ともだちカウンター
こんにちは。またお会いできましたね。
今日の記録は、小さな女の子のものです。
“友達って、何人いれば多いの?”
そんな素朴な疑問から始まった話。
子どもたちの世界は純粋です。だからこそ、残酷な真実にも触れてしまう。
扉の向こうに残された数を、あなたも数えてみてください。
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■一日目:カウンターの数字
小学5年の陽菜は、いつも周囲に笑顔を振りまく「人気者」だった。
SNSのフォロワーはクラスで一番。
下校の列はいつも彼女を中心にできていた。
ある日、陽菜のスマホにインストールされていないはずのアプリが出現した。
名前は「トモダチカウンター」。
アイコンには、にこにこと笑う顔と“数字:8”が表示されていた。
(え……何これ? 8人?)
何気なくタップすると、こう書かれていた。
【あなたを「ほんとうの友だち」と思っている人数です】
この数字は、あなたの言動で変動します。
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■二日目:減っていく数字
次の日、陽菜はいつもどおりの明るさで登校した。
でも、ちょっとしたすれ違いで、親友の沙羅に少しキツく言い返してしまった。
その夜、「8」だったカウンターは「7」になっていた。
翌日、陽菜が謝っても、沙羅はどこかよそよそしかった。
それから、気づかぬうちに、数字は減っていった。
「6」──同じ班の子に愚痴をこぼした
「5」──お道具箱を他人のと間違えて怒った
「4」──ゲームで勝った相手を小馬鹿にした
陽菜の周りから、少しずつ、声が減っていく。
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■三日目:孤立と焦り
「ねえ、どうして話しかけてくれないの?」
放課後、陽菜はクラスメートに話しかけた。
でも、返ってくるのは、どこかぎこちない笑顔だけ。
アプリの数字は「2」になっていた。
母に相談しても、「そんなの気のせいでしょ」と笑われた。
でも、陽菜にはわかる。「2」は、本当のことだった。
彼女は必死に愛想笑いを振りまき、プレゼントを配り、褒め言葉を並べた。
けれど、数字は「1」に――そして、翌朝には「0」になっていた。
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■四日目:存在が透ける
朝、陽菜が登校しても、誰も彼女に挨拶をしなかった。
先生も出席を取らない。
目の前に手を振っても、無視される。
「私、ここにいるのに!」
陽菜の声は届かず、彼女の机は“誰かの荷物置き場”にされていた。
「ねえ、私のこと……忘れないでよ」
誰かにそう言いたかった。でも、声がもう届かない。
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■五日目:扉のむこう
放課後、陽菜はひとり、誰もいない教室に残っていた。
そして、ふと気づいた。
教室の隅――ロッカーと黒板の間に、見たことのない木の扉があった。
吸い寄せられるように手を伸ばす。
開いた扉の向こうには、小さな光と“誰かの笑い声”が聞こえた。
「……あ、陽菜ちゃん! こっちにおいでよ!」
懐かしい友だちの声がした。
陽菜は涙を浮かべながら、扉の中へと歩き出した。
誰も気づかないうちに、彼女の机も、名簿も、写真も、すべてが“なかったこと”になっていた。
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“ともだち”の数を数えることは、悪いことではありません。
けれど、その数で誰かの価値を決めてしまうのなら――それは少し、寂しいですね。
あなたは、あの子の名前を、思い出せますか?
もしも、彼女の存在を忘れてしまったとしたら……
また一つ、教室の扉が、音を立てて閉まるでしょう。