第二話 朝
孤児院で暮らす僕、永久は今日も目覚まし時計が鳴る前に起きた。
起き上がり、時間を確かめると3時過ぎだった。
時計が鳴る時間はいつも6時で、いつも起きる時間は3時だ。
起きた、というより自然と目が覚めた、と言う方が正しいだろうか。
もうこの生活には慣れた、ということだ。
僕はベッドから出て、他の人を起こさないようにしながらドアを開け、隣の部屋へ向かった。
更衣室だ。
僕は学校へ行く為に指定の制服に着替えた。
制服に少し皺があるがこの程度なら問題ないだろう。
そう判断した僕は次に、食堂へ向かった。
もちろん朝食を摂るためだ。
現在の時刻は、午前3時半頃。
孤児院の院長や職員の人さえも起きていないこの時刻。
当然朝食が用意されている訳が無い。
それなのに僕が調理室ではなく直接食堂へ向かった理由は、あいつによる朝食が用意されているからだ。
僕は食堂のドアを開けようとした。
その時、突然向こう側から勢いよくドアを押され、僕はそのドアの角に足の小指をぶつけてしまった。
「っっってぇ!!」
「あ、いたの」
「いたのじゃねーよ!!」
「静かにしてよ。みんな起きちゃうじゃん」
「お前も大概うるせぇじゃねーか」
「それより早く食べようよ」
「クソが」
このクソ女の名前は結羽。
朝食を作っている奴というのは結羽のことだ。
今日のメニューはトースト、ベーコンエッグ、サラダなどの洋食のようだ。
2人でいただきます、と言って食べ始める。
「今日は来るの遅かったじゃない。こっそり男子の方に迎えに行くところだった」
「悪かったね。7分ほど寝坊したもので」
この孤児院は小さいながらも寝室やバスルームは男女でしっかり分けられている。
だが、食堂やリビング等は男女共同で過ごしても良い事になっている。
だから僕はこうして結羽に朝食を作って貰えている訳なんだけど。
「それにしても起きるの早くない?こんなに早く起きなくても4時頃とかに起きればいいのに」
「4時は起きるだけなら良いけど4時半くらいに職員の人が起きてくるから」
「ふーん...なんでそんなに早く起きたいの?」
「...お前には関係ないだろ」
僕がみんなより早く起きたり、朝飯を食ったりいるのにはしっかり理由がある。
もちろん結羽にも言っていない。
「そろそろ私にも教えてくれてもいいじゃん」
「なんで」
「毎日朝ご飯作ってあげてるし」
「お前が勝手に作ってるだけだろ。作れなんて頼んでない」
「だって放っておくと永久はカロリーメイトと水しか口に入れないもん」
「ご馳走様」
僕は食べ終わった食器を水につけておく。
そのまま僕は下の方にある引き出しを開け、カロリーメイトの箱を1つ出して学校に持っていくカバンに入れる。
在庫を確認すると、今カバンに入れた箱が最後のようだ。
「また買ってこないとな...」
「またそれ持って行くの?」
いつの間にか食べ終わっていた結羽が後ろで僕のカバンを覗き込んでいた。
「ああ。腹減るから」
「カロリーメイト好きだね」
「好きって訳じゃないけどね」
僕は学校に行く準備が出来たので、玄関にむかい、声を張った。
「行ってきます」
「行ってら」
僕は玄関のドアを開けた。
今は夏だが風が強めなので、さほど暑くない。
むしろ上着か何か持ってきても良かったかもしれない。
そんなことを考えながら、僕は学校への道を歩き出した。