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婚約破棄物にチャレンジしてみました。今日中に完結の予定です。

【side ミナ】



「…………は? あの、もう一度おっしゃっていただけますか?」


 店長室で書類の山を片付けていた私は突然部屋に乱入してきた婚約者である『カール』の言葉が信じられず、思わず聞き返した。


「だーかーらー! お前との婚約を破棄するって言ってんの! 何度も言わせんじゃねぇよ!」


 どうやら自分の耳は正常なようだ。だが、だとすると理解できないことがある。カールが(ミナ)の事を嫌っており、近々婚約が解消される事は分かっていた。だが……


「……申し訳ありません。ですが、なぜ婚約の()()ではなく()()なのでしょうか?」


 そこが分からない。と言うのも、この婚約は、洪水の被害を受けてお金が欲しかったカールの父親である伯爵家当主と、貴族との繋がりが欲しかった商会の会頭である私の父が決めたものだ。


 完全に政略結婚であり、カールへの愛情は私にはない。いや、婚約したての頃は、私にも愛情を育んでいく気持ちもあったのだが、次男で嫡子ではないとはいえ、伯爵家の子供であるカールは、平民の私と婚約せざるを得ない事に納得しておらず、ずっと、私に冷たく当たってきた。そんな相手と愛を育めるほど大人でない私は、結婚に対して願望を持つのを諦め、政略結婚を受け入れる覚悟を決めたのだ。


 だが、伯爵家が立ち直り、父の商会も十分拡大した今、双方とも婚約を続けるメリットは少ない。当人達の関係が良好であれば、婚約を続けても良かったのだろうが、そうではない以上、婚約は解消されると思っていた。しかし、突きつけられた言葉は『婚約の破棄』だ。私が疑問に思うのも当然だろう。


「はっ! 馬鹿が! いいか、教えてやる。婚約中に不貞行為が行われた場合、婚約は『解消』ではなく『破棄』されるのだ!」

「はぁ……それは存じておりますが……。ですが、私は不貞行為を行っておりませんよ?」

「本当に馬鹿だな! 不貞行為を行ったのはミナじゃなくて俺だ! それぐらい考えれば分かるだろ!?」

「……は? ――はぁ!?!?」


 淑女にあるまじき声を上げてしまったが、これは仕方ないだろう。


「何を考えているんですか! 貴方が不貞行為なんて行ったら、私達の信頼が――!」

「――だから、婚約破棄するんだろうが。安心しろ、しっかり慰謝料も払ってやる。…………えっと……ああ、ここだな」


 カールが契約書を取り出して机の上に置いた。よく見ると、それは私達の婚約に関する契約書だ。


「『婚約期間中に不貞行為があった場合、不貞行為を行った側の有責で婚約破棄とする。また、その際の慰謝料は700万ゴールドとする』……だったな。ほら、700万だ」


 カールが私に小切手を渡してくる。そこには確かにカールの名義で700万ゴールドと記載されていた。


(よくこんな大金用意できたわね。今の伯爵家にそんな余裕があるとは思えないし……)


 洪水の被害から立ち直ったとはいえ、まだ以前の状態とは程遠いのだ。700万ゴールドをポンと払えるとは思えない。


「よし、これで婚約を破棄する。いいな?」

「……はぁ。分かりました。もういいです。父に確認しないと正式に回答は出来ませんが、反対されることは無いでしょう。……(だからってなんで今なのよ!)ボソッ」

「『なんで』だと? 原因はそれだ!」


 私は小声でつぶやいたつもりだったのだが、カールにも聞こえたらしい。カールは机の上の書類を指差して言う。


「お前、侯爵家との商談で問題を起こしたんだってな?」

「――!?」

「はっ! 女が会長なんてやってるからそんなことになるんだよ! とばっちりはごめんだからな。()の商会が被害を受ける前に婚約破棄させてもらったのさ」


 言いたい事はいくつもあるのだが、それ以上に聞き逃せない台詞があった。


「……『俺の商会』?」

「ああ。言ってなかったが、俺が会長を務めている商会2つはお前の父の商会から独立する。文句ないよな?」

「はぁ!?!?」


 伯爵家と婚約してから、私達は新しく貴族用の商会を4つ、父の商会の下に立ち上げた。私達の間に変な軋轢が生まれないように、2つの商会はカールが会長を務め、残り2つの商会は私が会長を務めているのだが……。


「待ってください! 確かに会長はカールですが、商会の創業者は私です!」

「ああ。だが伯爵家の威光があったからこそ、商会は設立出来たんだろ? 財産分与って知ってるか? こういう場合、財産、つまり商会は半分ずつに分けるんだよ」

「ぐっ……」


 おそらく、最近はまっているという愛憎劇で身に着けた知識だろう。この男(カール)に法律の知識など、あるはずがない。


「それに、会長業務をこなしているのは俺だからな。安心して退職してくれ」


(会長業務って……私が仕分けした書類に決裁のハンコを押してただけでしょ!)


