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千神の世  作者: チカガミ
1章 未知なる旅
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【1-5】野宿

 服を乾かすついでに、猪の解体をすれば、気がつけば辺りは真っ暗になっていた。

 一応野宿する事も頭にはあったにせよ、予定とは違う状況の最中での野宿になり、気が気ではなかった。


「……どうだ? だいぶ乾いたか」


 そう木の間に結った紐で、着物を干していたマコトに言えば、マコトは頷き紐から着物を下ろす。

 俺はともかく、また体調を崩されては困ると思い、彼女には火の番を頼みつつ俺の白い着物と羽織を渡していたのだが、マコトはその羽織を脱ごうとすると、俺は即座に背を向けた。

 布が擦れる音が聞こえる中、腕を組んで空を見上げていると、着替え終わったのか、マコトが俺の着物を渡してくる。


「すまない。貸してもらって」

「別に良い。風邪を引いてもらっても困るしな」

「それはキサラギも一緒だろう? 身体冷えていないか?」

「大丈夫だ。この位」


 そう言って火の近くに寄る。して、白い着物を着た後彼女の側に座ると、マコトは膝を抱えこちらに寄りかかる。

 突然寄りかかった事で、焦る気持ちが湧いたが、マコトの顔を見てスッとその気持ちは引っ込んでいく。して代わりに呆れにも似た気持ちが出てくれば、小さく「なんだよ」と呟く。


「眠いのか?」

「……かもしれないな。身もだいぶ温かくなったし」

「だったら、夜の番は俺がする。寝てていいぞ」


 そう言うとマコトはこくりと頷く。だが体勢は変わらず、しばし寄りかかったまま、ふと言葉を漏らした。


「帰りたく、ないな」

「……」


 ずっとここに居たい。

 そう途切れ途切れに言うマコトに、俺は何も言わずに炎を見つめる。


(帰りたくないなら、帰らなくて良いと言った方が良いのだろうか?)


 上手く言い返せずマコトを他所に悩んでしまうと、マコトはより身を縮こませ、膝に顔を埋める。


(そんなに帰りたくないのか)


 そんな様子の彼女に、俺は迷った挙句口を開いた。


「だったら、このまま魔鏡(まきょう)領域回るか?」

「えっ……」


 俺の言葉が予想外だったのか、マコトは驚き顔を上げる。その驚き様に俺も身を引くと、マコトは一瞬笑顔を見せるもすぐに曇らせる。


「いや、それは出来ないんだ。早く、帰らないと」

「何故」

「……私は国を守らなきゃいけないから」


 そうマコトは言う。その言葉の意味が分からず彼女を見つめると、マコトは苦笑い交じりに言った。


「実は私、これでも小刀祢(ことね)の姫なんだ」

「姫……?」


 マコトが? 姫?

 彼女の想像に合わない立場に、俺は唖然としてしまうと、マコトは「あっ」と声を上げる。


「その顔、さては信じていないな? 」

「悪かったな。想像が付かないんだよ」

「……ま、それもそうか。証拠もなければ、ここに来たのは私一人だけだしな」


 国の方は今頃どうしているやらと、マコトはため息混じりに呟いた。

 その話を聞きつつ、火に薪をくべると「じゃあ」と言って俺は静かに返す。


「帰りたくないって言ったのは、立場故の重責から逃げたかった訳か」

「えっ……あ、あぁ、まあ、そ、そうだな」


 目を丸くした後マコトは戸惑い、声の音量を落としていく。

 再び表情が萎れてしまった彼女に、俺は手にしていた最後の薪を入れた後、手を払うと立ち上がる。

 離れていく俺に、マコトは「どこ行くんだ」と話しかければ、俺は振り向いて言った。


「薪の調達ついでに仕掛けた罠を確認してくる。すぐに戻ってくるから、安心しろ」

「わ、分かった」


 頷くマコトを見て、俺は短刀を抜きその場を離れる。

 乾いた木を拾っては、足で踏みつつ折って傍に抱えると、周囲に作った三箇所のくくり罠を確認しにいけば、それぞれ兎や雉が引っかかっていた。それを仕留め紐で足を吊り下げ持って帰るとマコトは「おかえり」と言って立ち上がる。


