第65話 チンピラたちとの戦い
襲いくる男たちに向かって駆けながら、ロイドは冷静に分析する。
自分もクロエも無事で、襲いくる十五名の武装した男たちを素手で倒し切る確率は……。
(五分五分……いったところか)
ロイド一人で自由に動き回って良いのなら、100%の確率で殲滅できただろう。
だが今回は遮蔽物のない公園で、かつ後ろには死守せなばならない人がいる。
一方的な戦闘ではなく、誰かを守りながら戦うというのはロイドにとっても初めての経験だ。
いくら戦闘センスがずば抜けているとはいえ、考え方も戦い方も別種のものになるため、想定外の事も起こるだろう。
(だが、やれることをやるだけだ)
個人の戦闘力で言えばロイドの方が圧倒的に上だ。
敵は所詮チンピラで正式な戦闘訓練を受けているようには見えない。
ひとりひとり順番に対処していけば、必ず勝機はやってくる。
精神を極限まで集中させ、迫り来る敵の体格、所有している武器、身体及び目線の動きを分析し、どの敵にどのような手段で撃破するか思考する。
まずロイドは手に持っていたジャガイモを一番手前の男の顔面に向けてぶん投げた。
「うごっ!?」
突然のジャガイモ攻撃に顔を覆う男の股をすかさず蹴り上げる。
「か……へっ……」
男であれば決して抗うことのできない究極の痛みに、男は白目を剥いて倒れる。
まずは一人。
「うおらああああぁぁぁぁ!!」
すかさず木の棒を振りかぶって迫るマッシュ頭の男。
ロイドは冷静にもう一つの飛び道具──玉ねぎをぶん投げた。
ボゴォッ!!
とマッシュ男の両目に玉ねぎがめり込む。
「ぎゃあああああ玉ねぎなんでまたあああ!?」
両目を押さえゴロゴロと地面を転がるマッシュ。
前回の戦闘で玉ねぎ恐怖症になった彼は、今回の一撃で一生玉ねぎを口にできない身体になってしまったが、そんなことはロイドの知るところではない。
二人目。
「おおおお!!!」
「うおおおお!!」
今度は二人まとめて襲ってくる。
一人は素手、もう一人は鉄の棒。
まずは鉄の棒をブンブン振り回す男の懐に潜り込み、顎に意識を刈り取る一撃。
「がはっ……!!」
男の手から離れた鉄の棒を掴み、もう一人の男の拳を弾く。
「いでっ……」
情けなく手を怪我していないか確認する男に向かってすかさず鉄の棒で首元を殴打。
男はくぐもった呻き声をあげて倒れた。
ここで一旦、ちらりと後ろに視線を流す。
こちらを不安そうに見つめるクロエの周りに人影はない。
漏らした敵はいないようだ。
安堵し、再び前を向くや否や迫り来る男に鉄の棒をぶん投げた。
使い慣れていない武器は飛び道具にするという一貫した判断であった。
「ぐあっ……」
脛に鉄の棒を受けた男が崩れ落ち痛みに呻く。
これで五人、回復し戦闘に復帰する可能性を考慮したらその限りではないが。
あと十人以上いる敵に向かって、ロイドは再び身を投じた。
◇◇◇
「す、ごい……」
目の前で繰り広げられる光景に、クロエはそう言うしかなかった。
迫り来る男たちを、ひとりひとり的確に撃破していくロイド。
その動きは洗練されており、計算し尽くされた流れるような動作だった。
あっという間に五人の男が地に伏す。
しかし、不思議だった。
(なんでロイドさん、剣を使わないんだろう……?)
剣を使わないでも倒し切れるという自信だろうか。
それとも……。
「まさか、私のために……?」
一気に血の気が引いていく。
剣を抜いて戦えばきっと、クロエのトラウマが発動する。
それを避けるため、ロイドは素手で戦っている……?
そうだ、そうに違いない。
思い至った瞬間、胸に大きな罪悪感が到来した。
「バラバラに攻撃をするとやられるぞ! 固まって一気に仕留めろ!」
金髪ロン毛が叫ぶと、男たちはお互い目くばせし頷き一丸となってロイドに襲いかかる。
「むっ……」
ロイドが眉を顰める。
今までのように一人一人ではなく、一気に複数人対処しなければいけなくなった事により、ロイドの消費するカロリーが一気に増大する。
ロイドはクロエを守るため、一定の位置から奥へは行かないように立ち回っていたみたいだが、徐々に押され気味になっていた。
相手が武器を持っているのに対し、ロイドが素手であることも劣勢の原因だろう。
「おいおいどうしたどうした!? 自慢の剣は使わないのかぁ!?」
アランが高笑いをしながら、ぶんぶんと大振りのサーベルを振り回しロイドに迫る。
少しずつ表情に陰りが目立ち始めるロイドの姿を見て、クロエは悔しそうに歯を噛み締めた。
(元を辿れば、私が原因なのに……!!)
ロイドは身を粉にして戦っている。
私は何もせず一方的に守られてばかり。
それどころか、足枷にすらなっている。
(そんなの、嫌……!!)
さっき、守ってあげたいと言ったのは誰?
ロイドさんの力になりたいって言ったのは誰?
トラウマ?
過去のフラッシュバック?
「そんなの、どうだっていい……!!」
全身に力を込める。
両拳を握り締める。
湧き上がろうとする過去のしがらみを、クロエは己の意志の力で強引にねじ伏せた。
自分はどうなっても構わない。
ロイドさんが怪我をしたり……居なくなってしまう方が、もっともっと嫌!
そんな自分の思いをクロエはハッキリと自覚する。
ロイドは徐々に追い詰められつつあった。
束になって襲ってくる男たちの武器を叩き落とし出来る限り戦闘不能にしていったが、序盤に撃破した男も立ち上がり再び襲いかかってくる。
やがて人海戦術によって身動きが取れなくなった一瞬の隙をついて、アランが大きなサーベルを振り上げた。
「くたばりやがれ!!」
間一髪でその一撃を避ける。
追撃すべく、アランはすぐにサーベルを構え直し──。
「ロイドさん!!」
腹の底から叫ぶクロエ。
「剣を使ってください!!」
ロイドが振り向く。
目が合う。
“いいのか?”とでも言いたげな表情に、躊躇いを微塵も感じさせない強い声でクロエは叫んだ。
「私は……大丈夫ですから!!!!」
「死ねやロイドオオオオオオォォォォォォ!!!!」
再び振り下ろされる巨大なサーベル。
その刹那。
──しゃらんっと、鈴が鳴るような抜剣音。
ガキンッ!!
と、耳を劈く金属の音が公園に響き渡った。
目にも止まらぬ速さで抜いた剣で、アランのサーベルを受け止めたロイドがクロエの方を向き──。
「君の勇気に、感謝する」
ぶわりと、風が凪いだ。
「うお!?」
ロイドが一歩踏み込み放った押し返しの一太刀で、アランが吹っ飛ばされたように後ろにのけぞった。
ロイドが己の一番の武器を手にした事で、男たちに怯みが生じる。
すらりと長い剣身が、月明かりに照らされて煌めく。
鋭い切先をしっかりと目にしたはずなのに、クロエにはフラッシュバックも動悸も来なかった。
むしろ、その剣を構えるロイドから目を離せなかった。
自分を守るために構えられた剣を、ただただ美しいとクロエは思った。




