第57話 フレディの感謝
「副団長という立場になるくらいは、騎士団内で俺は結構古株でね。ロイドが騎士団に入団してきてから今まで、ずっと見てきているわけよ」
懐かしそうに、フレディは目を細めて続ける。
「一緒に住んでいたらわかるだろうが、ロイドは感情表現が下手というか、ズレていると言うか……一匹狼なところがあってね。剣技や格闘術の実力はピカイチだが、協調性は無いという点で、俺を含めた上司陣は頭を悩ませていたんだ」
「そんな過去があったのですね……」
フレディが口にしたロイドの特徴には心当たりがあった。
クロエにとってはそれは逆に可愛らしいというか、不器用なところも良いなと感じているのだが、仕事上の付き合いだとそうもいかないのだろう。
「正義感が強く、根は真面目で良い奴なんだけどな。生い立ちが生い立ちな分、やはり人との接し方が不得手なんだろう」
「ロイドさんの、生い立ち……」
「なんだ、聞かされてないのか。……まあ、自分から言うようなものでもないか」
妙に真面目な調子でフレディは言う。
今のところ、ロイドの経歴や生い立ちに関する情報はほとんどない。
家族のことも一切話さないし、よく出てくるキーワードは“ジャングル”くらいだ。
ジャングルでは~とロイドが口にするたびに、クロエは妙にツボってくすりと笑っていたが……。
もしかすると、ジャングルで本当に過酷な思いをしていたような経緯がロイドにあるのでは無いかと、クロエは推測する。
「ま、その辺りは本人から聞けば良いさ。俺が言うようなものでも無いしな。とにかく、ロイドはここ最近、変化が生じているみたいでね」
「変化、ですか?」
そういえば先日、ロイドが「フレディ副団長に変わったと言われた」と話していた。
「ああ、前よりも積極的に話すようになったというか、棘が無くなってきたと言うか……人当たりが良くなっていってるように見えてな。多分、クロエちゃんのおかげだと思う」
「いえ、そんな……」
胸のあたりで擽ったさを覚えつつ、クロエは言う。
「私は……特に何もしていませんよ、むしろ私の方が、ロイドさんに色々助けてもらっていると言いますか……」
「特段何もしていない、ありのままのクロエちゃんが、ロイドにとって良いんだろうね」
「……というと?」
不思議そうに首を傾げるクロエに、フレディが小さく噴き出す。
「そのピンときていない感じの部分も含めて、だな。まあ、わざわざ説明する必要もないさ。無自覚なのが、一番良い」
やはりフレディの言葉の意味がわからず、頭上に『???』を浮かべるクロエ
「何はともあれ、クロエちゃんがあの堅物ロイドを良い方向に変えていってるのは間違いない。そしてそれは、俺を含めた団員にとっても喜ばしい事なんだ」
「んんんー……私が何のお役に立っているかはわかりませんが……喜ばしい事なのでしたら、良かったです」
「うん、ありがとう」
フレディから率直な感謝の言葉を貰って、胸の奥あたりがより擽ったくなる。
「これからも、あいつのそばにいてやってくれ」
「私がやらかしてロイドさんにクビにされない限りは、一緒にいたいと考えております」
「クビになるような事はしないだろう、クロエちゃんは、悪意はないんだろうし」
「そうですね、悪意を持つ事はないと思います」
今までずっと悪意を向けられてきて、その辛さがわかっているから。
決して自分は、他人に悪意を向けまいと決めているクロエであった。
ちょうどそのタイミングで、不服そうな表情をしたロイドが戻ってきて言った。
「フレディ副団長、交代のお時間です。俺は出来の悪い息子らしく勘当されました」
「何をやったらそうなるんだ」
やれやれと、フレディは両掌を天井に向け肩を竦める。
「パパ早くー」
「すぐ行くよ! さあじっくりと見ているんだぞロイド、家族ごっこ歴一年のこの俺が、模範的な息子役というものを披露して……」
「あ、お母さんも戻ってきた! じゃあ、パパはペットの役ね!」
「おうふ」
こうして、家族ごっこ第二回戦が始まり、入れ替わりでクロエの隣にロイドが座る。
「家族ごっこは楽しめましたか?」
「なかなかに奥の深い遊戯だった。俺は息子として当然の行いをしたと思っていたが、どうやら父上の意にそぐわなかったらしい」
「ちなみに何を?」
「自身をより一層高めるため、山籠りの修行に出かけた」
「それは勘当されますよ」
「そうなのか」
目をぱちぱちさせるロイドに、クロエはくすりと笑みをこぼす。
「家族、かあ……」
ぽつりと、小さく呟くクロエ。
フレディ、サラ、ミリアの三人で幸せそうに遊ぶ姿を、クロエはどこか羨ましげに眺めていた。
そんなクロエの横顔を、ロイドは真面目な表情で見つめていた。




