第64話 復讐
「久しぶりだなあ、“漆黒の死神”……ロイドさんよぉ」
舌舐めずりをするアランを筆頭に、金髪ロン毛のジュスト、マッシュ頭のマッシュ。
そしてその後ろにはずらりと初見の男たちが10人ほど。
皆一様にガラが悪く、鉄の棒やナイフを持っていたりと、いかにも戦闘モードといった様子だった。
男たちが手に持つナイフを目にし、クロエの背筋に悪寒が走る。
「大丈夫か?」
「なんとか……」
フラッシュバックも不規則な動悸も発症していない。
まだ距離があり、月明かりでぼやけているため大分マシなようだった。
「俺の事、覚えてるようなあ? ロイドさんよ?」
アランがロイドを睨みつけながら言う。
「多人数で仕返しとは、あまりスマートでは無いな」
「ああん!? んなもん関係あるか! 俺はお前をボコボコにできりゃそれでいいんだよ!」
唾を飛ばしながら叫ぶアラン。
「俺はな! 来る日も来る日も日雇いに励み、金を貯め、お前の素性を情報屋から買い、毎日のように張り込み続け、やっと今日というお前をボコボコに出来る日を迎える事が出来たんだよ!」
「それは知らんが……南地区で活発な動きをしていたというのは、君たちの仕業だったか」
チンピラ三人の後ろに控える男たちは十二名。
つまり、敵の数はトータルで十五人ほど。
どこからどう集めていたかはわからないが、ロイドにボコされた事を相当根に持っているらしい。
騎士という職業柄、恨みを買うことも珍しくはなかったが、ここまで大規模な執着は初めてであった。
「凄腕の剣士と聞いたからな。悪いが、人を雇わせてもらった」
まるで自慢の軍団を見せつけるように、アランが両手をバッと広げる。
見た感じ、話し合いでどうにかなりそうな気配ではなかった。
「ロイドさん……」
たくさんの敵意に晒され、クロエが不安そうにロイドを見上げる。
「大丈夫だ」
ロイドが守るように、クロエの身体の前に手を翳す。
「君、足の速さは?」
「えっと……平均より少し速いくらいかと……」
「ふむ……」
ロイドが何やら考える素振りを見せる。
「何をヒソヒソ話し合っている? ……まあいい、お前には二つの選択肢がある」
ピンと、二つの指を立てるアラン。
「一つは抵抗してぶっ殺されるか……もう一つは、大人しく半殺しにされて、その女を引き渡すか……」
ニヤリ、とアランが下卑た笑みを浮かべクロエを見る。
「ひっ……」
クロエは思わず後ずさった。
ロイドの拳が硬く握り締められる。
「さあ、どっちがいい?」
これが最後通告だと言わんばかりのアラン。
間髪入れず、ロイドは口を開く。
「決まってる」
「ひゃっ……」
ロイドが軽々とクロエを抱き上げる。
いわゆるお姫様抱っこをしたまま、よく通る声で言った。
「貴様ら全員地獄に落として、俺はこの子と家に帰る」
ぶちいっっっと、アランのコメカミからしちゃいけない音がした。
「……いい度胸だなあおい!! お前ら!! 今すぐあいつをやっちま……」
言い終わる前に、ロイドが背を向け全力でダッシュした。
突然の逃亡にアランは一瞬呆気に取られたが、すぐに指示を飛ばす。
「逃がすな! 追え!」
男たちも走り出す。
一方ロイドは、クロエを抱っこしたままものすごい速さで駆けた。
「ロイドさん!? そっちは……」
「出口は敵に封鎖されている。そもそも逃亡は悪手だ、余計な被害が及ぶ。ここで君を守りつつ、全員殲滅する」
全く息を乱す事なく淡々と言ってのけるロイド。
公園の四隅のひとつ……言い換えると、クロエを守れる範囲が広い場所で足を止める。
「君はここに居ろ。決して目を閉じるな、俺が仕留め逃した敵が迫ってきたら大声で叫べ」
「で、でも……」
地面に下ろされたクロエが、不安そうな顔でロイドを見上げる。
「大丈夫だ、対複数人戦は慣れている」
クロエの肩に手を置いて、安心させるように言う。
それから、クロエがサラから貰った紙袋から玉ねぎとじゃがいもを一つずつ取り出し。
「だが……万が一のことがあったら、すまない。全力で逃げてくれ」
最後にそう言って、身を翻した。
「ロイドさん……!!」
クロエの声を振り切って。
ロイドは男たちの群れに突っ込んでいった。




