第46話 パトロール ロイドside
「昨日はありがとうございました」
王都、北地区某所をパトロール中。
隣を歩くフレディに、ロイドは小さく頭を下げて言った。
「お、家政婦ちゃん、喜んでくれてた?」
「はい、今朝から早速着けていました」
「そっかそっかー、まあ俺のチョイスだから当然だな!」
ふふんと、フレディは腕を組み得意げに鼻を鳴らす。
いつもなら眉を顰める所だが、フレディの功績あって昨日のプレゼント計画は成功したと言っても過言ではないので、素直に飲み込んでおく。
「しっかし、驚いたよ。まさかお前から、プレゼント選びに協力して欲しいと申し出てくるなんて」
「出来ないことは頼れと、人に言っておいて自分はしないのは、違うと思いまして」
「なんの話だ?」
「こっちの話です」
回想する。
昨日、フレディからクロエへの贈り物を促された後、ロイドは考えた。
必死に必死に考えた。
(何を贈ればいい? なんだったら彼女は喜ぶ? 趣味的なもの、実用的なものの違いはなんだ? ……わからん、わからん……わからないぞ……)
ロイドは焦った。
身体を動かし頭を活性化させたら妙案が浮かぶかもしれないと、自ら積極的に模擬戦を申し込み剣を振りながら考えた。
相手の剣を華麗に捌きながらあれこれ思考を巡らすが、結局何も浮かばず急に冷や汗が滝のように流れ出ただけだった。
『今日は気合入ってるな!』
とフレディには明後日の方向に勘違いされたし。
訓練後、汗ビッショになったロイドを見て、他の団員が対戦相手に『おいお前、いつもは汗一滴かかないロイドにあんなに汗かかすなんてやるな!』と言った結果。
『おお!! もしかして俺、今日冴えてるかもしれん……!!』と調子に乗った対戦相手が、次戦でけちょんけちょんにされるという一幕もあった。
そんな事はどうでもいい。
何はともあれ、困った。
本当に何を贈ればいいのかわからない。
ジャングルではこんな事学ばなかった。
今までの任務で間違いなく最難関ミッションだ。
少なくとも、自分一人でクリアできるものではない。
困りに困り果てたロイドは、大恥を忍んでフレディに願い出た。
『……今日、勤務後に贈り物選びに付き合っていただけませんか?』
フレディは嬉々として了承。
夕方、鍛え抜かれた男二人が女性もののジュエリーショップに来店し可愛らしいアクセサリーを物色するという、なんとも奇怪な光景が繰り広げられる事になった。
何はともあれ、流石イケメンの所帯持ちという事もあってか、フレディのセレクトは見事にクロエの心を掴み、ロイドが想像していた以上の結果をもたらしてくれた。
その事に関しては、フレディに頭が上がらない。
回想終了。
「しっかし、ジュエリーショップなんて久々だったな。若い頃を思い出すよ」
「今も十分若いでしょう」
「バカヤロ! 結婚前と後じゃ、年齢は近しいといえど全然別物なんだよ! 昔はどれだけ自分の気持ちを押し通せるかって攻め攻めだったが、今やどれだけ相手の気持ちに寄り添えるかって感じで守り守りになる」
「なるほど、攻撃型から防御型に変化というわけですか、わかりやすいです」
「うんちょっと違うと思うぞ?」
秒で突っ込まれて不服そうなロイド。
小さく笑みを浮かべフレディは続ける。
「まあ、お前も家族が出来たらわかるさ。家族はいいぞー? 最近、娘が猫を飼い始めてな。黒白のハチワレでとっても可愛いんだ。昨日だって嫁がな……」
また始まったと、ロイドは内心息をつく。
しかし、鬱陶しさはない。
他者との繋がりという点においては恵まれなかったロイドにとって、羨望の感情はあれど嫌な気はしなかった。
むしろ、自分に欠けている何かが充足されるような気もする。
その上……。
(家族は良い、か……)
その感覚は、クロエと過ごすうちに少しずつわかってきたような気がしていた。
家に帰ると誰かがいる、それが毎日続く。
ずっと一人で生きてきたロイドにとって、当初は大丈夫だろうかという心配はあったが、今がそれが当たり前になりつつあるし、居心地が良いと感じている自分もいる。
それはロイドに生じた、確かな変化でもあった。
「……というわけで、嫁と娘が最高に可愛かったって話だ」
「いつも通りの話ですね」
「正直今すぐ会いたくて仕方がねえ。今日もパトロールと聞いて、うっかり家族と鉢合わせないか期待したんだが……流石にな……」
「家、近いんですか?」
「この通りをちょっと進んだところだな! 娘は普段、あの公園で遊んでいるはずだが……」
「まさかと思いますが、そのためにパトロールのルートを組んだのですか?」
「いやいや流石に俺もそんな公私混同はせんよ、っと……お!!」
フレディの表情が一気に明るくなる。
まるで、迷子の子供が母親を見つけた時のように。
「ミリアー!」
手をぶんぶん振りながら叫ぶフレディ。
その視線の先にはちょっとした公園があって。
「あ、パパ!」
ミリアと呼ばれた五歳くらいの女の子が反応する。
その隣には……。
「え!? ロイドさん!?」
「なっ……!?」
ベージュ色の髪。
小柄な体躯。
外行き用のドレス。
ロイド家の家政婦、クロエがいた。




