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幻想郷とは?幻想郷

霧の湖から人里へ向けて少女と男が歩いていた。

片方は妖精、もう片方は喪服の男である。

傍から見ると違和感の塊でしかない。とはいえ、それに興味を持つ者はまだ誰もいない。


「オオスはなんであたいの湖にいたのさ?」

チルノはふらふらと飛びながら喪服の男、オオス(偽名以下略)に問いかける。


ここ霧の湖に一人で出歩くのは危険な行為である。

妖精の他にも妖怪が出やすいので余程慣れていない人間はここに来ない。

ましてや目の前の弱そうな人間が霧の濃い湖に来ることは自殺行為に等しい。


「私にもわからなくて…気づいたらあそこにいたので」

オオスは本当に意味わからないというように答えた。

実際、彼視点では意味がわからなかった。何故ここにいるのか、それを推理する材料を欲していた。


「じゃあ、あんた幽霊ね!なんか冷気じゃないのに寒い感じするし」

チルノはオオスを人間かどうか疑わしく思っていた。

何か微妙に知っている人間と違うからだ。

後、何か氷の妖精であるはずの自分が“寒い”と思ったからである。


「ですかねぇ…手足とかバラバラになった挙句脳味噌ぶちまけた記憶あるのに今は服とかも無事ですし」

オオスは笑いながら初対面であるチルノに対して洒落にならないことを言い始めた。

本心から自分の現状を面白おかしく笑っているようである。何もかもわからないと嗤うしかない。


しかし、チルノは殺されてもわりとすぐに復活する妖精である。このことについて特に違和感を覚えなかった。


「幽霊とはいまいち相性が悪いんだけど…オオスは身の程をわきまえているわね」

チルノにとって自分とは違う冷気を持つ幽霊はあまり好ましくない。

だが、これまでの自分に敬意を払っている様子からオオスに対しては気を良くしているようだった。


「恐縮です。…幽霊とか本当にいるのですね。では、ここは死後の世界?」

オオスは興味深げにチルノに尋ねるが死後の世界とは全く考えていなかった。

…それならばどこに行くかわかりきっていた。だが、そこがこことは思えない。

ましてや幽霊等と思っていないが、チルノの言葉を否定しない。


「違うわ。ここは幻想郷よ!」

チルノはオオスに答えた。何を当たり前のことを聞いているのかと言わんばかりの表情だ。


「幻想郷…幻夢境ではない?」

オオスはぽつりと言葉に出した。彼自身、意識しているかどうかわからない程度の声量だった。


「幻想郷は幻想郷よ!」

チルノは答えになってない答えを胸を張り答える。

自分の発言の意味すらおそらくわかっていないだろう。


「ええと、ありがとうございます?」

オオスはあんまりにも堂々とチルノが答えるので取り敢えず感謝を述べた。

やや困惑したが、ある意味で答えを得ていた。


「トートロジー…常識。この場合は…。

 なるほど、つまり幻想の隔離世界。ということは不要となった人間を…」

チルノに聞かれないような小声でブツブツ言うオオス。傍から見ると不審者であり、実際不審者である。


だが、チルノがそれに不信感を抱く前にオオスはとんでもないことを言い出した。


「ありがとうございます。大体わかりました。

 ところで失礼ですが、チルノさんは人肉とか食べます?」

本当に失礼な質問だった。だが、オオスは大真面目に聞いていた。

別に人肉大好きな世界でも構わないが、食文化として一般ならば嫌だった。


「本当に失礼ね!私は食べないわよ」

チルノは憤慨して答える。妖精として当たり前の反応である。


「“私は”…すみません。チルノさん強そうなので私、食べられないかなとか思ってしまって」

オオスは真摯にチルノに詫びる。私はという言葉から推理しているが、情報が足りない。


だが、強そう=食べられるという図式からして脈絡がない。


「まぁ、あたいは最強だから許すけど」

“強そう”と言われて機嫌を取り戻したチルノ。

その姿は年相応の少女のように喜んでいた。


なので、オオスの違和感に気が付かなかった。


「幻想郷最強無敵妖精チルノさんは普段何をされているのですか」

オオスは新聞記者が特ダネを見つけたような様子で質問する。

チルノを知る者からすれば馬鹿にしているのかと思うが、大真面目で言っている。


チルノは文々。新聞の天狗記者に有ること無いことでも良いから自分のことを書けと言い放つ程承認欲求が強かった。

なので、オオスのこの質問にノリノリで答える。


「この間は大ガマの胃腸を思いっきり冷やしてお腹を下してやったわ!

 知ってる?蛙を冷やすと冬眠から目が覚めないのよ!」

チルノは嬉々としてオオスの問に答える。お腹を下すという言葉から推理するが、表面上は変わらない。


だが、実際の所大ガマはほぼ無傷である。

他の蛙を凍らせて遊ぶチルノを懲らしめるために行動を起こした大ガマに飲み込まれかけたという極めて不名誉な敗北だったりする。


物は言いようである。妖精でも新聞記者になれるのではないかなどと魔理沙辺りならば皮肉を言うだろう。


「へえ、それは知りませんでした。他にも凍らせたりするんですか?」

大体言外の事情を察したオオスはそんな素振りを一切見せずにチルノに尋ねる。

“他にも”と言っている辺り悪質である。飲み込まれて吐き出されたと推理した。

つまり、この世界の生命体はチルノより強い可能性がある。とはいえ、最強の妖精と自負する以上は何かあると推測した。少なくともこの一帯の妖精という種族の中では強いのだろうと判断した。


「弾幕ごっこで使ってる『パーフェクトフリーズ』は弾幕を凍らせるたりできるのよ!」

えへんと胸を張るチルノ。見た目は本当に可愛らしい妖精である。

実際凄いスペルカードなのだが、自分でコントロールできないので弾幕の強さはランダムで頻発する割に使えない技とキノコ魔法使い魔理沙から酷評されている。


「“弾幕ごっこ”…エネルギー?

 エネルギーを自在に凍らせる?…熱力学を超越してますね。

 凄いですね。チルノさん。いや、本当に凄い!」

だが、オオスの琴線に響いたようだ。エネルギーを凍結というのは至難の技である。

オオスの知る中ではテクノロジーに頼らずに個人の能力だけでできるのは相当であった。

チルノにはわからないがオオスは本心から褒めたたえている。


「そうよ!あたいは凄い!」

そんな純粋な賛辞に更に気を良くするチルノは純粋に喜び返す。

文字にすると微笑ましいが、喪服の男と妖精であるので他者から見れば絵面はシュールである。


少女にしか見えないチルノに喪服の男がはしゃいでいるのは“外の世界”は通報されるかもしれない。


「ええ、本当に凄い。そんな方に人里まで案内していただけるとは光栄です」

チルノが当初の目的を忘れていないかを確認しつつオオスは深々と頭を下げる。

その行為にどんな意図が含まれているかは本人しかわからない。


深い意味はないかもしれないし、あるかもしれない。

人によっては警戒心を抱くかもしれない。


だが、

「気に入ったわ!オオス!よくわかっているじゃない」

チルノは無邪気にそう言って喜んだ。


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