第84話 わすれもの
「やってしまいました……」
リビング。
食卓の上に鎮座するお弁当を前にして、クロエは呟く。
今日も今日とてロイドのためにお弁当を作ったのは良いが、見事に渡し忘れてしまっていた。
寝不足で頭がいつもより働いていなかったのもあって、最後の最後でポカをやらかしてしまったのだろう。
ロイドも寝不足だったみたいなので、お互いにすっかり抜けていたものと推測する。
「うう……家政婦失格です……」
頭を抱えてどんよりと肩を落とすクロエ。
ロイドがこの場にいたら、『人間誰しも一度や二度ミスはある』と励ましてくれていただろうが、生憎一人のクロエは見事にしょんぼりしてしまうのであった。
「どうしましょう、これ……」
一通り落ち込んでから、改めて考える。
渡し忘れてしまったものは仕方がない。
ロイドには申し訳ないが、今日はこのお弁当を自分のお昼ご飯にする事も考えたが……。
──今日はなかなか、大変な一日になるかもしれん。
ロイドの言葉が思い起こされて、クロエは頭を振る。
このまま放っておいたら、ロイドは昼を抜くか、あのパサパサな携帯食を齧る事になるだろう。
それはダメだとクロエは思った。
今日のような大変な日こそ、ロイドには美味しいものを食べて欲しかった。
ちらりと、時計に目をやる。
昼までまだ時間があった。
今から向かったら、余裕を持って昼前には王城に着くだろう。
自分が行ったら迷惑なんじゃとも思ったが、最悪お城で働くどなたかに言伝と一緒に手渡せば良い。
「……渡しにいきましょう」
呟くと同時に深く、クロエは頷いた。
そうと決まればあとは早かった。
一旦お弁当を開けて、お詫びの印とばかりにおかずを追加して。
お弁当を風呂敷に包んで布袋に入れた。
「よしっ」
準備は万端。
いざ王城へ……と思ったところで、足がキキッと止まった。
「この格好で行くのは、流石にだめっ……」
今着ているのはラフな普段着。
中でも外でも着れるデザインのため普段使いとして気に入ってるが、間違ってもローズ王国で最も厳かな場所に着ていくものではない。
それに、弁当を渡しにいくだけとはいえロイドの同僚の皆さんとも遭遇する可能性だってあるのだ。
ロイドは騎士団の中でも絶対的なエースだと聞いている。
そんな立場にあらせられるロイドの家の家政婦が、野暮ったい格好でのこのこやってきたら……。
(ロイドさんに……恥を掻かせてしまうっ……)
サーっと血の気が引いていく。
危ない、気づいてよかった、本当に。
「この間のドレスは確か……」
気を取り直して、クロエは自分の部屋へと向かってクローゼットを開いた。