 とはいえ、言っていることに誤りはなく、ただハンコを押すだけの作業も会長業務として認められるだろう。そうなると、仮に裁判をしても財産分与として商会を分けるという判決を下される可能性が高い。

 

こいつ(カール)と婚約破棄するのは別にいい。でも、商会にはたくさんの従業員がいる。彼らを見捨てるなんて……)


 カールに商会が上手く運営できるとは思えない。仮に出来たとしても、従業員にとんでもない負担を強いる事になるだろう。そんな事、許したくなかったが、今の私にはどうする事も出来ない。


「これでようやくお前から解放される。いやぁ、長かったぜ」

「……そうですか」

「ほんと、辛かったぜ。お前は何もしてくれないくせに束縛は激しいからな。『ジェシー』がいてくれて良かったぜ」


(浮気相手は『ジェシー』っていうのか。興味ないけど一応覚えておこう)


「それは失礼しました。結婚前に肌を晒すようなみだらな真似はしたくなかったので。ですが、束縛した記憶はないのですが……」

「ふざけんな! お前が相手をしないからメイドで我慢しようとしたら、お前が嫉妬して邪魔してきたんだろ! あれが束縛でなくて何だってんだ!」

「………………当家のメイドを強姦魔から守っただけです。決して束縛などではありません」


 カールと婚約した翌日、カールが私達の屋敷に泊ることになったのだが、その日の夜、カールは私と同衾しようとしてきた。いくら婚約を結んだからと言って、その気のなかった私が拒絶すると、意外にもカールはおとなしく引き下がったのだが、なんとカールは、当家のメイドを強引に襲おうとしたのだ。ギリギリのところでメイドの悲鳴に気付き、傷物にされる前に助け出す事が出来たのだが、そのメイドは、今も男性恐怖症に悩んでいる。


「はっ! 俺が相手してやろうってんだから、むしろ感謝しろってんだ。実際、親父たちは大した問題にしなかっただろ?」

「――っ! それは!」


(あんたの父親が土下座して謝ったからでしょうが!!)


 家のメイド達を大事にしている父は、話を聞いた瞬間怒りだし、すぐにでも婚約破棄しようとしたのだが、カールの父である伯爵が土下座して縋りついてきたのだ。それぐらい、当時の伯爵家は困窮していた。なんだかんだ情に甘い父が、伯爵が()()メイドに謝罪する事を条件に今回の事を不問にするとし、その場で伯爵がメイドに土下座したため、大事にしなかったのだという事を、カールは理解していないらしい。


(伯爵()()がメイドに土下座した時点で、『大事』にはしてないものの、『大した問題』だというのに……はぁ。言っても無駄ね)


「……もう結構です。他に用が無いなら帰ってください」

「っち……最後まで可愛げのない女だな。お前だって、一時とはいえ、伯爵家の婚約者を持てて幸せだったろ? じゃあ、あばよ! 俺の相手をしなかった事を後悔するがいいさ!」


 そう言って、カールは部屋を出て行った。


「………………ミナお嬢様」

「ああ、ロロ。聞いていたのね……」


 カールが出て行ったあと、私付きの執事であるロロが心配そうに声をかけてくれる。


「いかがいたしましょうか? ご命令下されば、あのクズを、すぐに始末致しますが……」

「…………やめなさい。アレ(カール)にそんな価値は無いわ」


 冗談ではなく、私が命じれば、ロロはカールを始末してくれるだろう。だが、ロロは執事である以前に、幼い事からの親友だ。大人になってお互い立場があり、主従の関係となってはいるが、私にとっては心から信頼できる大切な親友なのである。そんなロロに穢れ仕事などさせたくない。……少しだけ考えてしまったのは、カールが死ねば、従業員達に迷惑をかける事は無いと思ったからだ。


「ねぇ、ロロ……私、どうしたらいいと思う? このままじゃ従業員の皆が……」


 強引に従業員を私の商会に引き抜けば、カールはすかさず私を訴えてくるだろう。下手をすれば、今あるこの商会すら取られてしまうかもしれない。もはや私に打つ手はなかった。


 私は涙をこらえてロロを見る。『助けて欲しい』という気持ちを瞳に込めながら。


 我ながら、ずるい人間だと思う。自分ではどうしようもなくなると、つい、ロロを頼ってしまう。いつもそうだ。ロロの前では、ついつい弱音を吐いてしまう。そうすれば、ロロが何とかしてくれることを知っているから。


「大丈夫ですよ、ミナお嬢様。従業員の方々には少々混乱させてしまうかもしれませんが、1週間後の決算日には事態が収拾するよう、手配いたします。従業員の皆様にも十分な補填を用意いたしますよ。ですから、どうぞご安心ください」


 ほらね。

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登場人物の関係性や世界観がわからず、何が起きているのか理解しづらいです。物語に必要な前提が欠けており、読者を置き去りにしたまま進んでいく印象です。正直なところ、小説として成立しているとは言いがたい内容…
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