第101話 充実感
翌日の午前の時間帯。
刺繍を施したドレスを手に、クロエはシエルの店を訪ねた。
お店はまだ営業前で、シエルは露店に品を並べている最中だった。
「おお! クロエちゃんかい。おっ……その手に持っているのは、もしかして……」
「はい、出来ました!」
早速、シエルにドレスを確認してもらう。
施された刺繍を目にするや否や、シエルは「おおっ……」と声を漏らした。
メインの白い花を、可愛らしいフレームが囲ったデザイン。
細部まで拘った技巧といい、色味の鮮やかさといい、一目でプロの仕業だとわかるクオリティでああった。
「ど、どうでしょうか……?」
「す、凄い出来さね……!」
結果は一目瞭然だった。
すごいすごいと、シエルは色々な角度から刺繍を眺めて感嘆の言葉を口にしている。
「良かった……お気に召してくれたようで、何よりです」
喜んでくれて嬉しい、という気持ちよりも、安心した側面の方が強いクロエであった。
「本当に、期待以上さね。クロエちゃんに頼んで良かったよ」
「ふふ、そう仰っていただけて嬉しいです。私も、久しぶりに針仕事が出来て楽しかったです」
実家では、リリーのために何度刺繍を施そうとも褒められることはなかった。
それどころか、お気に召さないと「こんな事も出来ないなんて」と罵倒を浴びせられた。
今回、シエルに自分の刺した刺繍を褒められて、心の底から嬉しいと思ったし、達成感で胸がいっぱいになった。
「ちょっと待つさね。今、お礼を持ってくるから」
そう言ってシエルは一度、お店の裏に引っ込んだ。
(また何かサービスを頂けるのでしょうか……いつもたくさん貰ってしまって、申し訳ないな……)
そんな事を思っていると。
「はい、これ。受け取っておくれ」
ぽん、と小袋を手渡された。
掌を通じてずっしりとした重みが伝わってくる。
まさかと思いながら中を見ると、かなりの額の硬貨が入っていた。
「こ、こんなに!?」
ぱっと見、本が五冊ほど買えてしまう程のお金が入っている。
「と、とてもじゃないですけど、貰えません! ただでさえいつもたくさん頂いているのに……申し訳なさすぎます……!!」
慌てて返そうとすると。
「いいや、受け取ってもらうよ」
真剣な表情でシエルは言った。
「自分の安売りはいけないよ、クロエちゃん。良い品物にはちゃんとした対価を支払う事は、当たり前さね」
「で、でも、私の刺繍なんか、こんなに大金を頂けるほど大層なものでは……」
「クロエちゃんの刺繍は一級品さね。それは、数々の商品を見てきたこの私が保証する。自信を持つさね」
そう言ってシエルは笑顔で頷いた。
商売人という職業柄お金周りにシビアであろうシエルが、お世辞や社交辞令で言ってる訳ではない事はわかる。
しばし頭を捻ってうんうんと悩んだ後、最終的に諦めたようなため息をついた後。
逆に受け取らない方が失礼だと自分に言い聞かせ、クロエはお金を受け取る事にした。
「……わかりました。ありがたく、頂きます」
「うんうん、それがいいさね!」
上機嫌そうにシエルは頷いた。
「本当に、ありがとうございました」
「それはこちらのセリフだよ。また何か刺してほしい刺繍があったら、是非頼みたいさね」
「それはもちろんです! いつでもお申し付けください」
そんなやりとりを経た後、ついでに今晩の夕食をいくつか購入してからクロエは帰路についた。
ポケットの中で感じる硬貨の重さを感じながら、クロエは例えようのない充実感を胸に抱いていた。




