第52話 忍び寄る影
「ロロロロイドさん……!?」
露店通りを歩いている途中、急にロイドに胸に抱き寄せられ狼狽するクロエ。
「きゅ、急にどうしたんですか……?」
「…………いや、気のせいか」
きょろきょろと周囲を見回した後、ロイドは息をつく。
「気のせい?」
「ああ、いや。何やら強い視線を感じてな」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
しかし、間近で見上げたロイドの真剣な表情を見た途端、クロエの緊張の糸が張り詰める。
「だ、大丈夫なのですか……?」
「念の為周囲を警戒したが、尾けている者もいなさそうだ。おそらく……気のせいだろう」
「それなら、良かったです」
ほっとクロエは息をつく。
が、自分がロイドの胸に抱かれている事を再認識してぼんっと顔から火を吹いた。
それに気づいたロイドがクロエを解放して頭を下げる。
「すまない、急に抱き寄せてしまって。驚かせてしまったな」
「いえいえいえっ……大丈夫、です……むしろ守ろうとしてくれて、その……ありがとうございます……」
俯き、礼を言うクロエ。
僅かに口角を持ち上げ、照れ臭そうにするその仕草は非常に庇護欲を掻き立てられるものがあった。
「騎士たるもの誰かを守る事が存在意義であり最も重要な任務だから当然なことをしたまでだ問題ない」
「なんでそんな早口なんですか?」
「……わからん」
実際、よくわかっていなかった。
クロエと一緒にいると、たまにいつもの自分ではなくなる瞬間がある。
体温の上昇、心拍数の増加、正常な判断が出来なくなる思考の乱れ。
それらの現象は十九年生きてきて初めての経験で、ロイドはたびたび戸惑っていた。
そしてそれは、日に日に増えているように思えた。
「変なロイドさん」
くすりと、クロエが小さく笑う。
その仕草ですら、ロイドの胸をざわざわと波打たせてしまう。
「……夕食の買い物は、大丈夫なのか?」
一旦クールダウンすべく、ロイドが尋ねる。
「ああ! そうでしたそうでした、行かないとですね」
「この通りをずっと行けばあるのか?」
「はい! 本当は違う通りに行きつけのお店があるのですけど、今日はお休みなんですよねえ……店主さんがとても明るくて優しいお方なので、是非ロイドさんもと思っていたのですが」
「残念だが、休みなら仕方がないな」
本来の目的を思い出し、ロイドとクロエは店へと足を向けるのであった。
◇◇◇
ロイドとクロエが晩御飯の食材を買いに行った同時刻。
「……あっぶない。あの距離で気づくとか、どんな察知能力だよ」
どこかの裏路地で、息を荒くした人影──マッシュ頭のマッシュが毒づく。
先程まで彼は、とある人物を捜索していた。
そしてその目当ての人物を発見したため、仲間の元に帰ってきた次第である。
「奴を見つけたというのは本当か!?」
マッシュの元に、仲間のチンピラ──大柄でスキンヘッド男のアランと、金髪ロン毛のジュストがやってくる。
「ああ、間違いない。僕に玉ねぎの恐怖を与えたあの顔、忘れるわけがない」
「おお、でかした!」
ジュストがマッシュの背中を叩く。
「足取りは掴めたか?」
「それが……」
アランの問いに、マッシュは言いにくそうに答えた。
「見つけて、後を尾けようとしたんだけど、一瞬で気づかれちまったみたいで……すぐ隠れたから姿は見られてないけど、どこに行ったかは……」
「なるほど、視線で気配を察知するたあ、厄介だな」
忌々しそうに歯軋りするアラン。
「だが行動範囲は絞れた。情報によると、商業地区を少し外れた場所に騎士どもの寮があるらしい。おそらく、そこに住んでるんだろう」
アランの推測に、ジュストとマッシュが頷く。
「やっとだ、やっと見つけられた……クソッ、モルガンの野郎、足元見やがって……」
アランは思い起こす。
最初、情報通のモルガンに五万コルンで提供されたのは、アランたちを返り討ちにした青年の身分と名前だけだった。
王都第一騎士団所属の騎士、ロイド。
それ以上の情報──特に所在はたんまり追加料金がかかるぞと下卑だ笑みを向けられ、苦渋の決断で断った。
一人とはいえ、相手は第一騎士団所属の騎士。
彼の戦闘能力は、前回ボコボコにされたおかげで身を以て実証済みだ。
三人で襲いかかってもたちまち返り討ちに遭うだろう。
なのでアランたちは、自分たちの他に仲間を雇う必要があった。
それ故、残った金はそちらに回し、ロイドを探すこと自体は自分たちの足で頑張る事になったのだ。
もう少し頭を使えば、ただ探し回るだけではない方法でロイドの所在を突き止める事も出来ただろうが、残念な事にアランたちにそこまでの頭はなかった。
しかし地道な徘徊の甲斐あってか、ついに先程マッシュがロイドを見つける事に成功したのである。
「奴は第一騎士団の中でも腕の立つ騎士との噂だが、関係ねえ……」
身体もプライドもボコボコにされたチンピラ三人衆の怒りは止まることを知らない。
「もうすぐ仲間も集まる。人気のないタイミングを見計らって奴をブチのめすぞ」
「おう!」
「うん!」
路地裏に、威勢の良い声が響き渡った。
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