枕元でぐるぐる
僕は毎日、変な夢を見る。
僕の年齢は中年。太っていて、額には脂汗が浮いている。全身がかゆい。背中をボリボリ。白のタンクトップとブリーフを身に付けていて、少し黄ばんでいる。いつから服を着替えていないのだろうか。
僕は小さな部屋にいる。ゴミがわんさか溜まっていて、とても臭い。鼻が曲がりそうなくらい。おえっと吐きそうになる。
僕はパソコンをいじっている。アダルトゲームをしていて、オナニーばかりしている。仕事はしていないようだ。目はうつろで生気がない。
いつも両親が食べ物を持ってきてくれる。それを食べて、ゲームをして、オナニーをして、寝るの繰り返し。でも、そんな中年男も本当もこんな人生を送りたくない、と思っている。
ああ。嫌だ。死にたい。こんな世界で生きていても面倒なだけだ。もう40歳。彼女もいない。奥さんもいない。子供もいない。金もない。自信もない。ここから抜け出す勇気もない。ないないづくしだ……。
中年男性の僕は目をつぶった。
すると僕は目を覚ますんだ。額には大粒の汗をかいていて、なんだか気持ち悪い。まだあの小さな汚部屋にいるようで、虫酸が走る。考えるだけで、鳥肌が立ってくる。
僕は置時計を見る。時間は朝の6時。学校に行くにはまだ早いけど、シャワーでも浴びることにする。シャワーを浴びている時に浴槽にある鏡に自分の姿をみる。
16歳の自分は痩せていて、肌もキレイで、あどけない顔をしていた。あの夢の中の自分とは大違いだ。
僕は学校に向かった。歩いていると親友に出会った。
「おはよう」
と親友は声をかけてくれた。
「なんだかさえない顔をしているな」
と僕の顔をのぞき込んで言った。
「最近、変な夢を見るんだ」
「どんな夢?」
「中年の男が部屋で引きこもっていてさ。それが何となく僕に似ているんだ。そう思うと未来の僕みたいで気持ち悪くなるんだ」
「そう言えば、夢ってさ、見ているときに夢だって気づかないじゃん。あれって何でだろう」
と親友はニヤリと笑って言った。その時の笑顔がなにか不気味でニセモノのような気がした。
その時、僕はなぜ目の前に人物を親友と言っているのか疑問に思った。親友には名前があるはずだ。でも、出てこない。なんで? 頭がグルグルする。答えがでない。目の前が歪んでいくような気がする。
僕の通っている中学校は? 両親の名前は? 僕の好きなアイドルは? 初めてオナニーをした時の感想は? 昨日食べた夕飯は? 学校の嫌いな先生の名前は? その先生をぶん殴ってやりたい?
その時、僕はふと気づいた。ここが夢の中なんじゃないかと……。
僕は絶望した。ここは夢の中なんだ。そして、もう少ししたら夢から覚めて、あの異様な部屋に戻ってしまう。
「大丈夫。この夢から覚めたら、キレイさっぱり忘れてしまうからさ。そして、毎日同じ夢を見て、僕と同じ会話をするんだ」
親友の顔がさらに笑顔で歪んだ。気持ち悪い。
「でも、幸せだろう。夢の中で君はキレイなままなんだから」
それは幸せなんだろうか。
意識が無くなりそうだ。そろそろ目覚める時だ。嫌なのに夢は必ず目覚める。夢なら覚めなきゃいいのに。