理性が働かないのはこわい
全身麻酔に関する覚書
医者側からはともかく、患者側から見ると、全身麻酔というのは二種類に分けられる。効果中意識があるかないかだ。僕は少し前に遺憾ながら両方体験することになったのでこうして記しておく次第である。
まず意識がなくなるタイプの麻酔。これは本当にプツンと意識が消える。点滴で入れるタイプだったのだが、液体が入ってきたと思ったら電源を切ったみたいにブツ切れで意識が落ちて次に気付いた時には全部終わっていた。うとうととか意識が消える前兆などない、コンセント引っこ抜いたみたいなシャットダウンだった。人によっては前後に恐怖を覚えるかもしれない。最中は怖がる間もない。
意識があるタイプの麻酔。これは確か大腸検査のために受けたのだが、僕の場合は所謂せん妄に近い状態になっていたと考えられる。意識があったのは確かだが、夢の中にいたような状態で自分が何か口走っていたような覚えはあるが何を口走ったのか確かな記憶がない。医者や立ち会った人間に自分が何を言ったのか聞いたりもしなかったので真実は闇の中である。何かアカンこと言った気がする。理性が行方不明になっていた。そもそも普段全然喋らないタイプの患者なので延々わめいている時点で異常だとは思われただろうが。
泉鏡花の外科室の夫人が麻酔を使うのを拒むのがわかろうもんである。正直、今も自分が何を口走ったのかわからなくて怖いし、もうあのタイプの麻酔は受けたくない。次は何をやらかすのかわからないので。いやまあ、やらかすと言ったって口ぐらいしか動かないのだが。
患者にも見える位置にカメラのモニタが置かれていたのだろう、洞窟の夢を見ていたような感覚はある。あと理性があれば口にしないようなことを言ったような気がする。多分妄想とかするタイプはアカンやつだ。もしかしたら、僕があの麻酔薬と相性が悪かっただけで、意識がはっきりしている人もいるのかもしれないが。
僕は酒を飲んで酔ったこともないので、意識が混濁する経験なんてのはこれと、あと病気の発作で意識がヤバくなった時くらいしかない。記憶力が悪いので後からしたことが思い出せなくなったりはするが、意識があるのにはっきりした記憶はないというのは中々ない。いや、ある意味で寝落ちしてる時の状態は近いかもしれない。何か喋ったりはしないが。
どうも僕は寝落ちした時に予知夢を見ている節があるから、あれはあれで一種のトランス状態というやつなのだろう。(寝落ちした時に毎度予知夢を見ているわけではないし、普通に寝た時は起きる前に忘れてしまっているという確率論かもしれない)。別に見たいものが見れるわけではなく、いつのことかもわからないので、役に立つものではないのだが。予知が役に立つのは学問による計算でないのなら、フィクションの話である。当たらない予知は予知ではないので。
真面目な話、僕が意識が混濁することに対して恐怖を感じるようだ。全身麻酔がトラウマになりすぎている。次に麻酔が必要になったら、意識が完全に落ちる奴がいい。理性が無くなるというのは恐ろしい。酔っぱらった経験も無くて、ある意味BadTripの経験しかないことになるからかもしれない。
理性的に考えて止まれない人を愚かしく思うのもつまりそういうことなのかもしれない。完全に理性がぶっ壊れているわけでもないのに、理性を働かせることができないというのが、信じられない。理性を働かせてやるべきことをして、やるべきでないことを止めるというのは当然のことだと思っている。まあ向き不向き、可能不可能はあるだろうけど。
僕は基本的に日常生活をべきで保っている。三食きちんと摂るべきだから毎日同じくらいの時間に何か食事を摂る。睡眠を一定時間取るべきだから同じくらいの時刻にベッドに入る。衛生を保つべきだから同じくらいの時間に風呂に入る。一定の運動をすべきだから毎日最低限の距離を決めて散歩をする。
まあ物事に集中すると他のことを忘れるタイプでもあるから社会人として正しい生活習慣にはなっていないだろうが。うっかり食事を忘れる(正確には優先順位を下げる)のもわりと度々あることだ。睡眠も眠くない状態で布団に入る方が多い。ただ定時に布団に入るようになって、精神的に余程興奮してたりしなければ30分程度で寝付くようになってきた。稀に猫の突撃とかで起こされることはあるが。ちなみに一度寝付くと基本的に朝まで一度も目覚めない。浅い眠りの時に傍で騒がれたら起きる場合もある。目が覚めた後、普段通りの思考を取り戻すまでの時間もわりと早い方だと思う。なんなら夢の中で通常と変わらない思考をしてみていた夢の分析をしていることもある。
僕にとって理性とは従って当然のものだ。まあ、二次創作(時には一次創作も)は狂気に身を委ねてやるものだとも聞くが。それでも最低限の良識は守るものだろう。創作の狂気は自分の感覚を否定しないことであって、社会通念や人としての最低限のマナーに反旗を翻すことではない。人のしないことをしようとする奴はその時点で凡人の思考から抜けられていない。そうしようと思わず出てしまうのが"本物"というやつである。