第一話 苦しい冬とその先に
「えー信、熊本の高校受験するの」
「ああ。もともと高校は地元に戻ろうと思っていたからね。それに高校では弓道したかったし教わるなら良い人に教えてもらいたいからね」
と、高校受験を控えた中学三年の夏休み前日に水無月信と竹宮鈴谷は話してた。
「ここ京都だけど」
「もともと親の都合でついてこさせられただけだからね。熊本好きだったし高校では割と好きにしていいと言われてるからな」
と、話終えた鈴谷は何かを考えている様子だった。
翌日から夏休みが始まり誰かと喋ったり遊んだり暇もなく、熊本の高校を受けるための勉強に励んでいた。
県外から熊本の高校に受かるためには上位五パーセントに入らなければならないためただ受けるよりも難しくなっている。
京都と熊本では受験の形式や問題の形がまったく違うため熊本の過去問や家庭教師などで勉強していた。
勉強漬けの夏休み、お盆に二日間の休みができた。
周りは勉強か帰省で遊べないため俺は一人で町に出ていた。
この時期は特に観光客が多く、面白い出会いがよくある。
現に今までに三人の同い年の外国人の友人ができていて今でもエアメールなどでやり取りをしている。
そんなことを考えながら面白い出会いでもないかと町をぶらぶらと散歩していると少女が一人観光客の外国人らしき人に話しかけられていて困っていた。
「この場所に行きたいのですがどうすれはいいのですか」
「ええとすみません私あまりこの辺りの土地に詳しくなくて」
と、お互いに困ったようにしていた。
「よう鈴谷、何してんの」
「信、ええとこの人がこも場所に行きたいらしくて、だけど私この辺りに詳しくなくて」
「そういうことなら俺に任せて」
と、話すと俺は外国人を見て
「この場所なら俺がわかりますよ、案内しましょうか」
「ぜひお願いします、案内表示だけだとわかりにくかったので」
「そういう人観光に来た人に多いですからね」
と、会話をしながら進んでいる途中
「そういえばあなた日本語上手ですね」
と、俺が質問を投げかけると
「それは小学生の頃にテレビで京都の特集があってそれを見て自分もあそこにいってみたいって思って今まで日本語を頑張って勉強しましたから。でもまだ漢字はなかなか難しくて覚えきれてませんが」
「いいですね、小さい頃に憧れた場所に行くために努力するのは」
「あなたは憧れた場所とかないのですか」
「俺は憧れではないですけど高校生で熊本の高校に行きたいんですよね」
「Oh熊本もいい場所ですよね。あそこは自然がきれいで特に水が美味しかったですね」
と、熊本の話に花をさかせているところで目的地について別れた。
そしてそれまで蚊帳の外で一切喋っていなかった鈴谷が
「よく初めて会った知らない人とあんなに喋れるね」
と、感心した様子で喋りかけてきた。
「こっちに来てから町に出るとこんなことがよくあったからね。逆に町に来ているのはこれをしに来ているまである」
俺の答えに
「物好きだね」
と、言いながら苦笑する鈴谷。
その後は二人で町で遊んだり買い物をしたりして夕方別れた。
それからは夏休みが終わるまでまた受験勉強の日々が戻ってきた。
学校で授業を受けて放課後は受験のための勉強をすることを繰り返すこと五か月。
一番初めの受験である私立の奨学、専願が始まった。
俺ももちろん熊本以外に京都の高校も私立を二つ受験することにしていた。
私立の受験が終わり二月に入った。
俺は熊本の高校を受験するために受験の三日前から熊本の受験校の近くのホテルに泊まっていた。
そして勝負の受験の日になり高校へ向かって驚いた。
「なぜおまえがここにいるんだ。鈴谷」
そう、竹宮鈴谷の姿がそこにはあった。
「なぜって理由は一つしかないでしょ。私もこの高校を受けるんだから」
受験直前に思考が混乱して停止しかけるような驚きがあったが、なんとかテストに集中して解くことができた。
熊本の受験日程は二日に分かれていて、一日目は国、理、英となっている。
そして二日目の明日は社、数となっている。
一日目は難なく乗り切り鈴谷と別れホテルに戻った。
二日目も特に何事もなく乗り切った。
受験が終わり心に残る不安が合否だけとなり帰ろうとしていたところに急に黒い何かが飛んできた。