第71話 露店市場へ
書籍の内容と合わせる関係で、クロエが実家で言われていた呼称を変更しております。
『忌み子』→『呪われた子』となっておりますので、ご認識いただけますと幸いです。
ローズ王国の辺境の領地、シャダフ。
アルデンヌ辺境伯の次女として生まれたクロエは、生まれつき背中に大きな痣があった。
加えて、生まれた年の周辺で飢饉や身内の不幸に相次いで見舞われたため、母イザベラをはじめとした家族たちはクロエを『呪われた子』として扱い虐げた。
日々、罵詈雑言を浴びせられ、暴力を振るわれ、ボロ雑巾の如く扱われる日々に耐えきれなくなったクロエは家を飛び出し、王都に逃れる。
そこで、第一騎士団所属の心優しき騎士ロイドと出会ったクロエは、彼の家で家政婦として働く事になった。
それから約二ヶ月、いろいろなことがあった。
二人で一緒に夕食を囲むようになったり、毎日おはようおかえりなさいを言い合うようになったり、露店のおばさんを初めとした商業地区の人たちと仲良くなったり、日頃のお礼だとロイドがイヤリングをプレゼントしてくれたり、ロイドの上司フレディの夕食にお呼ばれしたり、公園でたくさんのチンピラに囲まれたところをロイドに助けてもらったり、ロイドと下の名前で呼び合うようになったり……。
実家にいた頃とは比べ物にならないほど、平和で充実した日々を送っていた。
「そろそろ、買い出しに行きましょうか」
掃除や洗濯などのルーティンの家事と、布団のシーツ変えなど一通り家事を終わらせた後、クロエは買い物リュックを背負って家を出た。
「んんー、いい天気」
気持ちの良い陽光を浴びながら、クロエはうーんと伸びをする。
今日の天気は雲ひとつない晴れ。
極寒の冬から徐々に暖かくなりつつあり、春の訪れを感じさせる。
実家のあるシャダフが元々かなり北に位置している上に山に囲まれており、なかなか冬が抜けないという気候事情があったため、この時期にこんなにも暖かいと言うのはクロエにとって新鮮な感覚であった。
やってきたのは商業地区。
今日も今日とてメインストリートは買い物客で賑わっていて、歩いているだけで元気を貰えるようだった。
「えーと、切らしていたものは確か……」
お買い物メモを手に、何店かお店を訪れ消耗品を購入する。
その後は露店のエリアへ向かった。
「よう! クロエちゃん、今日も精が出るね!」
「こんにちは、アルノイドさん。いえいえ、買い物に来ただけですよー」
「クロエちゃんやっほー! 今日も可愛いねー!」
「こんにちは、スノーさん。そんなそんな、とんでもないですよ……」
もはや顔馴染みになてしまったクロエは今日もこうして声をかけられる。
この二ヶ月、商業地区に赴き様々なお店を訪れている中で仲良くなった人たちだ。
世代で言うとお父さんやお母さんくらいの年齢の店主が多い露店エリアにおいて、十代の女の子かつ、人当たりがよく腰も低いクロエが人気者になるのは必然の流れと言えよう。
「やあクロエちゃん、いらっしゃい!」
「こんにちは、シエルさん」
たくさんある露店の中でもクロエお気に入りの店。
初めて商業エリアに来た際に夕食の食材を買った、シエルおばさんのお店にクロエはやってきた。
「シエルさん、今日は魚料理を作ろうと思っているんですけど、おすすめはありますか?」
「今日は北の港町リーデルから仕入れた鱒が美味しいよ! 塩やバター醤油で焼いて食べるとふっくら柔らかくて美味しいさね!」
「鱒! いいですね! ではそれを二匹ください」
「毎度あり!」
「それと……」
そんなこんなしているうちに、夕食の調達を終える。
「毎度あり! またおいでよ、クロエちゃん」
「いつもいつもありがとうございます! では……」
シエルのお店での買い物を終える。
そのタイミングでどこからか甘くて香ばしい香りが漂ってきた。
クロエのお腹がきゅうっと鳴き声を上げる。
「そういえばそろそろお昼時ですね……」
きょろきょろと見渡すと、ひと抱えもある大きな肉の塊をじっくり焼いている露店が目に入った。
その塊から切り落とした肉と、キャベツやトマトを小麦粉で練ったトルティーヤに挟み、片手で食べれる食事──ケバブというものだ。
「今日のお昼ご飯は、あれにしますか……」
前から気になっていたが食べれてなかった事を思い出す。
ごくりと生唾を飲んで、クロエはるんるん気分でケバブ屋さんへ向かうのであった。




