第37話 一週間が経ち
クロエがロイドの家の家政婦になって、一週間。
「美味い」
「良かったです!」
今日も今日とて、クロエが朝から準備した朝食を二人で囲んでいる。
「スクランブルエッグというものは初めて食べたな」
「そうなのですか? 意外とベタな料理だと思っていたのですが」
「卵を調理するという概念が無かった」
「……生でそのまま?」
「お手軽だろう?」
「これからも色々な卵料理をお作りいたしますね」
「何故そんなやる気に満ち溢れた顔になるのだ?」
他愛のないやりとりをしつつも、薄切りベーコン、ウィンナー、クロワッサンと、エネルギーと筋肉に変わるメニューを食べ進めていくロイド。
もちろん、健康に良いサラダも忘れない。
ロイドと同じメニューだが、量少なめのクロエも美味しそうに朝ごはんをもぐもぐしている。
そんなクロエを、ロイドがじっと見つめていた。
「……何か、私の顔についていますか?」
「いや、大したことではないのだが」
クロエの上半身を上から下に見やってから、ロイドは言う。
「健康的になってきたなと」
「けんこうてき?」
「肉付きが良くなった」
「へあ!? わ、私、そんな太っ……」
「喜ばしいことだ、標準に近づきつつある」
真面目な表情で頷くロイドに、クロエはホッと息をつく。
「そりゃあ、三食しっかりと食べさせていただいているので」
「とても良い傾向だな」
「お陰様で。まあ、体型が普通になったところで、特に代わり映えするわけでもないですけどね」
自虐気味に言うクロエに、ロイドは微かに眉を顰め小さく呟く。
「……君は、自分が客観的にどう見えるかもう少し自覚した方が良い」
「へ? 何か言いました?」
「なんでもない」
いつもの真顔に戻ったロイドに、クロエは不思議そうに首を傾げるのだった。
◇◇◇
朝食後、仕事の準備を終えて玄関に向かうロイドの後ろをクロエがついていく。
「何も、毎日無理に見送りしなくてもいいんだぞ?」
「無理なんてしていませんよ。私がしたいからしているのです」
「それなら、良いが……」
「……迷惑、でしたでしょうか?」
「そんなことはない。手間なんじゃないかと、少し心配になっただけだ」
「なら、良かったです。手間どころか、私のささやかな楽しみの一つになっているので」
「見送りが楽しみとは、変わっているな」
「私でもそう思います」
照れ臭そうに笑うクロエに、ロイドも思わず頬を掻く。
「……今日も、夕方頃に帰る」
「はい、いつもの時間ですね。今日は豚肉を焼こうと思っているので、その……良ければ……」
「斬撃だな? 任せろ、細切れにしてみせる」
「あ、一口大でお願いします。トンテキにしたいので」
「……そうか」
表情は変わっていないが、声のトーンからロイドがちょっぴり残念そうにしているのがわかる。
この一週間で、ロイドのテンションの些細な機微をなんとなく察するようになったクロエ。
元々人の顔色を窺ってばかりの人生だったため、他人の変化にすぐ気づく特性をクロエは持っていた。
皮肉な事に、その特性が表情の起伏の少ないロイドと過ごす中で活かされていた。
「それでは、行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」
仕事へ向かうロイドの後ろ姿に向かって、クロエは小さく手を振った。
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