第88話 ここが、ロイドさんの……
兵士に連れられてきた場所は、王城の中でもかなり奥に行った所にある第一騎士団の訓練場。
見るからに潤沢な資金で作られたであろう施設に、クロエは思わず感嘆の息を漏らした。
本来であれば訓練場に入るには諸々の手続きが必要だが、危険物も持っていない上に蚊も殺せなさそうな雰囲気のクロエなら大丈夫だろうという判断だった。
「こちらで少々お待ちください」
そう言って、訓練場をそばにある待合スペースの椅子に座らされる。
「はい! ご案内くださってありがとうございました。親切にしてくださって、とても助かりました」
クロエがぺこりと頭を下げると、兵士の頬が思わず緩む。
しかしすぐにハッとして気を引き締めた後。
「窮屈な思いをさせて申し訳ございませんが、念の為ロイドさんが来られるまで自分はこちらで待機させていただきます」
「あ、大丈夫です、大丈夫です。素性も証明出来ていない私を一人にするのは良くないですしね。」
「お心遣いありがとうございます。見張りというほど大仰なものではありませんが、一応、規則には則らさせてください」
兵士は敬礼し、クロエの二歩ほど後ろに下がる。
何はともあれ、ロイドの職場に入る事が出来て良かったとクロエはホッと息をついた。
「ここが、ロイドさんの職場……」
ぽつりと呟くと、どこからか漂ってきた鉄の匂いが鼻をくすぐる。
きょろきょろと、クロエはあたりを見渡した。
訓練場全体を囲む大きな宿舎。
大きな広場に設置された円状のスペースには、ぐるりと観客席が設置されている。
おそらく、このスペースで騎士達が剣を交えるのだろうとクロエは予測した。
初めての土地に来た猫のように首を動かすクロエを見て、兵士が口を開く。
「気になるのでしたら、見学していただいても構いませんよ」
「良いのですか!?」
「ええ、もちろん。今はまだ誰も訓練場を使っていませんし。私の目の届く範囲であれば、問題ございませんよ」
「ありがとうございます! では、遠慮なく……」
クロエは立ち上がる。
兵士の配慮に甘えて、クロエは訓練場を見て回った。
騎士の訓練場だなんて、滅多に見学出来るものではない。
それぞれの施設がどんな機能を担っているのかはわからないが、見るもの全てが新鮮でクロエはしきりに頷いて回る。
そんなオーバーなリアクションを披露するクロエを、兵士は何か微笑ましそうなものを見るような視線で眺め……もとい見張っていた。
どのくらい訓練場を見学していただろうか。
トコトコと、外へと繋がる通路をクロエが歩いていたその時。
「誰だ、君は?」
唐突に声をかけられて、クロエは「ぴゃいっ」と身を跳ねさせる。
振り向くとそこには……白い騎士服を着た白髪の男性が、訝しげな視線をこちらに向けて立っていた。




