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引きこもり名探偵、倫子さんの10分推理シリーズ

引きこもり名探偵、倫子さんの10分推理シリーズ(消えたトパーズの行方)

立てば貧血、歩くも貧血、依頼を受ければ名探偵。


今日の倫子さんは元上司である刺詰警部からのお中元。虹色羊羹を冷蔵庫から取り出すと、お気に入りのお上品なお皿の上に盛り付けていた。


小窓から見える夏の海を背景に、虹色羊羹の写真を撮ると、早速SNSにアップする。


予想よりもイイネの数が多かったようで、倫子さんはご満悦。


さらに良い画像を撮ろうと、倫子さんはスマホを片手で操作しながらスプーンで羊羹をすくった。


虹色の羊羹がスプーンの上で綺麗に映るよう調整し、シャッターを押そうとした瞬間。


「倫子さーん! すいませーん!」


ガラス製のドアベルがシャラランと鳴り響くのと同時に、聞き覚えのある男の声が家中に響いた。


驚いた倫子さん。スプーンの上に乗っていた虹色の羊羹は落下し、無残にも床に滲む。


凹む倫子さんは振り返り、声の主である男を睨みつけた。


蛇に睨まれた蛙のような表情をするのは元後輩でもあり、好青年でもあり、現職警察官でもある円谷小太郎だ。


「な、なんか、すいません」


「もう! 小太郎! ノックぐらいしなさい……よ……?」


すると、小太郎の後ろに佇む、大柄でガタイの良いスーツを着た男性に視線を奪われ、倫子さんは言葉を詰まらせた。


「この度は、無理を承知の上、ご無礼を失礼します。私、小太郎の兄、大太郎と申します、今回は何卒宜しく、お願い致します」


頭を深々と下げ、名詞を渡す大太郎と言う男性。この男は円谷小太郎の実の兄であり、高所得者向けの家財保険の会社に勤務する男だ。


今回は弟である小太郎を通じ、問題が起きている家財保険案件の相談に切実な思いでやってきたのだった。


「なんとしても盗まれた宝石が見つからないと、兄の会社はとんでもない額の損害補償を支払う事になってしまうんです! 倫子さん! 僕からもどうかよろしくお願いします!」


二人の兄弟は倫子さんに藁にも縋る思いで頭を下げた。


だが、そんな彼らの思いとは関係無しに、倫子さんは一目見るなり、大太郎に釘付けだった。


清潔感のある爽やかスーツの下に垣間見えるたくましい肉体。そして弟小太郎の幼さを取っ払ったような、凛々しく整ったフェイス。


大太郎と言う男性が好みの性癖どストライクだった倫子さん。胸の奥底に眠っていた赤い実がパチンと弾けた。


「わ……わかりました。こ、今回は特別に、ご、ご相談をお聞きします」


頬を赤らめる倫子さんの表情を見て、悟った小太郎は小さくガッツポーズをした。





そして倫子さんの推理は始まった。まずはいつも通り情報出しから。


七月某日に行われた、輝く女性を応援する。大手美容化粧品メーカー、女社長の誕生日パーティー。


総勢約二百名が集った当日。社長がお召しになっていたドレスと数多の宝石が散りばむ、それはそれは美しいネックレス。


そのネックレスの中心にあった、直径約三十五ミリもある、80カラットのレッドトパーズ。そのトパーズが何者かに盗まれたのだ。


その石だけでも時価数億はくだらない代物。女社長が月に数十万の保険金を掛けていたこともあり、見つからなければ、相場価格の50%が大太郎が所属する保険会社の負担になってしまうとの事。


