第60話 君には話したいと思って
いつもの公園。
オセロを助けた大きな木のそばにある。木製のベンチに座るふたり。
やけに明るい満月の光が、あたりを照らしている。
「急に改まって、どうしたのですか?」
クロエが尋ねる。
少し間を置いてから、ロイドは口を開いた。
「俺の過去について、少し話しておいた方が良いと思ってな」
「ロイドさんの、過去……?」
クロエは息を呑んだ。
それはまさしく、クロエが知りたいと思っていたものだったから。
「……興味がないのなら、言ってくれ。俺の身の上話なぞ、なんの面白みも無いだろうし……少し、重い話になるかもしれない」
「い、いえっ……!!」
思わず、クロエは声を上げた。
「興味、あります。ちょうど私も……どこかのタイミングでお聞きしたいと、思っておりました」
「……そうか」
ロイドは微かに安心したような素振りを見せる。
「でも……なぜ、急に?」
「なぜ、か……」
少し考えてから、ロイドは言う。
「思えば、君から話を聞くばかりで、俺の事は何ひとつ話していないと気づいてな。それはあまり、フェアじゃないと思った」
「そんな、私の方こそ……色々と話していない事が多々あります」
「とは言っても、君は自分の事情について、多少なりとも話してくれただろう。俺は皆無だ」
「それは……」
確かにそうだ。
ロイドからは家庭や生い立ちに関しての情報の一切を聞いていない。
浮かぶワードは『ジャングル』くらいだ。
「それと……今日、副団長の家で過ごす中で、少し思うところがあったというか、話したい気分になった。自分でも、よくわからないのだが……なんにせよ、誰にでも話したいわけじゃない」
クロエの目をまっすぐ見て、ロイドは言う。
「君には、話しておきたいと思ったんだ。」
「なる、ほど……」
君にだけ、という言葉に、クロエの胸に温かいものが灯る。
信頼してくれてるんだ、と思った。
余韻に浸る間も無く、クロエも真剣な面持ちで切り出す。
「聞かせてください、ロイドさんの過去を」
間髪入れず、ロイドは口を開いたが……すぐ閉じた。
それから首を少しだけ傾げ、考え込むような素振りを見せる。
「……すまない、少しだけ時間をくれ。時系列を頭の中でまとめる」
「焦らないでください、大丈夫ですよ。私はいつまでもお待ちしますから」
本当に、今まで他人に話した事がないのだろう。
だから、どういう手順で話すかわからないのだと、クロエは察する。
「……ありがとう」
それからしばらくして。
「物心ついた頃に、俺の両親は事故で死んだらしい」
重たい口を、ロイドが開き始めた。




