第67話 イザベラの憤慨
「……今日も、成果は無し?」
「…………大変、申し訳ございません」
ローズ王国辺境の領地、シャダフ。
アルデンヌ辺境伯の屋敷の一室に、クロエの母イザベラの呆れ声が落ちる。
イザベラの目の前では、メイド長が床に頭をつけガタガタと震えていた。
「もういいわ。本当、お前達の無能ぷりには呆れを通り越して驚くしかないわ」
「し、失礼を承知で申し上げますが……これだけ探して見つからず、目撃情報のひとつもないとなると……もう、領地の外に出たのは確実かと……」
クロエが失踪して、はや1ヶ月が経とうとしている。
ここまで来ると、もはやイザベラは認めるしか無かった。
アルデンヌ領は、高い標高の山脈に囲まれた盆地地帯。
領地外の平野へ出るためには、馬車でも三日かかる山岳地帯を越えなければならないし、ましてや今は冬。
馬車でさえ通行が厳しい山岳地帯の道のりを徒歩で走破するなぞ、考えられない。
いや、考えたくは無かったが……あらゆる可能性が消えていった結果、もはやその選択肢しか残されていなかった。
「もし仮に領地の外に出たとしたら……どこへ行くというの?」
忌々しげに表情を歪ませ尋ねるイザベラ。
「さ、さあ……私どもには見当も……」
ぱりんっと、メイド長の側でグラスが粉々に砕け散る。
「っ……」
もはや物を投げつけられることは日常茶飯事になっているため、メイド長の反応はびくりと目を瞑る程度で済んだ。
「今すぐ捜索範囲を広げなさい! 手がかりだけでも、なんとしてでも見つけるのよ!」
「は、はい……!!」
イザベラの叱責に、メイド長は逃げるように部屋を出ていった。
「ああ、もう……本当に本当に本当に」
イライラする。
クロエの消息が掴めないだけではない。
屋敷内の料理の質の低下、そして明らかに掃除が行き届かず体調を崩す事も増えた。
そして追撃と言わんばかりに、相次いで使用人が屋敷を辞めていった。
どうやら、屋敷内の使用人の管理もクロエが噛んでいたらしく、給与がちゃんと支払われない、待遇が突然悪くなったと不平が噴出し、耐えきれなくなった者が次々に辞めていったのだ。
屋敷の維持にも人手が必要なのは明白。
生じた空白を埋めるため当主のハリーが必死に募集をかけているようだが、どこかで悪評でも広がったのか、なかなか採用に苦労をしていると聞いている。
クロエが去ってから明らかに生活の質が下がり、ダイレクトにストレスが溜まるようになったイザベラの怒りは計り知れない。
「大変ですね、お母様……」
同じ部屋にいたクロエの姉リリーが、イザベラを労るように言う。
「ああ、愛しのリリー……私の心労を分かってくれるのは貴方しかいないわ」
「本当です。私も、クロエにお気に入りのドレスを奪われてムカついています。今まで育ててやった恩を忘れて盗みを働くなんて……絶対に許さない……」
ギリギリと、リリーは怒りに拳を震わせる。
リリーもリリーで、クロエに対して強く憤慨していた。
「まったくよ、忌み子ごときがここまで私の手を煩わせるなんて……」
二人揃って、クロエへの怨嗟を募らせた。
「そういえばお母様、お願いがあるのですが」
「お願い?」
「はい。ギムル候爵家の御子息様にパーティに誘われまして、今度、王都に参ろうと思うのですが良ろしいでしょうか?」
「まあ、候爵家に!」
表情を一転、イザベラが歓喜の声をあげる。
「さすがリリーね、もちろんよ。雪解けもすぐそこよね。気をつけていってらっしゃい」
「やった、ありがとうございます、お母様!」
リリーは嬉しそうにスキップして、部屋を後にしていった。
「王都……」
一人残されたイザベラは、ぽつりと呟く。
一瞬、頭をよぎった可能性。
そういえば昔、屋敷で雇っていたメイドのシャーリーが、クロエに王都の事について話をしていたような……。
「馬鹿馬鹿しい……」
もしかするとクロエは王都にいるかもしれない、なんてありえない。
王都まで馬車で何日かかると思っているのだ。
暖かい季節ならまだしも、雪積もり真っ盛りの季節に走破できるわけがない。
どうせ領地から近い場所で程なく見つかるだろうと、イザベラはまた都合の良い事しか考えないのであった。
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