表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千神の世  作者: チカガミ
1章 未知なる旅
12/30

【1-7】出会いと再会

「‼︎」


 暗闇の中、腹部に衝撃を受けると、茂みの中に突き飛ばされ、奥に転がる。

 うずくまりしばらくその場で動けないでいると、耳元で流星が風を切る音がした。


「っ……くっそ」


 口の中に溜まった血を唾ごと吐き出し、よろめきながらも立ち上がると、流星を火の玉の様にいくつか浮かばせながら、スターチスがやってくる。


「もう終わり? ま、人間にしてはよくやった方か」

「チッ」

「さて……どうしようか」


 終わらせる? と、舌打ちした俺に向かって、不敵な笑みを浮かべながら言う。

 口元を拭った後、もう一度攻撃を仕掛けようと身を低くすれば、辺りに鈴の音が響く。それにはスターチスも気がついた様で視線を周囲に向ければ、空から現れたのは一匹の龍だった。

 暗くてその色ははっきりとは見えなかったものの、月の光に照らされて黒い鱗が青く光り輝いた後、その龍はこちらへとやってきて、何故か俺を庇う様に立ち塞がる。

 その光景にスターチスは目を見開けば、右手を下ろしていった。


「まさか、お前が現れるとはね……」


 その言葉に、龍は僅かに唸ると背後の俺を見るなり、口を開く。それに思わず身構えれば、龍は俺の胴体を咥え、その場を這って後にする。

 現れた上に、俺を連れ去る龍に、俺は「おい」と声を掛けると、龍と視線が合う。


「お前……何で、俺を助けた……⁉︎」

『……だって、あのままだと、貴方死にそうだったので』

「⁉︎」


 俺の言葉に対し、はっきりと少年の声が頭に入ってきた事で、俺は龍を凝視する。と、山を下った所にある川の近くで、龍は俺を解放すると、龍は光を帯びて一人の少年へと姿を変えた。

 黒髪に青い着物と雲の様な青がかった白い袴。して、水色の襟巻きには、赤い紐によって結ばれた鈴が見え隠れしている。それが動く度に音を鳴らすと、少年は尻餅をついた俺を見下ろして言った。


「大丈夫ですか? お怪我は?」

「あ、ああ……大した事ない」

「そうですか。それは良かった……と言いたい所ですけど。貴方、咄嗟に嘘をつきましたね?」


 僕には丸わかりですよ。

 そう少年は説教する様に言うと、中腰になり流星が掠って出来た腹部傷を突く。

 それが思いの外痛みが強く、呻き声を上げると、「ほらー」と少年は呆れながら言った。


「ダメですよ。傷を放置したら。人間の身体ですから、すぐに悪くなります」

「別に……このぐらい、大した事ない」

「強がってますけど……さっきそこそこ痛そうな声を上げていたじゃないですか」

「それはお前が突いたからだろ」


 どんな傷でも突けばあんな反応になると言えば、少年はにこりとして「そうですね」と返す。


「じゃ、さっさと治しちゃいましょうか」

「?……!」


 そう言って少年が俺に向けて手をかざすと、青く淡い光が身体を覆い、痛みが引いていくのを感じた。

 少しして光が止み手が離れると、傷は塞がっており、痛みに耐える為に無意識に身体に込めていた力が抜ける。少年は「うん」と満足げに頷き、俺の頭を撫でながら言った。


「今回は特別ですからね。二度とあんな無茶をしない様に。……貴方は死なれては困りますから」

「死なれては、困る……な。あいつと言い、知った様な事を言うが、一体何なんだ。もしや、失った記憶と関係があるのか?」


 愚痴る様に少年に言えば、少年はキョトンとした後、どこか切なそうに笑って「そうですよね」と返す。

 そして俺の頭から手を離し、腰に腕を回しながら彼は言った。


「貴方は……覚えていないかもしれませんが、僕は貴方の親友でしたから」

「しん、ゆう? お前が……?」

「はい。……けど、助けてあげられるのも今回が最後です」


 ごめんなさい。そう彼は謝り、背を向けるとその場を去ろうとする。

 意味が分からなかったが、どうしてかその背中には見覚えがあって、つい手を伸ばしてしまうと、少年の細い腕を掴んだ。


(……なんだ?)


