第29話 お買い物へ
「はわああ……」
王都、北地区の商業エリアのメインストリート。
歩きながら流れてくる光景に、クロエは目を輝かせた。
「凄い、これが王都……」
実家のあったド田舎アルデンヌ領では、決して見られなかった光景が視界に広がっている。
三日前、初めて王都に足を踏み入れた時は雨が降っていたし、体力気力の限界でぼんやりしていた。
あれから今までロイドの家に引きこもっていたので、元気な状態でしっかりと王都を見るのははじめてであった。
白、茶色、赤などカラフルな煉瓦作りの建物。
行き交う数え切れないほどの人々、馬車。
高級な店ばかりではなく、市場のように露店も出ていて活気があった。
物を買わなくとも歩いて周りを見ているだけでも楽しそうだった。
ロイドのいう通り貴族が多い地区ということで、道ゆく人々の格好はちゃんとしていて治安も良さげ。
なので一人でも安心して買い物ができそうだった。
ちなみに今日のクロエの格好は、道ゆくレディたちの格好と比べても見劣りしないドレス。
家出の際に拝借してきた姉の私物である。
朝までに刺繍を入れろという無茶振りをこなし、置いたままだったので持ってきた。
どうせこのドレス以外にも姉は何百着も持っているのだ。
ひとつくらい、これまでの刺繍代と思えば頂いてもバチは当たらないだろう。
「……ありがとうございます、お姉様」
小さく呟く。
このドレスは山越えの際に防寒具としても非常に役に立った。
冬が迫ろうとしている季節である今日も、このくらい着こまないと寒くて手が悴んでしまう。
今まで姉に礼を口にすることなんて無かったが、こればかりは感謝である。
「っと、いけませんいけません。お買い物をしなければ……」
憧れの王都についつい浮かれてしまっていた。
ロイドが帰ってくるまでに、今後の住み込みで働くにあたっての物品を買い揃えないといけない。
ついでに今晩の夕食の食材も買おうと、クロエは頭の中でどのお店を回るか一通り決めた。
「さて、まずは……」
真面目なクロエは油を売って観光しようとは思わず、比較的リーズナブルそうな日用品が売っている店に足を運ぶ。
そこで自分が使う食器類やタオル、普段着など、考えつく身の回り品を手に取った。
実家ではお目にかかれなかった、化粧品や可愛い小物類なども売っていてクロエは思わず足を止める。
「わあ……」
クロエとて年頃の女の子である。
美容やお洒落に絡む物品にはとっても心惹かれてしまうのは当然であった。
特にクロエの目を惹いたのは、花柄のイヤリング。
どうやら耳に挟むお洒落グッズらしい。
ネックレスや指輪は姉がよくしていたのを見ていたが、アルデンヌ領にはまだ入っていない文化だったのか、耳に挟むイヤリングというものを見たことがなかった。
──余った分は好きに使っていい。
朝、ロイドから言われた言葉についつい手が伸びそうになった寸前、クロエは頭を振った。
(私じゃどうせ、似合わないし……)
そんな自己肯定感の低さと、ロイドから貰った初めてのお金を必需品外に使うのは良くないだろうという判断で、伸ばそうとした手を引っ込めた。
代わりにささやかではあるが、ピンク色のリボンタイプの髪留めを手に取った。
可愛いし、家事仕事で実用性もありそうだし。
実家から持ってきた髪留めは山越えをしている最中に切れてどこかに行ってしまったため、ちょうどよかった。
ここまで自分に免罪符を与えて納得させて、ようやく購入に至る。
「毎度あり! ……お嬢ちゃん、とんでもない量だけど、大丈夫かい?」
「いえいえ大丈夫です! このくらい、山越えの時の荷物に比べたら少ない方なので」
「や、山越え……? よくわからないが、気をつけて帰るんだよ」
「はい、ありがとうございます!」
背中に背負うタイプのバッグ(王都でリュックというらしい)に購入した物を入れたためパンパンだ。
ちなみにこのバッグも新調した。
実家から背負ってきた相棒はもうボロボロだったから、この際買い替え時だろう。
「さて、次は……」
普段着とかを買いに行くとしよう。
大きなリュックを背負ったまま、クロエは次のお店へ足を向けた。




