第66話 終息
それは、とても美しい光景だった。
すらりと細い剣を構え男たちを見据えるロイドの姿は、紛れもなく騎士の佇まい。
剣を持つために生まれてきたような、そんな姿だった。
ロイドから放たれる剣圧、そして圧倒的な強者のオーラに男たちの体が竦む。
「怯むな! 相手は一人だ! こっちはまだ大勢い──」
アランの言葉が言い終わる前に、ロイドが動いた。
まさに俊速。
目にも止まらぬ速さで、ロイドは軽々と剣を振り男たちの間を駆けた。
「いっ!?」
「ぎゃっ……」
悲鳴と共に、男たちが次々と崩れ落ちる。
「な、なんだ!? 何が起こってる……!?」
気がつくと、立っているのはアランだけとなった。
「ぐっ……いてぇ……」
「ぎゃあああ痛い痛い痛い……!!」
地に伏せた男たちが、思い出したように足を押さえ悲鳴や呻めき声を上げ始める。
先程の一瞬の間に、ロイドは足のアキレス腱や太ももなど、致命傷にはならないが戦闘不能になる箇所を反撃の間すら与えず斬り抜いたのだ。
それはまさしく、一方的な蹂躙だった。
「大勢……なんだって?」
いつの間にかアランの前までやってきたロイドが尋ねる。
「バカ……な……」
信じられない光景に愕然とするアラン。
しかし認めるしかない、自分以外の仲間は全て戦闘不能になった事を。
ここにきてアランは、勝機が完全に潰えたことを悟った。
「お前には二つの選択肢がある」
先程アランがそうしたように、ロイドが二本の指を立てる。
「一つは、大人しく憲兵隊に引き渡されるか、もう一つは、抵抗して俺に半殺しにされるか」
淡々と、温度の低い声でロイドが問いかける。
「好きな方を選べ」
「ふ……ざけ……」
アランの闘争心に再び火がつく。
一度ボコされ、万全の状態で襲撃したと思えばまた返り討ちにされるなぞ、屈辱以外何物でもない。
最後に残ったちっぽけなプライドが、アランの怒りを爆発させた。
「ふざけ……やがってええええええええ!!」
もはやヤケクソとばかりに、サーベルを無茶苦茶に振り回すアラン。
しかしそんな素人の攻撃がロイドに通用するわけがない。
「愚かな」
片手で蠅を払い除けるように、ロイドは軽々とサーベルを弾き飛ばした。
「あぐっ……!!」
手を押さえたまま地に尻餅をつくアランの眼前に、ぎらりと輝く切先が向けられる。
「ひっ……」
顔を上げると、こちらを見下ろすロイドが目に入った。
眼光から放たれる強い殺気に、アランの心臓が握り締められたように冷たくなる。
「お、俺が悪かった! 謝る! もう二度と手なんか出さないし、絶対に近づかない! 金なら全部やる……!! だから……」
「虫が良いとは思わないのか。先ほど俺が謝ったら、お前らは見逃してくれたのか?」
ロイドの問いに、アランは言葉を詰まらせる。
「半殺しで済まそうと思ったが、気が変わった」
ロイドにしては珍しく、怒りを滲ませた声。
「お前は俺の大切な人に危害を加えようとした、生かしておけない」
言って、ロイドは剣を上段に構えた。
「た……助けっ……!!」
「自業自得だ」
天に掲げた剣を、ロイドは思い切り振り下ろし──アランに触れる手前で剣身を横に倒した。
「ごふえっ!?」
ゴンッと鈍い音。
アランの脳天に剣身の横の平な部分が直撃する。
ぐらり、とアランの身体がバランスを失ったように崩れた。
「本当は地獄に送ってやりたいところだが……生憎俺は騎士でな。私怨での殺傷は禁じられている」
大の字に倒れ白目を剥きピクピクと身体を震わせるアランに、ロイドが吐き捨てるように言う。
これで立っている敵は一人もいない。
ようやく、ロイドは息をつくことができた。
すぐにロイドは剣を鞘に収める。
アランに背を向けた後、地面に落ちた玉ねぎとじゃがいもを回収しクロエの方へ歩いていく。
「ロイドさん!」
同時に、クロエがぱたぱたと駆け寄ってきた。
切羽詰まったような、焦りが滲んだ表情。
「すまない、手間取ってしまうおっ」
ロイドの身体にクロエが抱き付く。
「ロイドさん大丈夫ですか!? 痛いところは、お怪我はないですか!?」
「落ち着け、落ち着け」
冷静な声で言って、クロエを身体から優しく離す。
「俺は大丈夫だ。特に怪我もしていない」
「それは……良かったです、本当に、良かった……」
大きな安堵の息と共にクロエが言う。
今にも泣き出しそうな顔で。
心の底から身を案じてくれていた事がわかって、ロイドの胸に温かいものが宿った。
「心配をかけて、すまない」
「いいえ、いいえ……無事で本当に、何よりです」
ふるふると頭を振って気丈に笑うクロエ。
そんな彼女を、ロイドは湧き上がる衝動に身を任せ抱き締めた。
突然の抱擁にクロエは一瞬、驚いたように肩を震わせる。
しかしやがて、クロエもロイドの背中に腕を回した。
まるで、ロイドの存在を確かめるように。
(これまでたくさんの死線を潜ってきたが……こんなにも安心したのは、初めてかもしれないな……)
胸の中にクロエの感覚を覚えながら、ロイドはそんな事を思った。
「何事だ!」
「一体何の騒ぎだ!?」
新たな第三者の声が鼓膜を震わせる。
住民から通報があったのか、憲兵と思しき人たちが公園に入ってきた。
クロエとロイドの姿を確認するや否や駆け寄ってくる。
じきに二人は事情説明のため同行する事になるだろう。
「今日は帰りが遅くなりそうだな……すまない」
「とんでもないです」
ぎゅっと、ロイドを抱き締めたままクロエは言う。
「ロイドさんと、一緒ですし」
間近から見上げてくるクロエの笑顔。
ロイドは息を詰まらせ、思わず顔を背けるのであった。
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