第24話 騎士様の考え ロイドside
クロエが家政婦になったその晩。
「ふっ……!! ふっ……!!」
家の庭先で、ロイドは剣の素振りをしていた。
騎士たるもの、勤務時間中の訓練以外にもしっかりと鍛錬を積むべし。
素振りと筋トレは、もう何年も行われているロイドのルーティンであった。
今は月が雲に隠れて辺りは暗いが、家からの漏れ光とロイドの高い順応力によって視界は良好だ。
騎士に充てがわれる家という事で訓練も想定されているのか、庭もかなり広い。
とはいえ手入れをしていないため草はボーボーだ。
そろそろどうにかしなければいけないな、と思いつつもなかなかタイミングがなくて放置している。
結果、ロイドが動き回るところだけ草が生えていないという、なんとも奇妙な庭になっていた。
「ふっ……!! はっ……!!」
素振りの数も千を超えたあたりで、ふとロイドは思う。
(妙な、感覚だな……)
今日から一人ではない。
誰かと暮らすという事について、ロイドは未だに実感が薄かった。
今までずっと、一人で生きてきたから。
クロエを家政婦に雇った事については、家に帰るまでに案としてぼんやり浮かんでいた。
帰宅して、クロエの異様に高い家事スキルと気遣い力を見て、是非とも雇いたいと思った。
クロエも、今後の事を考えると渡りに舟だったようで、話はとんとん拍子に進んだ。
お互いにとってウィンウィンな所に落ち着いたとは思うが、もちろん今後も何も心配ないという訳ではない。
(雇い主として、俺は相応しい振る舞いができるだろうか……)
クソ真面目なロイドはそんな心配を抱いてしまう。
無論、無理もない事情もあった。
今まで剣一筋で人との関わりを疎かにしてきた分、ロイドは人との接し方や距離感の測り方が不得手だ。
それも、相手が成人した年頃の女性となると尚更だ。
自分の気付かぬうちに、主人としてふさわしくない振る舞いをしていないか、クロエに嫌がられるような事をしてしまわないか、不安は大きい。
クロエに嫌われる事は……何故か、考えただけで胸がモヤっとする。
何故だか、わからないが。
──ロイドはもっと、人と関わった方が一皮剥けると思うぞー。
いつかフレディ副団長が言っていたその言葉の意味は未だにピンときていないが、この際、クロエとの生活は良い経験になるだろうと前向きに捉えるしかなかった。
(それに……気になる事もあるしな……)
明るくて、前向きで、純朴そうに見えるクロエだったが。
その立ち振る舞いや言動、そしてちょくちょく出てくるこれまでの経緯の情報から、以前の彼女は相当ひどい環境にいたのだろうとロイドは推測している。
あの極端な自信の無さといい、何かと床に頭をつけようとする仕草といい、奴隷さながらの扱いを受けていたのだろうか。
だとすると、他人事なのに熱い感情が湧き出てくる。
こんな小さくて弱い、言うなれば守るべき存在であるはずの少女になんて仕打ちをしたのだという怒りが。
正義感が強く、理不尽が最も許せない事の一つであるロイドにとっては当然の反応といえよう。
兎にも角にも、ロイドはクロエという人間に対しかなりの興味を抱いていた。
いずれはちゃんと聞きたい。
どこで、どんな生活をして……そして、何がきっかけでこの王都にやってきたのか。
そうロイドが考えていた時。
「ロイドさんー、お風呂、ありがとうございました」
クロエがのんびりした様子でやってきた。
「上がったか」
「とても気持ち良かったです。あら……ちょっと暗くて見えないのですが、素振りをしていたのですか?」
「訓練の一環だ」
「でしたら、汗かきましたよね。お風呂、温めますね」
「問題ない。この程度の素振りでは汗などかかん」
「な、なるほど……凄いですね、騎士様は……」
クロエが感心したように言った、その時。
雲が途切れ、月明かりが辺りを照らした。
──それは、突然の出来事だった。
「……っ」
クロエが、息を呑んだ。
そして、全ての動作が止まる。
「……? どうしたんだ?」
ロイドが異変に気づき、尋ねるもクロエは動かない。
ある一点に、クロエは視線を注いでいた。
ロイドが素振り用に持っていた、月光に輝く、すらりと長い銀色の剣に……。
「ひっ……いやっ……」
「お、おい!」
膝から崩れ落ちるクロエ。
すぐさまロイドは剣を鞘に納め駆けた。




