第78話 本屋さんへ
翌日。
ロイドを見送り、いつも通り家事をこなすクロエ。
買い出しも終えたその足で、クロエは意気揚々と本屋へ繰り出した。
事前にシエルに教えてもらった本屋は商業地区の一角にあって、こじんまりとした店構えであった。
お店に入るなり、紙とインクの匂いがスッと鼻を抜けた。
(あ……好きかも、この匂い)
すうっと、深く息を吸い込むクロエ。
どこか心が落ち着いて、ずっと嗅いでいたくなるような匂いで思わず口元が緩んだ。
「ごめんくださーい……」
そーっと言いながら、お店に入ってみるも店番の人が見当たらない。
平日の昼間とあってか、客もどうやら自分一人のようだった。
「お邪魔しまーす……」
入店するにあたって何か入場料的なものを支払う風習も無さそうなので、クロエは店内を散策する事にした。
大きな棚に見た事のないほどびっしりと本が並んだ空間を歩きながら、きょろきょろ見回すクロエ。
「わあ……」
思わず、感嘆の声が漏れた。
お店には大きなハードカバーの本から手のひらサイズの本、何かの文献か資料と思しき紙束まで様々な種類の本が所狭しと陳列されている。
本屋さん自体が初めてのため、見るもの全てが新鮮に映っていた。
(なんだか、落ち着くわ……)
眼を閉じれば、森奥の泉が思い浮かぶかのような静寂。
ざわざわとした露店街の感じも好きだが、こういった静かな空間も良いと思った。
なんとなしに、一冊手にとってみる。
ずっしりとしたハードカバーの本はかなりのページ数があって読み応えがありそうだった。
パラパラと最初の数ページを捲ってみると、この小説が世界各所に散らばる禁断のお宝を巡って大冒険を繰り広げるアドベンチャーものだとわかった。
冒頭の展開から引き込まれてしまい、ふむふむと読み耽ってしまう。
文字の読み書きをつきっきりで教えてくれた、実家で唯一味方だった侍女シャーリーにクロエは心の中でそっと感謝した。
「何か、お探しですか?」
不意に声をかけられて、びくんっと肩が跳ねる。
振り向くと、物腰柔らかそうな男性が笑顔を浮かべて立っていた。




