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情けは人の為ならず、巡り巡って自分の為


あの宴会の後、オオスは飲んだくれの借家持ちから借家を借りた。

そして、チルノに甘味を報酬に氷を作って貰い、保存用の簡易冷蔵庫を作り幾つか売ったりしながら生計を立てたりした。

食べ物の日持ちを良くできる冷蔵庫に似た物は幻想郷でも普及していたがそれなりに高価である。

建築の端材などを利用した結果、オオスの冷蔵庫は従来の品より高性能かつ安価。

口の回るオオスは幻想郷の中間層に貸し出して試して貰うことで確実に評判を広めていった。


結果、あっという間に冷蔵庫販売と氷等の管理運営が事業として軌道に乗った。

それが目的ではないオオスはその事業を人里に来る河童に売り飛ばした。

こうして大して日付も経たない家に纏まった額を手に入れた。

一先ずの金を手に入れたオオスは次の行動に移ることにした。



人里に来て2週間後、オオスは子ども相手に紙芝居をしていた。

デフォルメ化された人物画で話を作り、仕入れた甘味を見物料として売る。

週に2回、毎回話を変えてはべらべら喋る。幸いにも話のネタの引き出しは豊富である。

子どもから大人にも評判を呼び、仕事終わりの夕方に人が大勢集まるようになった。



それは紙芝居を初めて二週間後、人里に来て丁度一月目のことだった。

オオスの行為は財産を築いた者の道楽のように見えなくもないが、意図を含ませていた。

道楽にしては気合が入っていると里人は言う。実際、オオスとしてはこれまでしてきた中でも最も働きがいを感じていた。


オオスの紙芝居には人だかりが出来ていた。寺子屋帰りの子どもから仕事終わりの暇な大人等様々であった。


「吾一は火事で焼けた工場の再建のためにドブに投げ入れられた活字拾いを毎日毎日していました」

オオスが持つ紙には火事と川に物を投げ入れる光景と何かを拾う男の姿があった。


「そんな吾一を見て同僚は言いました。

 『給料もでない、焼けた上に泥に塗れた活字の印等どれほど使えるかもわからない。

  病気にでもなれば主人はお前を見捨てるかもわからない。愚かなことは辞めろ』」

次の紙を捲ると、川でザルを使いドブ攫いしている吾一を見下すような男が向かいあっているようでした。


「一瞬の沈黙の後、吾一は同僚に言いました。

 『自己は主人と同じくまた組合の一員たりとの念を有せざるべからず

  雇人根性に始終する者は大事をなす能わざるべし

  たとい身は小使に過ぎずとも我はこの店の主人なりと常に心がくべし』」

更に次の紙にはドブに塗れながらも覇気を飛ばすような吾一の姿がありました。


「『立身出世したという米国の鉄骨王カーネギーの言葉だ。

 それにここいらが早く片付けば俺達だって早く仕事が再開できる。

 情けは人の為ならずともいうじゃないか』

 吾一はそれ以降黙々と活字拾いを再開し始めました」


次の展開に期待する聴衆の前でオオスが口を開いた。



「お終い」

オオスはそう言って終いを宣言した。



「えぇー!」「続きは!」「吾一どうなるんだよ!!」

気になる引きで終わったので聴衆からブーイングが飛ぶ。


「はい!続きが気になる方!結構、結構!」

オオスはそれも織り込み済みだった。


「続きは何と本にしてあります!ご興味あられる方々は鈴奈庵で私の名をお出しください。

 貸本と並行して販売もしております!」


「ついでにいままで紙芝居でやったお話も近日中に本として出しますのでよろしくお願いします!」

そう言ってオオスは頭を下げた。その瞬間、続きを求めた人々は散っていった。

人々の行先は勿論、鈴奈庵だ。今回は紙芝居だけでなく、本も紹介したいと思っていた。

…一番はオオス的には関係性の薄いかったので接触できなかった目的の人物が来たというのもあった。



人が散ったころ合いにその誰かがオオスに近づいて来た。


「ちょっといいかな?」

そう言って美女がオオスに声をかける。


その容姿は腰まで届こうかという長い銀髪。

頭には頂に赤いリボンをつけ、青い帽子を乗せている。

衣服は胸元が大きく開き、上下が一体になっている青い服。袖は短く白。

胸元に赤いリボンをつけている。

下半身のスカート部分には幾重にも重なった白のレースがついていた。


「ああ、こんばんは。そろそろ来られる頃合いかと思っておりました」

そう言ってオオスは淑女を迎える紳士のように頭を下げた。



オオスは彼女を待っていた。寺子屋の教師、歴史家という職業ならばと思っていた。

子ども達を利用するのも違うが、間接的に伝わるだろう、来てくれるかもしれないとは考えていた。



その銀髪の女性の名は上白沢慧音。

半妖の身でありながら人里のため身を粉にして働く賢人だった。


「次回作は既に本にしてありまして、内容は菜根譚。

 三教入り混じった処世術についてです。よろしければどうぞ」

呆気を取られる慧音を無視するかのようにオオスは本と甘味を差し出した。

聞きたいことがあるが、それはそれとして教師であれば何か人里の為に役立つかもしれないと善意でもある。

紙芝居屋でもやんわりと伝えるが、寺子屋で言われれば更に記憶に残るだろうとオオスは思った。


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