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ヤンデレ若奥様

作者: zoubutsu
掲載日:2022/02/04

 俺の名前は、ゆう。

 人気声優だ。

 だった、じゃない。

 現在進行形で、人気声優のはずだ。

 まだ、大丈夫なはずだ。

 そのはずだ… 


 以前はよく、

 「かっこいい!」

 「可愛い!」

 と、言われていたが、もちろん、今だって言われてる。

 だが、何故だろう、

 「それでいいのよ。許してあげる。」

 みたいな、ファンの目に、悟った菩薩の微笑みが見て取れるのだ。

 いいや、気のせいだ。

 穿った見方は、やめておこう。

 若い頃は、あんなに素直に、人の心を信じていたじゃないか。

 本心なんだ。

 ファンの皆は、今だって本気で、俺をかっこいい、可愛いと思っているんだ。

 そうだ、年を取って少し疑り深くなってきた。

 もっと、人を信じよう。

 だがしかし…


 腹の肉を摘んでみる。

 

 これは、ヤバいんじゃないか…

 最近、ちょっと食べる量が増えて、元々丸かった顔が益々丸く…


 しかしこれは、決して俺のせいじゃない。

 自堕落な生活を送っているとか、そういうわけじゃないんだ。

 

 妻が、そう、妻だ。

 最近結婚したんだが、そりゃあもう騒がれた。

 俺と同じ声優なんだが、ビッグカップル誕生なんて、話題になった。

 やっぱり俺は人気があるんだ。

 まだいける。


 その、妻がはりきって、毎日料理を作ってくれるんだが、いかんせん量が多い。

 しかも、揚げ物やらの、若い男が好みそうな、こってり系が中心だ。

 俺が若い男だからと、喜ばせようとしているに違いない。

 妻だって、俺を若い男と思っているんだ。


 それで、その、つい、残しては申し訳ないと、いつも食べすぎて…

 

 妻が腕によりをかけて、作ってくれた料理を、残さず食べるのは、結構なことだが、


 自分の腹を見下ろす。


 これはいただけない。

 早急になんとかせねば。



 「はい、あなた。これ、お弁当。」

 あくる朝、いつも通り、妻が弁当を手渡してくる。

 「…」

 弁当と言うか、重箱なんだが、中にはこれでもかと言うほど、効率よく脂肪に変わりそうな、惣菜が入っている。

 言わねば。

 俺は、歩く歩道を敢えて使わず、他の乗客を追い越し、電車の中と、ホームで和気あいあいと、お喋りに花を咲かせるような若者じゃないんだと。 

 もう、胃が受けつけなくなってもたれるのだと。


 「ダイエットしようと思ってるんだ。だからこれは悪いけど…」

 「ダイエット!?」

 妻が、何か恐ろしいものでも見たかのように、目を見開く。

 「あなた、自分の顔を見たことがあるの!?」

 「え?ええ?顔?」

 妻がもどかしいとばかりに、俺の腕を引いて、鏡の前に連れて行った。

 そこに映っていたのは、げっそりとやせ細った俺だった。

 「これが俺…?」

 「そうよ、あなた働きすぎなのよ。もっとちゃんと食べなきゃダメよ。」

 「いや、でも…」

 そんなはずは…

 動揺する俺を尻目に、今度はクローゼットに連れて行かれた。

 「あなたがいつも穿いてるスラックス、穿いてみて。」

 「あ、ああ。」

 言われるがまま穿いてみると、

 「ぶかぶかだ…」

 「でしょう?あなた、仕事が忙しくてやつれてるのよ。」

 「いや、しかしこれは…」

 腹を摘まむ。

 「筋肉よ。」

 筋肉ってこんなに柔らかいんだろうか。

 「声優は、お腹に力を入れるから、筋肉がついたのね。」

 そんなバカな、と思う。

 いやいや。

 疑り深くなるのはやめようと、決意したばかりじゃないか。

 人を信じようと。

 妻が言うならきっとそうなんだ。

 「だって、いつも穿いてるスラックスが、こんなにぶかぶかだし、顔だってやつれてるわ。」

 そうか、そうだな。

 最近ちょっと疲れてて、神経質になってたのかもしれない。

 人の目を気にしすぎてたのかもしれない。

 「自分の演じてるキャラクターと、比べて太ったって思ったんじゃないの?アニメと比べたら誰だってみっともなく見えるわよ。」

 「確かに…」

 「ふふっ、おっちょこちょいね。」

 妻の笑顔を見て、俺も笑った。 

 気にし過ぎ、気にし過ぎだ。

 俺は、痩せてる。

 「もっと滋養つけないと。はい、お弁当。」

 「ああ、ありがとう。」

 「いってらっしゃい。」

 「いってきます。」


 

 玄関のドアが閉まる。

 妻はクローゼットに向かった。

 同じデザイン、同じ色の服がずらっと並んでいる。

 「ふふっ、少しずつサイズを大きくしてるのよ。」

 鏡は、トリックアートやミラーハウスで使われてる、細く見える鏡に張り替えた。

 

 声優同士のビッグカップルなんて言われてるけど、夫のことばかり取り沙汰されてる。

 なのに夫は、年を取った、太った、人気がなくなると、焦ってる。

 確かに、年もとったし、太った…太らせたけど、まだ人気は高い。

 「気にいらない…」

 結婚したんだから、私だけでいいのよ。

 もっと、ぶくぶく太って、愛想をつかされればいいんだわ。

 どうせ、声優なんだから、声が出たら仕事はできるでしょ。


 「晩御飯は、何にしようかしら。」

 棚を開けると、大量の油と砂糖が並ぶ。

 今日も何とか、弁当を持たせられた。

 このまま太れば、誰も見向きしなくなるわ。

 「ふふふ、計画通り。」





 

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