「もう、とっとと転職した方がいいんじゃないですか?……これ」


「昨年、取締役と監査役を兼任する事になりまして、今、身を切る思いです……」


「左様ですか……」


倫子さんは再び眉毛をくねらせ資料に目を通した。


パーティー会場には至る所に監視カメラは設置されていた。


無論、現場にはセキュリティー会社の人間を派遣し、社長を見張り、厳重警備で臨んでいたとの事。


「それで? いつ、どのタイミングで盗まれたのですか?」


監視カメラの映像によると、女社長がメイクルームにお召し物を着替えに入った後、ドレスを着替え、部屋を出る際には、胸の中心にあったトパーズが物の見事に消えていた。


身辺警備の人間も男性であったために、メイクルームの立ち入りは許可されず、彼らが居ない隙に何者かが犯行に及んだと思われる。


「なら、普通に考えてメイクルームで犯行が行われた事は確定ですね。ドレスの着替えは誰が手伝ったのですか?」


メイクルームに立ち会っていた社長に接触したであろう、人物は以下の人達だ。


メイドの付き人(38歳)。

女性秘書(52歳)。

社長の娘さん(33歳)。

社長のお孫様(2歳)。


無論、紛失後は全員ボディーチェックを隅々まで行った。

メイクルームの中は多大なる人員をさき、隈なく宝石が無いか探したが、宝石は何処にも見つからなかった。


「社長がネックレスを外した時に側に居た人は?」


「いえ……、証言ですが、社長は一度もネックレスを外していないそうです」


「一度も外していないのに盗まれた? そんな事ありえるんでしょうか? 倫子さん」


小太郎の質問に倫子さんはジッと黙って考えた。


果たして、胸元にあるネックレスを社長の目を盗んで取る事が出来るのだろうか?


着替えを手伝っていたメイドなら可能か? なら隠し場所は一体どこに?


「ざっくりで構いません、メイクルーム内の会話の内容や、状況など、情報を下さい」


メイクルーム内ではメイドの付き人が、衣装の着替えを手伝っており、秘書は横で業務連絡などを会話でやり取りしていた。


途中、娘さんがお孫さんを抱き抱え入室。なかなか仕事で会えないお孫さんを見せようと部屋に入ったとの事。


そこから会話は社長と娘さんの雑談が大半になり。会話に夢中になった娘さんの腕から二歳のお孫さんがスルスルっと降り、カーテンや引出物の花などを触ったり、引っ張ったりしては秘書の方を困らせていたとの事。


そして衣装を着替え終えた社長はお孫さんを一度抱き抱え、ハグする。そして数分娘さんと話した後、メイクルームを出たとの事。



「どう考えても、社長の宝石を盗む瞬間なんて無いと思われますが……。まさか、全員がグルとか? 倫子さんはどう思います?」



すると、倫子さんは眉間に寄せていたシワを一気に解き、安堵すると、小太郎に答えた。


「経営が傾いている社長さんならそういう事するかも知れないけれど、パーティとか盛大にやっちゃってるんだから、現状でそんなみみっちい事はしないと思うわ、てかわかっちゃったわよ。犯人」


倫子さんの回答に兄弟は驚いていた。


「ホントですか!? 一体だれが犯人ですか!? ほ、宝石は無事なんでしょうか!?」


「結論から言うと、宝石が無事かどうかは分からない。犯人が今持っているかもわからないわ」


その回答を聞いて大太郎は愕然とし、膝から崩れ落ちた。


「だってそうでしょ? 二歳のお子さんが宝石を食べちゃったんだから」


「えーーー!」


「身辺調査を掻い潜り、目の前にいる社長の宝石を盗める人なんて、この世に一人しか居ない。たとえそれが、意図的にでは無くてもね。」


「でも、直径三十五ミリですよ? そんな大きな宝石、子どもが呑み込めれるでしょうか?」


小太郎の質問に、なんと大太郎が答えた。


「いや、三歳児が呑み込めれる最大のサイズが約四センチと言われている。二歳児と言っても、もうすぐ三歳になるお孫さんだ、可能かもしれない……」



「社長も話に夢中で、腕の中で暴れるお孫さんに目が行って無かったんでしょうね……、駄目よ。小さいお子さんがいる時は、例え大勢が見守っているからと言っても、目を離してはいけない。そう社長さんと娘さんに伝えといて♡」



後日、無事にレッドトパーズはお孫さんのオムツの中にウ〇チと一緒に紛れていたとの事。


事件は解決し、大太郎は小太郎を引き連れ、感謝の粗品を用意して倫子さんの家を訪れた。


大太郎が来る事を知っていた倫子さんは、部屋着ではなく、ちょっとだけ露出が多い、色っぽい服を着て待っていた。


その様子を見て小太郎は心の中で笑っていた。


「でも、どうして……大太郎さんは三歳児の飲み込めれるサイズが、四センチなんて知ってたんですか?」


「ああ、それはわたしのむ……」


すると、すかさず小太郎が大太郎の口を塞ぎ、声を上書きするように、誤魔化した。


兄貴である大太郎が既婚者だとバレたら、今後の捜査協力に支障をきたしてしまうからだ。

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