「どうだった?」

「罠の方はどれも掛かっていた。良かったな」


 単純な問題ではないとはいえ、食べたら少しは気も晴れるだろう。

 そう思いながらも、その場に座り処理をすると、マコトもまた座り込み作業を眺め始める。

 雉の羽を抜いている最中に、手を止めてマコトを見れば、マコトはキョトンとして俺を見る。


「どうした?」

「いや……よくまじまじと見ていられるなと」


 まあ、猪を仕留めるくらいだから解体如きに思う所はないのだろう。そう思っていると、マコトは「ああ」と理解した後笑って言った。


「過去に数度襲われて山に籠った事があったからな。だから、この手は慣れている」

「襲われて山籠り……か。随分と物騒だな。お前の国は」

「十年くらい前迄はそこまで無かったんだけどな。……朝霧(あさぎり)家がおかしくなってからあっという間だったよ」


 そうマコトは羽が取れた雉を手にして言う。して、手元にあった割いた竹の枝にそれを刺せば、俺は短刀を下ろして耳を傾ける。


「家がおかしくなったって……御家騒動でもあったのか」

「それもある。けど、その前に隣国から攻められてな。それで当時の当主だったセンテン様は亡くなって、次期当主である息子も行方不明になった」


 唯一家臣と共に逃げられた正室も、その事で心身を病み、当時孕っていた子を産んだ後、少し経って亡くなったという。

 その後朝霧は、分家の者達によって何とか再起した様だが、未だに隣国とは緊張状態が続いているという。

 ここまで聞いてとりあえず朝霧とやらの国の状況は分かったが、マコトの国がまだよく分からない。

 再び作業に取り掛かりながら、俺はマコトの国に付いて訊ねた。


「お前の国と、その朝霧ってどういう関係なんだよ」

「そうだな。主従関係と言ったら分かるか? かつて小刀祢家は家臣として朝霧に仕えていたんだ」


 それを数代前の朝霧家当主が小刀祢家に褒美として土地を貰った。そしてそれが後に小刀祢として国になった。

 そこまで話した後、マコトは困った様に笑うとこう言った。


「まあ、その関係も今や崩壊寸前だがな」

「それは、朝霧家の人間が分家の奴らばっかりになったからか」

「……ああ。分家の奴らは元々本家をあまり好ましくは思っていなかったからな。すんでの所で本家が実権を握っているが、いつどうなるか」


 不安気にマコトは呟く。聞いているこちらとしても気が重くなる様な話ではあった。

 そんな会話を交わしつつ、最後の兎の肉を処理し終わった後、これまでと同じ様に竹の枝に刺し、焚き火に当てる。

 焼ける様な音と共に匂いが辺りに漂う中、俺は肉の様子を見ながら精一杯の励ましをマコトに言った。


「ま、あの猪が倒せる女だから、どうにでも出来るんじゃないか」

「どうにでも? というか、まだそれ引っ張ってくるんだな……」


 そんなにすごい事なのかと、マコトは引き攣った笑みを交えて言えば、「一応は」と返す。

 そして近くの川に向かい手と短刀を清め、戻ってくれば、焼けた肉を切り火の通りを確認する。


「ほら、焼けたぞ。これ食ったら寝ろ」

「あ、ああ……ありがとう」


 渡した肉をマコトは先程の会話から、不満気な表情を浮かべつつ礼を言って受け取る。して、躊躇いもなく大きく口を開けて食べ始めた。

 俺も焼けた雉の肉を裂いて食べれば、そのまま無言で肉を食べ続ける。こうしてあっという間に、三羽の雉と兎の肉は骨だけになってしまうと、俺達は満足気に息を吐いて、空を仰ぐ。

 星と共に、月が静かに浮かんでいるのを眺めれば、マコトは背伸びをしつつ気力の持った声で言った。


「腹が満たされると、何でも出来る気がしてきた」

「そりゃあ良かった」


 そう返し、そのまま背後に倒れる様にして寝そべると、腹を摩りながら目を閉じる。

 夜の番をすると言っておきながら段々と眠くなっている自分に呆れつつ、疲労も合わさって俺は睡魔に負けてしまったのだった。


※※※


 朝、顔に光が当たり僅かに顔を顰めた後目を覚ます。身体を起こすと火は消えていて、マコトも眠ったままだった。

 地べたで寝た事で身体は強張り、何処となく痒くも感じる中、頭を掻きつつ立ち上がると、とりあえず背伸びなどして身を解してからマコトの傍に歩み寄る。


「おい、起きろ」

「ん……」


 肩を揺らすと、眉に皺を寄せた後目を開ける。してこちらを見た後起き上がると、「もう朝か」と言って欠伸をした。


「早かったな」

「ああ」


 しかし、寝た事で疲労はそこまで残っていない。彼女も上へ向けて腕を伸ばした後立ち上がると「顔を洗ってくる」と言って、川へ向かう。

 その間に濡れてぼやけた地図を風呂敷から取り出すと、それを見つめながら本日の行動を考える。


(日の出の方向からして、少なくとも魔鏡に近いのは間違いないんだよな)


 問題は川に流された分、ここが山脈の何処らへんなのか分からない所だが。

 息を吐き、その地図を風呂敷に収めた後、戻ってきたマコトを迎え本日の行動計画を伝えれば、彼女の了承も得た事で、俺達は離れる準備をした。

 薪を片付けていると、俺は昨日捌いた猪の事を思い出し、川辺へ向かう。

 そこに乾燥させていた大きな牙を手に取ると、マコトはそれを見て訊ねてきた。


「その牙はどうするんだ?」

「魔鏡領域の街に寄った時に売る。よく知らないが、薬とかに使えるらしいからな」

「へぇ……」


 本当ならば、肉とかも持って行きたかったが、生憎そこまでは想定していなかったのもあり、包むものは持っていなかった。

 角を風呂敷に入れた後、「行くぞ」とマコトに言えば、彼女は頷き、俺の後をついて来た。

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