第47話 繋がり
思いがけないことが起こって、クロエは困惑していた。
買い物帰りにミリアと公園で再会したかと思ったら、まさかまさかのロイドとも鉢合わせた。
「ロイドさん、なぜここに……?」
「何故って……パトロールの最中で、たまたま通りかかっただけだ」
「あ、仰ってましたね。すごい偶然です!」
ぱあっと表情を明るくして言うクロエ。
「お猿のおねーさん、知り合いー?」
「えっ……あ、うん! えーと、私の雇用主……は難しいよね、んー、ご主人……様?」
「おいロイド、お前そんな趣味があったのか」
「違いますから」
フレディは、ロイドとクロエを交互に見やって、一気にニマニマ顔になった。
「ほーう、ほうほうほう……なるほど、この子が例の家政婦ちゃんかー」
「…………はい、そうです」
クロエの耳で輝いているイヤリングは、まさしくフレディがチョイスした一品だ。
誤魔化せるわけがないと、ロイドは諦めのため息をついて認める。
「ロイドさん、そちらの方は?」
「この方は……」
「はじめまして、ローズ王国第一騎士団の副団長、フレディと言います。以後、お見知りおきを」
完全によそ行き用の挨拶をするフレディに、クロエも慌てて頭を下げる。
「こ、こちらこそはじめまして! クロエと申します、ロイドさんの家で家政婦をしております。えと……よろしくお願いいたします」
「まあそんな堅苦しくなくて良いよ、仕事の間柄じゃないんだし。楽に行こう楽に」
「今は仕事中なのでは、副団長?」
「五分休憩だ、五分休憩。パトロール中の条項にも記載されている立派な権利だ」
「……良いと思います」
深く息をつくロイドと入れ替わりで、ミリアがフレディをちょんちょんしながら尋ねる。
「パパ、この黒い人はだあれ?」
「この人はねー、パパの仲間のロイドだよ」
「ロイドさん! はじめまして、ミリアと言います。よろしくお願いします」
「……ロイドだ。副団長にはいつも世話になっている」
ぺこりんと頭を下げるミリアとは対照的に、ロイドはそれだけ告げる。
子供を相手にする事など皆無だったロイドはどこか困り顔だった。
「えっと、フレディさんはミリアさんのお父様ですか?」
「そうそう! 我が愛しの娘さ!」
「まあっ……確かに、美しいブロンドの髪といい、整った顔立ちといい、そっくりですね!」
「おいロイド俺からもクロエちゃんにプレゼントを贈って良いか? 良い子すぎてファンになりそうだ」
「ややこしい事になりそうなのでやめてください」
ロイドが突っ込む傍ら、クロエが何かに気づいたように尋ねる。
「ということは、フレディさんはサラさんの旦那様、ということですか?」
「おお、サラとも会ったのか! まさしく、サラは俺の愛しの妻さ」
「納得です! とっても素敵な奥様でしたもの。フレディさんのような方にぴったりです」
「おいロイドやっぱりプレゼント贈って良いか? 店ごと買う」
「本当に勘弁してください」
どっと疲れたような顔をするロイドに、フレディが「冗談だよ」と笑みを向ける。
それからフレディは、「そもそもの話」と切り出しミリアに尋ねた。
「ミリア、クロエちゃんとは知り合いなのかい?」
「お猿のおねーさんはねー、オセロの恩人なの! 前話した人!」
「ほう、なるほど……」
全ての合点が言ったように、フレディはクロエを見つめて頷く。
「君が、かの噂の“お猿のおねえさん”だったんだな」
「ゔっ……ご家族内でもその名前で通ってしまっているのですね……」
「お猿のおねえさん? なんの話だ?」
「話せば色々あるのです……」
特に問題はないかと思ってスルーしていたが、まさかこの異名がロイドに伝わると思っていなかったと、クロエは途端に恥ずかしくなった。
「副団長、五分経ちましたよ」
「いや真面目か」
冷静に告げるロイドに、フレディはやれやれと肩を竦める。
その後、名残惜しそうにミリアの頭を撫でた。
「それじゃミリア、パパはそろそろ仕事に戻るから、クロエちゃんによろしくな」
「うん! おとーさんもお仕事頑張って、街の平和を守ってね!」
「愛しの娘にそう言われては頑張らないわけにはいかないな。パパ、ロイドと一緒に街を全部パトロールしてくるよ」
「俺は定時で帰ります」
歯に衣を着せないふたりの一連のやり取りを見て、ロイドとフレディの間に固い絆のようなものを感じたクロエはほっこりした気持ちになる
「それじゃあクロエちゃん、また。娘の遊び相手になってくれて、ありがとう」
「はい、お仕事中にすみません。こちらこそ、ありがとうございました」
深々とお辞儀をするクロエに、フレディは言う。
「絵に描いたような良い子だな……クロエちゃん、ロイドは鈍感で頭が硬いところがあるが、根は優しくて良い奴だから、どうか見捨てないであげてくれ」
「み、見捨てるなんてとんでもないです! ロイドさんは、とても優しくて、紳士的で……むしろ私の方がたくさん助けられていると言いますか……とにかく、ロイドさんの家政婦で本当に良かったと、私は思っています」
「だと、よ?」
「…………」
これまで突っ込みを入れていたロイドだったが、何故かこの時は視線を背けて押し黙った。
そんなロイドを見て、フレディは小さく一言。
「……こりゃあ、道のりは長いな」
やれやれとため息をつくフレディであった。
「あ、そうだ」
今思いついたように、フレディが提案する。
「クロエちゃん、今度家で夕食でもどうだい? もちろんロイドも含めて」
「え!? そんな、よろしいのですか?」
「ああ、もちろん! せっかくの縁なんだし、オセロを迎え入れることができたのも、クロエちゃんのおかげだしね。ぜひお礼をさせて欲しい」
フレディの提案に、クロエは目を輝かせた。
しかし自分の一存だけで了承するわけにはいかない。
「ロイドさん、どうでしょうか?」
これまで、ロイドがフレディからの夕食の誘いを断り続けてきたなど露知らないクロエが明るい調子で尋ねる。
もちろん行きますよね!?
と言わんばかりに目をきらきらさせるクロエに「行かない」など言えるはずもなく。
「……ああ、良いと思う」
「やった! ありがとうございます、ロイドさん」
嬉しそうに跳ねるクロエ。
これは仕方がないと息をつくロイド。
フレディ、ガッツポーズ。
ミリアは「え、お猿のおねえさん家来るの! やった!」と大はしゃぎ。
オセロだけ、ミリアの足元で「くあぁ……」と興味なさそうに欠伸をしていた。
そんなこんなで。
三日後の夜に、フレディの家で夕食会が行われる運びになったのであった。




