第73話 ルーク・ギムル
食堂へ続く通路で言い争う二人。
「一体、なんの騒ぎだ」
騒ぎの元に駆けつけたフレディが言う。
念の為、ロイドも後ろに控えていた。
「ふ、副団長……」
一人はロイドの同僚で、名前はダズ。
年齢は三十代前半で、重量級の体格を活かして攻撃力に全振りしているタイプだとロイドは記憶している。
「すみません、少しトラブルがありまして……」
フレディの顔を見るなり、ダズは慌てて頭を下げた。
一人の青年は見たことのない顔だった。
(……若いな)
ぱっと見、ロイドはそんな印象を抱いた。
十九の自分よりも下、学生だろうかと推測する。
顔立ちは整っていおりまだ少年ぽさを残しているが、どこか隙のない雰囲気を漂わせている。
短く切り揃えた白髪に、琥珀色の鋭い瞳。
身長はロイドより少し低いくらいで、服は騎士団のものではなく紺色のブレザーを着用していた。
「それで、何を揉めているのだ?」
フレディが二人を見渡して言う。
真っ先に口を開いたのは青年の方だった。
「僕は悪くない。そこのデブがいきなりぶつかってきたんだ」
「なっ、デブッ……!!」
ダズが顔を赤くする。
「失敬な! よそ見していたのはそっちの方だろう!」
「僕はちゃんと避けようとした。お前の横幅がデカすぎるのが悪いんだろう」
「このっ……言わせておけば……」
ぶちんと、ダズのこめかみから鳴っちゃいけない音がした。
「失礼にも程があるぞ、貴様!」
ダズが青年に掴みかかろうとする。
「へえ、やるっての?」
ニヤリと、青年が好戦的な笑みを浮かべた。
(殺気……)
毛がぶわりと先立つような感覚を覚えたロイドが、反射的に剣に手を掛ける。
しかし直前で、青年に伸ばしたダズの手をフレディが掴んだ。
「やめないか、ダズ。大の大人がみっともない」
「はっ……しかし……」
「聞こえなかったのか?」
ぎろりと、フレディがダズを睨みつける。
「第一騎士団に所属する身としてふさわしい言動を心掛けろと、常々言っているだろう。感情に駆られ、子供相手に手を出そうとするのは騎士として適切な振る舞いか?」
子供、という単語にムッと眉を顰める青年。
「も、申し訳ございません、副団長。少し、カッとなってしまいまして……」
フレディの言葉に、ハッと我に帰って謝罪をするダズ。
そんな彼の肩を、フレディはポンと叩いて。
「心配するな、ダズ。お前のその甲冑の下に眠っているのは脂肪ではなく筋肉だと、俺はちゃんと理解してる」
言うと、ダズは「副団長……」と感銘を受けたような目でフレディを見た。
「……馬鹿馬鹿し」
小さく、しかし吐き捨てるように青年が言ったのを、ロイドは聞き逃さなかった。
ダズの怒りは収まったと、次は青年に目を向けるフレディ。
「それで、君は? どこのどちら様かな?」
尋ねると、青年は自信たっぷりの表情で、自分の顔に親指を差して言った。
「僕の名前はルーク・ギムル! 誉ある騎士学園を主席で卒業した、次世代のエースだ!」
「ルーク・ギムル……」
眉を顰めるフレディに、ロイドは尋ねる。
「ご存じで?」
「ああ……ギムル家は、王都の中では名を馳せている家名だからな」
「そういえば、自分も耳にした事はあります」
「それに……今年の入団予定の名簿リストに載っていた気がする」
「入団予定……」
第一騎士団は、ローズ王国の中でも選りすぐりの精鋭が配属される最強の戦闘集団で、厳正な審査の結果各団員が強さごとに順位付けされている。
その順位に則って、毎年下位の何人かが退団となり、来年に何人か新たな有力な剣士が入団するという仕組みになっている。
こうすることによって加齢等による騎士団の弱体化を防ぎ、新しい世代の新陳代謝を促進している。
新たに入ってくる騎士は他の騎士団で何年か実績を積んでいるケースが多いが、例外枠も存在する。
王都に設立された騎士学園を主席で卒業、つまり最も良い成績を収めて卒業した者にも、第一騎士団への直入団が認められる。
話を聞く限り、青年改めルークはその枠に該当するようだ。
ちなみに、ローズ王国最強の剣士、剣聖ライウスから強い推薦を受けて入団に至ったロイドも例外枠の一人である。
「アンタが、ここの責任者?」
品定めするような目でルークが尋ねる。
「貴様、副団長に向かって何て口の利き……」
声を上げるダズを、フレディが手で制す。
「次席責任者、だね。第一騎士団の副団長を務めている」
「へえ、だったら強いんだ?」
「そこそこには。副団長という立場に恥じぬよう、日々の鍛錬は怠っていないよ」
挑発的な笑みを向けるルークだったが、フレディは全く意に返した様子なく当たり障りのない返答をする。
「それで、ルーク君は何をしに来たんだ? 入団の日はまだ先だと思うんだけど」
フレディが尋ねると、ルークは愚問だと言わんばかりに鼻を鳴らした。
「見学だよ、見学! 今年から配属される場所がどんな所で、どんな強い奴がいるのか見定めに来たんだ! まあ、といっても……」
フレディ、ロイド、ダズを見渡して。
「見た感じ、僕を楽しませてくれるような猛者はいなさそうだね。入団前から期待はずれって感じだよ」
見下すように、ルークは言った。
ぐぬぬと苛立ちを露わにするダズ。
なんの感情も動いてなさそうなロイド。
フレディは顎に手を当てて、「そっかそっか」と頷き。
「じゃあ、入団は取り消して良いかい?」
「は、はあ!? なんでそうなる!」
ルークが初めて動揺を含んだ声を上げた。
「まだ入団前とはいえ、実質的に上司になる団員への暴言やその舐めた態度……勢いがあるのは良い事だけど、ここは礼儀を尊ぶ第一騎士団だ。君のような態度を取る者は、我が団にふさわしくない」
静かに、しかし確かな圧を伴った声でフレディが言うと、ルークは忌々しげな表情をする。
「……良いのか、そんなことして? 騎士学園主席の僕の入団を帳消しにしようものなら、父さんが黙っちゃいねえぞ?」
「あれ? あんなに威勢が良かったなのにパパ頼みか? 小物感半端ないぞお前」
「貴様……!!」
激昂したルークがフレディに一歩踏み出した途端、ロイドが動いた。
「やめておけ、これ以上揉め事を起こすな」
フレディの前に立ちはだかり、ロイドが言った。
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