 咄嗟に感じた違和感。その袖の中で感じる不自然な硬いそれに、俺の視線はそちらに向けられる。チラリと袖から覗く光る何かが目に入ると、少年は手を振り払い腕を隠した。して、少年はそのまま逃げる様に姿を消す。

 一人残された俺は、少年が去った暗闇を見つめた後、立ち上がりぼんやりとしばらくその場に立ち尽くした。

 


※※※


 マコトと別れてから数日後。龍に降ろされた場所が偶然にも魔鏡(まきょう)領域内だったという事もあり、俺は領域の南にある海と港の国・エメラルに来ていた。

 来て早々、龍封じの山脈で捌いた猪の牙を売れば、思った以上の金貨を貰えたという事もあり、海の見える宿で数日寝泊まりしつつ街を歩いていると、改めて街並みの景色の違いに驚いてしまう。


(どの建物も見た事のねえ建築方法で建っているな)


 勿論聖園(みその)領域の建物の様に、木で建てられている物もある。だが、石の様な四角いものが均等に並べられて建てられた物も多くあり、俺はそれを物珍しそうに見つめていると、果物を売っていた男の店主に呼び止められる。


「お兄さん、もしかして魔鏡領域は初めてかい?」

「ん、ああ」

「やっぱり。初めて来た人は皆そんな反応をするんだ」


 文化や技術の違いが大きいからね。と店主は笑って言えば、俺も「そうだな」と返し商品を見る。

 黄色く長いものやら、橙色の表面が棘に覆われたものやら、見慣れない果物が並んでいたが、「どれがおすすめだ」と訊ねれば、店主は「そうだな」と顎に手をやり悩みつつ答えた。


「どれも美味いんだが……手で皮が剥けて食べられるバナナとかどうだ? 熟して甘いぞ」

「ほう。じゃあそれを貰おうか。いくらだ?」

「銀貨二枚だな」


 値段を告げられその通りの金額を手渡せば、バナナと呼ばれたそれを渡される。

 それを風呂敷に入れ、次の行き先含めて、エメラルの城下町一大きい通りに入る。

 明るい茶色の壁に、侵食する様に伸びた爽やかな緑の蔓と葉。空を見上げると、ガラス張りの半円型の屋根が目に入り、通りの中心には白い石で作られた細い水路が通っている。

 橙月に匹敵する位に賑わう街中を、俺は異国の空気を感じながら歩いていれば、前方から会話をする聞いた事のある女の声が聞こえてきた。


「レンは十六歳か。じゃあ私の二つ下だな」

「うん。そうなるね。それにしてもあたしよりも二つ上か〜」


 ならお姉ちゃんだ。と隣にいる桃色がかった白髪の少女が返す。それに対して、マコトらしき女は「そうだな」と年相応に笑って返していれば、ふとこちらを見て目を丸くする。

 俺も足を止めると、マコトは大きく手を振って名前を呼んだ。


「キサラギ! 良かった! ここに来てたんだな!」

「ああ。……というか、やっぱり戻ってきたんだな」


 駆け寄る彼女に、苦笑いしつつ返せば、マコトもまた困った様に笑って「ああ」と返す。

 一方で一緒にいた少女は俺とマコトを交互に見た後、首を傾げつつ「知り合い?」とマコトに訊ねる。


「ああ。以前こちらの世界に来た時に、助けてくれた命の恩人だよ」

「そうなんだ!」


 そう返し少女はこちらを見る。桜色の大きな瞳に、桃色の着物。その下から見え隠れする白くかなり短い袴という服装で、どうやら彼女もまた聖園領域から来ている様だった。


(それにしても……どこか見覚えのある姿だな)


 白髪とはいえ、桃色がかった髪。右側には紫の蘭の花の飾りと共に赤い髪留めの布が揺れていたが、その花や髪の特徴から、橙月(とうつき)でのある会話が脳裏に浮かぶ。


『人探しをしている。桃色の髪をした少女を見かけなかっただろうか』


 あの時狐面を付けた男が探していた少女。

 後にセンリが、桜宮(おうみや)の姫が国を飛び出して行方不明になっていると言っていたが、男が言っていたその桃色という特徴の他に、桜宮の国章にも入っている蘭の花の髪飾り。……それらを取り入れた少女が今、目の前にいた。


(……いや、まさかな)


 こんな出来すぎた話。あってなるものか。……が、しかし、どう見てもそうとしか思えない。

 俺は言葉を失い、じっと少女を見つめれば、彼女は瞬きした後、「あっ」と何かに気付いたかのように声を上げると、前に出て挨拶をした。


「初めまして! あたし、桜宮レンと言います! よろしく! で、えっと……」

「キサラギだ。……もしやとは思ったが、本当に桜宮の姫だったとはな。橙月で狐面の男が探していたぞ」

「げっ、ウォレスか……」

 

 俺の言葉に苦虫を噛み潰した様な顔で、レンと呼ばれた彼女は言うと、手を合わせて深々と頭を下げつつ言った。


「その……色々訳あって飛び出したの。だから、もしウォレスに会ってもあたしの事は秘密でお願いします」

「お前……」


 まあ理由はともあれ、しばらくは魔鏡にいる予定ではあるから、そう直ぐには彼女の保護者達に会う事もないだろうが……。

 若干面倒な気配を感じつつも、ちらりとマコトを見れば、マコトはマコトで苦笑してレンを見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