第51話 良いところ
「重くないですか……?」
ドレスショップを出た後。
両腕にどっちゃり買い物袋を持ってメインストリートを歩くロイドにクロエは尋ねる。
「問題ない。全身フル装備でジャングル走破した時に比べると、背中に羽が生えているくらいだ」
「ジャングルを前にしたら大抵の苦難は無いも同然になりそうですねえ……」
もはやお馴染みとなったツッコミを入れた後、クロエは言う。
「その……重ね重ねすみません、色々買って頂いちゃって……」
「謝る事はない、君が喜んでくれれば、それで良い」
「……はい、とても嬉しいです。ありがとう、ございます」
ロイドは、何かを買ってやったからと言って見返りを求めるような人ではない。
それは、この二週間でクロエは重々理解していた。
(だから、今は素直に喜ぶ、べきだよね……)
その感情を体現するように、クロエは笑顔を浮かべてロイドにより近く身を寄せた。
「何か、行きたい店とかあるか?」
「あ、でしたら少し露店の通りに寄っても良いですか? せっかくなので、明日の材料を買いたいなと」
「問題ない。ちなみに今日の晩御飯はなんだ?」
「特にまだ決めてませんので、お店で決めようかなと。何か食べたいものとかありますか?」
「肉か魚か卵か大豆」
「理解できました」
相変わらずですねえと、クロエは苦笑を浮かべ露店の通りに向かう。
「ようクロエちゃん、買い物かい……って、やけに今日はべっぴんさんだなあ!」
「こんにちは、アルノイドさん。はい、ドレスと夕食の材料を買いに来ました。ちょっとだけお化粧をしてみたといいますか……」
「やっほークロエちゃん……って、今日めっちゃくちゃ可愛くない! どうしたの!?」
「こんにちは、スノーさん。いえいえそんな……私は何もしていませんよ」
時たま、露店の店主や道ゆく人に声をかけられ受け応えていくクロエに、ロイドが目を見張る。
「……まだ王都に来て二週間では?」
「皆さん良い人で、気さくに話しかけてくれるんですよー」
ぽや〜とした感じでなんでも無い風に言うクロエに、ロイドは戦慄する。
「いや……君個人の特性だな。誰とでも仲良くなれるそのスキルとでも言うべきか、本当に凄いな」
「と、突然褒めちぎらないでくださいっ、心の準備が必要といいますか……」
「俺は思ったことを言ってるだけだ。君のそのスキルは俺には無いものだから、素直に尊敬する」
「う、ううー……恥ずかしいです……」
顔を覆い頭を振るクロエ。
「でもでも! ロイドさんにもたくさん、凄いところがありますよ!」
「俺にか? どこにも見当たらない気がするが……」
「自分の良いところは、自分では案外気づかないものですよ。元から持っていて当たり前なので、人に言われてもピンと来ないことが多いのです」
「そういうものなのか……なるほど、わからん」
「ええー、たくさんありますよー。例えば──」
──それは、なんの前触れもない不意打ちだった。
突然、ロイドがクロエを自分の胸に抱き寄せた。
「ロロロロイドさん……!?」
胸板の固い感触。
ふわりと香る落ち着く匂い。
クロエの心臓の脈が一気に早くなった。




