×だらけの筆箱
あなたは、他人の秘密を見てしまったことはありますか?
知らなければよかったのに。
見なければ、気づかずに済んだのに。
今回の記録は、ある転校生と、隣の席の少女の話。
彼は知らなくていいものを、見てしまったのです。
……そう、“筆箱の中身”をね。
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■一日目:転校と無言の少女
4月の終わり、中学2年の涼太は新しいクラスに転校してきた。
引っ越しに伴う転校はこれが3度目。
適応には慣れているはずだったが、今回はどこか空気が違った。
自己紹介のあと、担任に案内されて座ったのは、教室の一番後ろ――静かすぎる席の隣。
そこにいたのは、ひとりで黙々と教科書を読んでいた少女。
名前は真奈。
挨拶をしても返事はなく、顔も上げない。
彼女の机の上には、几帳面に文房具が並び、中心には真っ白な筆箱が置かれていた。
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■二日目:異物感
涼太は徐々に、クラスの“あるルール”に気づき始めた。
誰も真奈に話しかけない。
目も合わせない。
先生でさえ、彼女に話すときは名前を呼ばず、「そっちの席」と曖昧に言う。
まるで、そこだけ世界から切り離されているようだった。
放課後、涼太が何気なく友人に聞くと、こんな答えが返ってきた。
「真奈? ……ああ、あの子はね。“見ちゃだめ”って、言われてるんだよ」
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■三日目:忘れ物と中身
ある日、真奈が急に早退した。
涼太がふと彼女の机を見ると、筆箱が残されていた。
気になって、手に取ってみる。
中には――
•シャープペン
•消しゴム
•定規
•小さく折りたたまれた紙
その紙が、なぜか涼太の目を引いた。
広げてみると、そこにはクラス全員の名前が書かれていた。
そして――名前の横に、びっしりと「×」の印。
涼太は驚愕した。
だが、自分の名前を見つけたとき、さらに震えた。
「白石 涼太」には、唯一「〇」がついていた。
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■四日目:異変の始まり
翌日から、クラスに異変が起きた。
机が倒れたり、ガラスが割れたり、持ち物が紛失したり。
なぜか、「×」がついていた生徒たちにだけ、不運が集中していた。
「最近、このクラスおかしくない?」
「真奈がまた“始めた”んじゃ……」
ざわめく声の中、涼太は真奈と目が合った。
その瞳は、どこか安堵しているように見えた。
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■五日目:真実と選択
放課後、誰もいなくなった教室で、涼太は真奈に問いかけた。
「……“あれ”は、君が?」
真奈は首を横に振った。
「私は何もしてない。ただ、“書かれてるだけ”。」
「誰に?」
「扉の向こうの子たちに。“×”は、その子たちが決めてるの。見てるんだよ。ここで何があったか。誰がどんな顔をしてたか」
「でも……僕は、なんで“〇”だったの?」
真奈は微笑んだ。
「涼太くんは、最初から私を“人”として見てくれたから。だから、“あっちの子たち”が、君を連れていかないって決めたの」
「……連れていく?」
返事はなかった。
次の瞬間、教室の隅の扉が、きいぃ……っと音を立てて開いた。
その向こうには、×をつけられた生徒たちの笑い声が、かすかに響いていた。
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「×」をつけるのは、誰でしょうか?
先生? 友達? それとも、自分自身?
けれど、どんな印がついていても――そこには、見えない“選ばれなかった理由”が隠れています。
次は、あなたの名前の横に……何がついているのでしょうか?