第34話 気づいてくれて
後出しジャンケンのようで恐縮なのですが、クロエがお店で買った髪留めを花柄からリボンタイプのものに変更しました。
「こっちの方が可愛いやーん!(´;д;`)」と心の中のふゆが駄々をこねたので。
「街はどうだった?」
食後、ソファでくつろいでいる時。
横に並ぶクロエに、ロイドは尋ねた。
「とってもとっても楽しかったです!」
ぱあっと表情を明るくしてクロエは言う。
「建物はどれも大きくて、人もたくさんで、いろいろなお店もあって、それがずっと続いてるのが本当に凄いなと思いました! メインストリート沿いの日用品屋さんに最初行ったのですが、たくさんの商品があって、特に面白かったのは……」
それからクロエは昼間あった事を身振り手振りで話した。
身の回り品や普段着は一通り買い揃えられた事、食料品のお店のおばさんがとても元気良くてユニークだった事。
そして、公園で助けた子猫と、幼い女の子のこと。
それぞれを順序立てて興奮冷めやまぬ調子で話すクロエだったが、途中でハッとした。
「す、すみません! 思わず熱が入ってしまいベラベラと……」
「いや、いい。楽しめたのであれば、何よりだ」
口元に笑みを浮かべてロイドは言った。
ただ街を巡っただけでこれでもかと楽しさを表現するクロエに、ロイドはとても微笑ましい気持ちになっていた。
「ロイドさんは街、あまり行かれないのですか?」
「必要最低限だな。ひとりで飲みに行くような性格でもないし、食料を買いに行く時くらいだ」
「ええー、もったいないです、ちゃんと回ればきっと楽しい事も見つかりますよ」
「君が街を回る姿を見ているのは、退屈しなさそうだな」
「どういう意味ですか、それー」
「そのままの意味だ」
揶揄うように小さく笑うロイド。
ぷくりと頬を膨らますクロエが、思いついたように尋ねる。
「……じゃあ今度、一緒に街にお出かけしませんか?」
「俺と、か?」
ロイドは目を丸くした。
「はい、ロイドさんが迷惑じゃなければ……ですけど」
おずおずと言うクロエ。
「俺のような面白みのない男と行っても、退屈なだけだと思うぞ」
「そんなこと、ないです。楽しいですよ、きっと」
クロエの言葉に、ロイドは一瞬だけ考える素振りを見せてから口を開く。
「……どこかで時間を作るとしよう」
「……!!」
クロエは、絵にして飾りたくなるような笑顔を浮かべて。
「はい! 楽しみにしてますね!」
心底嬉しそうに笑うクロエに、ロイドは気まずそうに目を逸らした。
まるで、何かを見られたくないと言わんばかりに。
「ロイドさん? いかがなされました?」
「……その髪留めも、新しく買ったやつか?」
何故か露骨に話題を変えたロイドに不思議に思うも束の間、更なる嬉しいが到来した。
「気づいて、くれたのですね」
最初のお店で買った、リボンタイプの髪留め。
実用的だけど可愛らしいものをとチョイスをした一品だ。
「騎士たるもの、瑣末な変化に気づくのは必要なスキルだ。帰宅時に玄関で気づいたが、特に言うような事でもないと思っていて……どうした?」
クロエが何やらもじもじしていて。
頬をほんのりと朱に染めていて。
このような異性のリアクションを前にしたことのないロイドは、軽く困惑してしまう。
「嬉しいのです」
「何か、喜ばすような事を言った覚えはないが……」
「女の子は、些細な変化に気づいてくれると、とっても嬉しいのですよ」
「そういうものなのか」
「そういうものなのです」
しばし、無言の間のち。
「それで、どう……でしょうか?」
微かに上擦った声で、クロエが尋ねる。
「……どう、とは?」
「変じゃ、ないでしょうか?」
膝に手をつき、視線を下に向けたまま気恥ずかしそうに訊くクロエに、ロイドは率直な感想を口にしようとするが、喉のあたりで言葉が詰まった。
なんだ、さっきのは、とでも言うような顔をした後。
改めて、ロイドは言葉を紡ぐ。
「変じゃない、とても似合っている」
クロエの表情に、みるみるうちにあかりが灯っていく。
「……嬉しい、です」
ふんわりと笑うクロエ。
その笑顔はまるで、親に初めてプレゼントを貰った子供のよう。
愛おしく、慈しみに溢れたクロエの表情に、ロイドは目を逸らすのが遅れてしまう。
先程ロイドが隠したものを、今度はクロエはちゃんと目にした。
ほんの少しだけ、ロイドの頬が朱に染まっていた。
その変化の真意はわからない、気づかない、けど。
自身の胸に生じた温もりと、妙に早くなった鼓動が、ロイドの変化に対する反応としてわかりやすく現れていた。




