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【完結】ド田舎の迫害令嬢は王都のエリート騎士に溺愛される【第3巻 11/10発売】  作者: 青季 ふゆ@醜穢令嬢 2巻発売中!
第一章

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第62話 ぬくもり

 身体が何かに突き動かされた。

 ロイドの前に立って、彼の頭を抱え込むように抱き締めた。


「……急に、どうした?」

「わかりませんっ……」


 湿った声で、勢いよく頭を振るクロエ。


 自分でもなぜ、こんな行動に出たのかわからなかった。

 ロイドの生い立ちを耳にして、胸が捻られるように痛くて、思わず涙が溢れそうになって。


 行き場のない感情をとうとう抑えられなくなり、気がつくと抱き締めていた。


「……すまない、混乱させてしまったようだ。正直、ここまで話すつもりはなかった」

「そんな、謝らないでくださいっ……」


 ロイドに謝ることなんて一つもない。


(むしろ謝るのは……私の方だ……)


「ごめんなさい……私の軽率な要望で、辛い事を思い出させてしまい……」

「それこそ気にすることはない。俺が話したくて話したんだ。君の方こそ、謝るのはお門違いだ」


 すぐ耳元でロイドの声がする。


 自分の腕の中に、ロイドの体温を確かに感じる。

 地獄のような日々を経てもなお、彼が確かに生きている事の証明。


 その事実が、余計にクロエの心をかき乱す。


 頑張って押し込めていた感情が、形となって目元から溢れ出る。


「……泣いて、いるのか?」

「ないでまぜん!」

「どう聞いても涙声なのだが……」


 とめどなく溢れ出す涙を隠せるほど、クロエは器用じゃない。

 あまりにも理不尽で、残酷で、救いようのない彼の過去。


 普通ならきっと、家族の愛に包まれてたくさん笑顔を浮かべている筈の年齢の時にロイドは。


 たくさん痛い思いをしてきたんだろう。


 怖い思いをしてきたんだろう。

 

 とてもとても、辛い思いをしてきたんだろう。


 そんな思いが次から次へと溢れ出てきて、クロエは例えようのない激情に駆られていた。


 そんなクロエに、ロイドが落ち着かせるように言う。


「もう昔のことだ。両親の死も、養成所での日々の事も、俺の中で折り合いがついている。だから、君が気に病むことはない」

「でもっ……それでも……!!」


 ぎゅうっと、ロイドを抱き締める腕に力が籠る。


「こんなの、あまりにも……」


 ロイドさんが可哀想、と口にするのをすんでのところで飲み込んだ。

 彼も、何も同情されたくて明かしたわけじゃない。


 言うなれば自分が勝手に同情して、哀れんで、可哀想に思っているだけだ。

 そんな自分の一方的な気持ちを押し付けられるのは、ロイドにとっても迷惑……。


「……君は、優しいな」


 そんな言葉と共に、クロエの腰にロイドの両腕が回される。


「ひゃっ……」


 突然の感触に思わず声が漏れる。


「すまない、嫌だったか」

「い、嫌じゃないですっ……少し驚いただけです、大丈夫です」

「……そうか」


 離れようとする両腕に上擦った言葉をかけると、また背中に力が籠る。

 不思議と、ロイドからの抱擁をクロエはすんなり受け入れた。


 自分よりも大きな腕、力強い圧迫感、鼻先をくすぐる妙に落ち着く匂い。

 先程、胸の中を渦巻いていたものとは違ったドキドキがやってくる。


「騎士として、男として、情けない行為だという事はわかっている」


 聞いた事ないような、弱り切った声。


「すぐに、離す。だから、ほんの少しだけ……君の優しさに甘えさせてほしい」

「そんなの、気にしないでください」


 ロイドがいつも自分にやってくれるのと同じように。

 彼の柔らかい髪をそっと撫でながら、クロエは慈しむように言葉を紡ぐ。


「ロイドさんは、騎士や男である前に、ひとりの人間です。ひとりの人間が、そんな辛い経験をしてきたのなら……誰かに縋りたくなるのは、当たり前の事です」


 クロエもクロエで、人並み以上に苦痛を強いられる日々を送ってきたからこそ、その気持ちは痛いほど共感できた。


 クロエの場合、子供の頃に嫌な事があって泣いていたら、シャーリーがそばにいてくれた。

 大丈夫ですよ、お嬢様、私が味方ですよって、抱き締めて頭を撫でてくれた。

 

 それがクロエにとって大きな救いになった事は言うまでもない。


 でもロイドには多分、誰もいなかったんだろう。

 こうやって抱き締めてくれる人が、誰も。


「だから、遠慮なく私に甘えてください……いえ、ロイドさんは甘えるべきです」


 子供に言い聞かせるようにクロエは言う。

 こんな時くらいは寄りかかってほしいと、クロエは思った。


 思い返せばロイドは、クロエの前で情けないところも、弱いところも見せた事がなかった。


 騎士として、騎士としてと、弱音ひとつ吐く事なくいつも毅然と振る舞っていた。


 しかし過去を聞いた上で考えると、幼少期から『より強くあること』を強制された結果、ロイドの身に刻まれた呪いのように思えた。

 

(私がロイドさんの救いに……というのは、烏滸がましいのかもしれないけど……)

 

 おそらく四六時中、ロイドは息をつく間もなかったのだろう。

 そんな彼のひとときの安らぎくらいにはなりたいと、クロエは強く思った。


 そんなクロエの心中を察したかは定かではないが。


「……ありがとう」


 ただロイドはそれだけ告げて、クロエの提案を受け入れた。


 強張っていたロイドの身体から、力が抜けていく。


 しばらくロイドは、クロエに身を預け、大人しく撫でられ続けた。

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大当たり令嬢はニ度目の人生を謳歌する〜死にたくないので100億マニーを手に隣国へ逃亡します〜



― 新着の感想 ―
[一言]  クロエちゃんマジ天使…(尊い…)
[良い点] 不幸の種類は違っても、同じ不遇な幼少期を過ごしたもの同士、少しは気持ちもわかるのでしょう。 [気になる点] クロエさんがシャーリーさんから優しくされていなければ、ロイドさんに何も言えなかっ…
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