を見てみれば、魔鏡(まきょう)領域の文字が並んで固まる。唯一分かるのは報酬の金額位であった。

 ムッと無意識に眉間に皺を寄せ、依頼書を見つめていると、マコトが俺に聞いてくる。


「……なんて書いてあるんだ?」

「魔鏡領域の文字は分からん。……レンは? 分かるか?」

「? ……えっとね」


 依頼書をひっくり返し、レンはそれを見つめる。

 討伐……? と片言で首を傾げながらだが、訳して呟いていると、そこに男の店員が料理を手にしつつやってくる。

 そして、レンが頼んでいたそれを台に置くと、レンが持っていた依頼書を見て口を開いた。


「おや、それは国からの依頼書だね」

「国?」


 店員の言葉に俺達は疑問符を付けて返す。それに対して「ああそうさ」と笑っていえば、店員は報酬の横にある紋を指差した。


「ここにエメラルの国章が付いているものは、国からの緊急依頼となっていてね。報酬もそれなりに良いから冒険者の中では人気なんだよ」

「へえ……でも、これ下の方に貼られていたけど……」

「あれ?」


 レンの言葉に店員はキョトンとする。して、レンに依頼書を渡されると、内容に目を通して「ああ、なるほど」と笑みを消した。


「ドラゴン退治か……それは中々」

「ドラゴンって……」

「えっと……聖園(みその)領域でいう所の龍かな」


 そう聞いた事があるとレンが言えば、店員は頷いた後こう言った。


「正確にはちょっと違うんだけど、大体それだね。こちらでいうドラゴンは我を忘れた竜人だから」

「我を忘れた竜人だと?」


 不穏な説明に俺は眉間に皺を寄せる。マコトとレンも笑みを消すと、店員はハッとした後困った様に笑いつつ、話を続ける。


「ま、まあ、とりあえずはエメラル城に行くといい。詳細の話はそこでされるだろうから」


 では、楽しんで。

 そう半ば逃げる様に店員はその場を後にする。その店員を目で追っていると、レンはその依頼書を見つめながら呟いた。


「あたし、とんでもないもの持ってきちゃったかも……」

「……」


 明らかに不安を露わにするレンに、俺は小さく息を吐く。だがしかし、一度引き受けた以上は断るのも難しい。ましてや国からの依頼ならば尚更の事だろう。

 マコトもレンを気遣おうとして、手を浮かせていたが、上手い言い方ができない様で、助けを求める様にこちらを見てくる。


「……仕方ねえな」


 やれやれと言わんばかりに席から立ち上がれば、レンに向けて手を差し出す。レンはキョトンとしていたが、俺が「依頼書」と言えば、それを俺に渡してくる。して、それを懐に入れるとマコトに訊ねた。


「お前らは宿あるのか?」

「あ、ああ……一応は」

「そうか。なら良い。じゃあ、これは俺が一人で受けるからお前らはここにいろ」


 いいなと言って、食事代の金貨を数枚台の上に置く。二人は驚いていたが、それを他所にその場を離れようとする。すると、マコトの呼び止める声が聞こえてきた。


「キサラギ! だったら私達も!」

「いいからそこにいろ」


 そう声色を落とし返すと、俺はそのまま歩を進める。

 あれ以降マコトの声が聞こえなくなったが、躊躇わず歩き続けると、店員が言っていた海岸沿いの城が見えてきた所で足を止める。

 陽が傾き、辺りが橙色に染まり始める中、懐に入れた依頼書を取り出すと、呆れる様に溜息を漏らした。


「俺だって、殺しを躊躇う癖に……何やってんだか」


 そう独り言を呟き、依頼書を握りしめる。龍封じの山脈であの神に言われた言葉が、棘の様に刺さり、熱を帯びていた。

 かと言って、ここで逃げようとも思えない俺は、胸に痛みを感じつつも足を踏み出す。そして迷いなくエメラル城に着くと、城門近くで警備をしていた兵士に依頼書を見せた。

 兵士は依頼書と俺を交互に見た後、訝しげに訊ねてきた。


「お前一人か? 仲間などは」

「いない。一人だ」

「一人……」


 やはり一人で受けたのが怪しまれたのだろうか。それとも依頼書を取ったのがレンだったから、それで不審に思われているのか。

 長い沈黙が続いた後、兵士は大きく息を吐いた後、「こちらへ」と兵士が城内に案内する。一先ず入れてはくれるらしい。

 ホッとしつつのも束の間、城門を潜り、向かおうとした時背後から「待った‼︎」と二人の声が聞こえてきた。その声にギクリとすると、振り向けば案の定マコトとレンがいた。


「私達も‼︎ 行きます‼︎」

「行きまーす‼︎」

「お前らなぁ……」


 待ってろって言っただろと、呆れ交じりに返せば、レンが声を上げて近づいてくる。


「だって、それ取ったのあたしだよ⁉︎ だったら、あたしの責任だよ‼︎」

「責任って……お前、これがどういう依頼か分かってんのか? 店員も言っていただろ。ドラゴン退治がどういうものかって」

「っ、で、でも……!」


 一瞬たじろいだものの、すぐにレンは言い返す。それに合わせて、マコトもレンの肩に手を置きこちらを見つめてくれば、背後から兵士の声が聞こえた。


「どちらにせよ、お前さん一人じゃ難しいと思うが」

「……」


 まさかの兵士にまで言われ、俺はキュッと口を閉ざす。認めたくはないが、確かに二人や兵士の言う事は正論で、俺が意地を張った所で意味がないのは分かっていた。

 ……だが、そうだとしても。俺は二人を連れて行きたくない気持ちもあった。二人の手を汚すかもしれないし、何より怪我をさせてしまったら。

 そんな不安と葛藤がありながらも、俺は二人の圧に負けてしまうと、渋々頷き「分かった」と口にする。その返答に二人は笑顔になった。

 その様子を見ていた兵士が俺に声を掛けてくる。

 

「話は済んだか」

「ああ……すまないが、二人もいいだろうか」

「構わない」


 兵士の問いに頷き訊ねれば、兵士は小さく笑い改めて案内する。真っ先にレンが先頭に立ち進んでいくと、俺もマコト共にその後を付いて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