第102話 自分の好きな事をすればいい
「ふふふーん、ふーん……」
「やけに嬉しそうだな」
その日の夕食中。
シエルからサービスで貰った鳥のハーブ焼きに舌鼓を打つクロエに、ロイドが話しかける。
「あ、わかりますか?」
「そんな上機嫌そうな鼻唄を聞けば、誰でもわかるだろう」
「やだっ……私ったらそんな……」
「気づいていなかったのか」
火照ったように赤みを帯びた頬を押さえるクロエ。
それからこほんと咳払いをしてから、クロエは言う。
「この前作っていた刺繍、シエルさんにとても良いって褒めてもらいまして。それだけでも嬉しかったんですけど……」
立ち上がり、クロエはシエルから貰った小袋を持ってきた。
それから子供が一生懸命作った砂のお城を親に自慢するかのように、ロイドに小袋を見せる。
「報酬だと、こんなに頂いてしまって……」
「ほう……これは凄いな」
目を見開き、ロイドは深く頷いた。
とそこで、今気づいたといった風にクロエがハッとした。
「そもそもお金をもらった事は、すぐにお伝えするべきでしたね。失念しておりました、申し訳ございません」
「いや、気にしないでいい。家政婦以外の仕事で金銭を稼ぐ事は特に問題ない。そちらに時間を割かれて家の仕事が疎かになると困るが、クロエに限ってそんな事はないのだろうし」
「ありがとうございます。そうですね、怠けるような事はしたくありません」
そもそも前提として、実家での仕事量に比べるとロイドの家の仕事量は格段に少ない。
実家にいた頃でも、深夜まで仕事した後に朝まで刺繍を刺すなんて事は日常茶飯事だったので、万が一でも家事を疎かにするなんて事態にはならないだろう。
クロエの目をまっすぐ見て、ロイドは言う。
「自分が没頭できる事でお金を貰えるのは、俺はとても良い事だと思う。これからも気にせず、自分の好きな事をすればいい」
「ありがとうございます! また頼まれたり、気が向いたら……」
そこで、何かを閃いたようにポンとクロエが手を打った。
「そうだ、ロイドさんにも刺繍をしましょう!」
「俺のにか?」
「はい! 流石に仕事着には厳しいと思うので、普段着とか、ハンカチとかでも……デザインがワンポイント増えるだけでもお洒落度がグッと増すんですよ」
「なるほど、お洒落な事は大事だな。良い提案だ」
腕を組み、ロイドは深く頷く。
「なら、お願いをしてもいいか?」
「はい! もちろんです。ロイドさんにはどんな刺繍がぴったりか、考えておきますね」
「うむ。よろしく頼む」
るんるんと上機嫌そうに、クロエは夕食に戻るのであった。




