凄い癒される
帰りの馬車の中でも護衛騎士に向かってグダグダと文句を言う私。
「酷いわ、私のストレス解消癒し行為を邪魔するなんて」
「酔ってとんでもない事を漏らすかもしれないじゃないですか」
機密事項を? ペンダントの事とか?
いくらなんでもそこまで酔うほど外で飲むつもりはなかったけど……信用無いのね。
「そう言えば行きに使った私の馬は!?」
「明日使用人に引き取りに行かせます。じきに公爵邸に到着しますので、今夜は大人しく寝て下さい」
「いや、この怒り感情のまま眠れはしないわ」
「やれやれ」
* *
「アレクシス、私の癒し時間を邪魔しましたね?」
「公爵夫人が花街などに出入りする事がバレたら大変だから仕方あるまい」
「わざわざ念入りに変装、男装していましたよ!」
「それでもだ。脱げば、あるいは感触でバレるのではないか?」
「私は本番しようとしてたんじゃなく、たわわなオッパイにお顔挟んで貰って柔らかい感触で癒されようとしただけなんで、服を脱ぐ必要も無いんですよ」
「お、オッパイだと?」
アレクシスは驚愕の眼差しで私を見た。
「はい、柔らかくて素敵な感触なんで」
「それは……自分にもついているだろう」
「自分のを触っても楽しくもないので」
「…………」
アレクシスはしばし頭を抱えた。
やがて意を決したような顔で、自分の今着ている白いシャツを脱いだ。
!?
「女のような豊満な胸とは言えぬし、顔を挟む事は無理だが、それなりに鍛えているので、胸筋はある」
「え?」
「これに触れる事を許すゆえ、これで我慢しろ」
極上の筋肉は猫の肉球に似た柔らかい感触と本に書いてあった!!
「揉んで……いいのですか?」
「き、筋肉をほぐすマッサージだと思えば耐えられる……はず」
「そこまでの覚悟でおっしゃるなら、遠慮なく!」
私はアレクシスの雄ッパイごと、胸筋に手を伸ばした。
そして、揉む。
モミ、モミ、モミ……。
「や、柔らかい……っ!! これは、とてもいいものですね!」
「感想はいらん!」
アレクシスは耳まで赤くなって羞恥に耐えている。
妻に胸を揉みしだかれるイケメン夫。
なんという献身の心! 私、感動しました!!
さっきまでの怒りが消えていきました!!
「マッサージ、これはマッサージです」
「もういいだろう?」
「……仕方ない、揉み……マッサージはこれくらいにしておいてあげます」
「まだ何かあるのか!?」
「ベッドに横になって下さい」
「だから何をするのだ?」
疑惑の眼差しで私を睨む夫。
「パフパフの代わりに胸に顔くっつけて寝るだけなんです」
「はあ?」
「猫が甘えてるだけと思って耐えてください」
「まだ試練が残っていたのか……」
私はアレクシスを横向きに寝かせて、胸筋に頬をくっつけてみた。
そのまま頬擦りまでしてみる。
これもなかなかいい。ただ、なんか旦那様の動悸が早い。
怒りか? 怒りなんですか!?
でも何とか耐えようとしてる。
これも公爵家を守る為か。そこまで自己犠牲精神があるとは思ってなかった。
ちょっと感動した。
「おやすみなさい」
「これは猫……もしくは犬……」
旦那様は自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟いていた。
マインドコントロールか……。
「むにゃ……あなたも私の胸、触っていいですからね……等価交換ですよ」
「……!?」
やがて胸筋の温もりに包まれ、私は眠りに落ちた。
まどろみながら私の言った台詞に、旦那様は一瞬ビクッとしたようだったけど、私は眠くなったのでそのまま朝まで寝た。
* *
昨夜自室の寝室で眠らなかった私。
朝食前に着替えに戻った時、待ってましたとばかりに声をかけてくるメイドのメアリー。
「奥様、昨夜は……うまくいきましたか?」
「旦那様がベッドで献身的に私を宥めてくれたわ。正直感動しました」
「まあ……!!」
私にたくましい胸筋を差し出してくれた。
くっついて寝るのも許してくれた。
大進歩!!
「第二子は望めそうですか?」
「……そ、それはどうかしら?」
私に胸筋を揉みしだかれ、屈辱に耐えてくれはしたけど、親密度が上がっても、好感度はもしかして下がったかしら?
……私、やらかしたかしら?
でもパフパフのスーパーヘブンタイムを妨害されたのだから、仕方ないじゃない。
怒り心頭だったのよ。
「では、ともかく朝食なので食堂へ向かってください」
食堂にはラヴィしかいなかった。
執事に訊いてみよう。
「旦那様は?」
「旦那様は本日はお食事もせず、お出かけになりました」
「あら、そう。忙しいのね」
後に旦那様はあの皇太子がよこした呪いのペンダントの用件で出かけていたと知ることになる。




