第42話 様子がおかしい
「おかえりなさいませ!」
「…………ただいま」
今日も今日とてロイドは夕方頃に帰宅した。
いつものように、クロエは玄関で彼を出迎える。
「お疲れ様です。今日は遅かったですね」
「少し、仕事が長引いてな。遅くなってすまない」
「いえいえお気になさらずです。とりあえずご飯にしますか、お風呂にしますか?」
「…………」
「……ロイドさん?」
「ああ、すまん、ぼーっとしていた。それでは、お風呂を頂こう」
「わかりました」
廊下に上がるロイドの荷物をクロエが持とうとすると。
ロイドがそれとなく、普段の荷物とは別の何かを後ろに隠した。
「ロイドさん、そちらは?」
「あ、ああ、帰りにちらっと店に寄ってな。仕事に使うあれこれを購入してきた」
「なるほど……でしたらそちらもお持ちしますよ」
「いや、大丈夫だ。非常に軽い品物だから」
「そう、ですか……?」
不思議そうに首を傾げるクロエから逃げるように、ロイドは風呂場へと向かうのであった。
◇◇◇
(……何か、おかしい)
心の中で、クロエは呟いた。
帰ってきてから、ロイドの様子がいつもと違う。
テンションが低いというか、どこかそわそわしているというか。
何か、隠しているようにも見えた。
いつもはちょくちょく会話を挟む食卓も、とても言葉少なだった。
今日は鮭の切り身を使用した、サーモンとアサリのアクアパッツァ。
フライパンひとつで大量に作れるので、実家にいた頃はちょくちょく作っていたクロエの得意料理だ。
料理へのリアクションはそこそこに、ロイドは黙々と食べ進めている。
明らかに、何かがおかしい。
ロイドはうまく隠せているつもりかもしれないが、人の纏うオーラの変化に人一倍敏感なクロエにはお見通しだった。
「今日は、特にお疲れですか?」
それとなく、尋ねてみる。
「いや……訓練はいつも通りで、特別なことはしなかったが……」
「そうですか……いつもよりお疲れに見えたので、何かお悩み事でもあるのかと」
「疲労は至って大丈夫だ。悩み……は特にない、な」
妙に歯切れの悪いロイド。
(やっぱり……おかしい……)
いつもと様子が違う。
その確信を元にして、クロエのネガティブ思考がいらん事を考え始めた。
(もしかして私……ロイドさんの気分を損ねてしまった……?)
ロイドの好みに合わない味付けの料理を出してしまったのだろうか?
時間が足りなくて、寝室の掃除をいつもよりも簡略化したことを不服に思われた?
それとも……。
マイナス方面の思考はとどまる事を知らない。
もしかして、もしかしてと、次々に悲観的な想像を広げてしまう。
もはや、自分が粗相をしてロイドの気分を損ねてしまったに違いないと強く思い込み始めたクロエ。
食事の間中、クロエはだらだらと冷や汗を流し始めた。
◇◇◇
「大変申し訳ございませんでした」
「は……?」
食事が終わり、ソファでくつろぐロイドにクロエは深々と頭を下げた。
ロイドは目を丸めてきょとん顔。
「雇われの家政婦にも関わらず、主人の気分を害してしまう失態……私、如何なる罰もお受けいたします」
「……は……? いやいやいや、何故そうなるのだ!」
急な謝罪に理解できず、ロイドは狼狽えてしまう。
「だってロイドさん、帰ってからずっと様子がおかしいじゃないですか……何か、機嫌を損ねるような事をしてしまったのかと思いまして……」
泣きそうな顔で言うクロエ。
その言葉を咀嚼したロイドが顔を覆い天を仰いだ。
「……すまん、完全に俺が悪かった」
ロイドはそう言った後、立ち上がって別の部屋へ。
クロエが頭の上に『?』を浮かべている間に戻ってきて、ぽんぽんと隣のソファを叩いた。
おずおずと、クロエはロイドの隣に座る。
未だ不安げに瞳を揺らすクロエに、ロイドは言った。
「悩み事はない、と言ったが嘘だ。これをいつ渡そうか、ずっと悩んでいた」
ロイドの手には、出迎えの際に『仕事に使うあれこれ』と言っていた紙袋があった。




