妹
妹へ。
おまえが兄と呼ぶ男が
どれほど弱く みすぼらしいか
妹よ まるで わかっちゃいないんだろう
枕に顔をおしつけてすすり泣く声を おまえは
聞いちゃいないんだろう
おまえが兄と呼ぶ男が
ときにはひどく おぞましいこと
妹よ ついぞ 目にしてこなかったのか
やぶいて 散らせた花弁 盃に浮かべた姿
知りなどしないんだろう
おまえの誇りにゃなれねえけども
せめて恥にはなりたかねえと
疵もののつら ひっさげて
陽の目を避けて 端を歩こうか
おまえが兄と呼ぶ男が
どれほどおまえを 想っているか
妹よ ことばに してやるつもりもないが
おまえの幸せを願って ひっそりと消えてくおれを
いつかゆるしてくれるな
おまえの支えにゃなれねえけども
せめて重荷にゃなりたかねえと
棒きれの脚 ひきずって
沼地か砂漠 ひとり旅するか