第74話 アンタは違うね
「やめておけ、これ以上揉め事を起こすな」
フレディの前に立ちはだかり、ロイドが言った。
「はあ? 誰だよおま……」
ルークが言葉を切って、じっとロイドを注視する。
それから面白いと言わんばかりに、口角を持ち上げて言った。
「アンタ、他の奴らとは違うね?」
「俺か?」
「そう、アンタだ。何よりも、目が違う。相当な死線をくぐり抜けてきたのが、ビンビンに伝わってくる」
「ほう……見る目はあるようだな」
ロイドが感心したように息を吐くと、ルークが何かに気づいたようにハッとする。
「そうか、アンタは……“漆黒の死神“?」
「ロイドだ。そのように呼ばれるのは本意ではない」
「へえ……」
お前が噂の、と言わんばかりにじっくりとロイドを見回すルーク。
「どちらにせよ、アンタがこの騎士団のエースってわけか。なら話は早い」
「話?」
まるで長年探してようやく見つけた好敵手を前にしたように、ルークがロイドを指差し言った。
「お前を倒して、僕がエースになる!」
「なるほど」
ふ、とロイドが口元に小さく笑みを浮かべる。
「活きが良いのは良いことだ。だが、ここは第一騎士団の敷地内だ。揉め事を起こすようなら、俺も相応の対応に打って出なければならない」
「へえ、僕とやるっての?」
チャキ……とルークが腰の剣に手をかけ──。
「コラコラそこ! 勝手に戦争をおっ始めようとするんじゃない!」
ぱんっ、とフレディが手を叩き嗜めるように言う。
ロイドは即座にフレディに向き直って頭を下げた。
「申し訳ございません、副団長。説得に失敗しました」
「いや、うん、大丈夫。人には得意不得意があるからね、ロイドが気にすることじゃないよ」
苦笑を浮かべて言った後、再びフレディはルークに向かって言う。
「とにかく、今日はもう帰りなさい。そろそろ昼休みが終わって、午後の訓練が始まるんだ」
「ま、待てよ! せめて一回だけ、ソイツと戦わせてくれ!」
「君はまだうちに入団していないだろう、いわば一般人だ。一般人との私闘は、騎士団のルールによって固く禁じられている」
「……僕にそんな態度をとって良いのか? 後悔することになるぞ?」
「勝手にすれば良いさ。君のお父様が誰だろうと関係ない。ここの責任者は俺と団長だ」
堂々と言い放つフレディに、ルークが言葉を詰まらせる。
追い討ちとばかりにフレディは続ける。
「学園の中では大きな顔を出来たかもしれないけど、ここは子供の遊び場じゃないんだ。自分の好き勝手やりたいんなら、お友達と仲良く騎士団クラブでも立ち上げてそこでよろしくやっていると良い」
フレディが何を言われても屈しない事は一目瞭然だった。
しばし、両者睨み合っていたが。
「…………ちっ」
心底面白くなさそうに舌打ちした後、ルークは背を向ける。
そしてこちらを振り向き、吐き捨てるように言った。
「入団したら、真っ先にお前らをぶった斬ってやる。せいぜい、首を洗って待っておくんだな」
その言葉を最後に、ルークはその場を立ち去った。
「ふー。なんとか一難去った、って感じかな?」
息をつくフレディに、タズがおずおずと口を開く。
「申し訳ございません、副団長。トラブルに巻き込ませちゃって……」
「気にするな。ありゃ回避不可能な旋風のようなものだ。むしろ、ここまでよくぞ耐えてくれた。お前は気が短くて判断力が低下する点が課題だったが、なかなか改善されていると感心したよ」
「ふ、副団長……!!」
「ただし」
じーんと感動するタズの肩に、フレディがぽんと手を置きにっこり笑顔で言う。
「どんな理由であれ、騎士団の敷地内で騒ぎを起こしてお咎めなしというのは、副団長としてちょっと言えなくてな」
「へっ……副団長……?」
「腕立て1000回、今日中にな?」
「りょ、了解いたしましたーーー!!」
タズは悲鳴を上げながら、訓練場の端で腕立てを開始した。
「お疲れ様です、副団長」
「ん、ロイドもお疲れ。なかなか強烈な新入りだったな」
「言うだけのことはありますよ。先ほど対峙している時も、全く隙を感じさせませんでした」
「腕は確かなんだろうけどねー、礼儀とマナーを学園に置いてきちゃったみたいだ」
やれやれと肩を竦めるフレディ。
「確か彼はとある侯爵貴族のご令息で、かなりの英才教育を施されたみたいでね。なまじ才能があったから、どんどん横柄になっていったんだろうね」
「甘やかされて育った事は明白ですね」
「違いない。まあ、いくら高名な貴族とはいえ騎士学園の成績を改竄することはできないから、腕は確かなんだろうけど……」
ちらりと、フレディが悪戯っぽい笑みを浮かべて尋ねる。
「どう? 勝てる?」
「彼の剣は、学校で良い成績を取るための剣です」
「愚問だったか」
苦笑を浮かべるフレディ。
「にしてもなんだか懐かしいな、お前が初めてウチに来た時を思い出したよ」
「あそこまで生意気じゃなかったですよ」
「でも尖ってはいただろう?」
「……俺には、剣しかなかったので」
どこか表情を曇らせて言うロイドの肩に、フレディがぽんと手を置いて。
「成長したよ、お前も」
「どういう意味ですか?」
尋ねるも、フレディは相変わらず軽い笑顔を浮かべるばかりであった。




