白日の下に晒される。
ウチの会社はメディアにも出ている有名なIT企業で、仕事環境は知り合いにも羨ましがられる程に知られている。
社長は皆と同じフロアで仕切りの無いフレンドリーな関係。
社員は役職の枠を越え好きな場所で好きな姿勢で仕事をする。
会議は無く個々に話し合い皆と共有し助け合う。
そうした結果が今の会社の利益として成っている。
私はその会社の中で六年目。社員になった時とはまるで違っている。
「中丸さん、これお返しです」
「あ、お気遣い、ありがとうございます」
「いえ、いえ」
「谷川さーん、これお返しです」
「ありがとう、こんなのいいのにい」
「いやぁ、イベントはお互い楽しまないとでしょ」
朝から嵐の様に過ぎ去るイベント事に、貰った数だけ振り撒く笑顔とさして痛手とも思えぬ給料故の浪費。
このフロアに響く笑顔のイベントに見合わぬ裏側を私は知っている。
いいえ、よほどの阿呆以外は皆知っているのに何故笑顔でいられるのか。
それが、それこそが、この会社の本性なのだから。
そう、それは言ってみれば陰部。
性悪女に浮気男と隠したい性癖を持った人達のソレと同じ、見た目とは裏腹な隠された秘部。
会社にとって、社長にとって、社員にとって、それは隠したい部署なのだと。
私はいい加減その異常性癖社にウンザリしていた。
次々に浪費物を持って来る浮気男と受け取る性悪女の中にあって、私はたった一つの浪費物を待っている。
しかし、朝の嵐は過ぎ去り何が自由か毎日行う通常業務が始まっていた。
アクセス管理にデータ管理、新規の企画に資金調達やらなんやらと……
私はそんなIT企業にあっての事務業務。
しかし、この会社の金の動きは私が一番理解している。
社長よりもだ!
「中丸さん、これ、よろしく」
そう言って出て行くのは大手企業から降りてきた五十代後半の社長だった。
確かにフレンドリーで垣根も無く好きな場所で好きな姿勢で……
この会社をメディアで見た誰もが、まさか社長が経費として計上させる為に全てのレシートをポン付けで経理に渡すとは思うまい。
その声に他の社員も思い出したか一斉に持ってくる。
「中丸さん、俺も・私も・僕も・私も・私も……」
自由でそれぞれの好きな……個々に話し合い……
合っているのはこういった碌でもない事の共有か。
社員の殆どは社長の息子世代の二十代半ばの若い世代なのに、平均年齢は三十七歳と不思議に思える筈。
かく言う私も四十過ぎのババアだが、何か?
そう、この会社の役職や事務職はジジイババアで溢れているのだから平均年齢は上がる上がる。
しかも社長の他、役職に就く五十以上のジジイババアが、氷河期世代とゆとり世代を馬鹿にし続け、若い世代にもその印象を必死に植え付けている。
何故必死に植え付けているのか、そもそも本当に使えないのは誰なのか。
その世代を使い捨てにして来たバブル世代の、言ってみれば殺人犯達の言い訳だ。
今の日本を造ったバブル世代? そう、ここまで貶めたのがバブル世代とグローバル信者達。
その構図があからさまにこの会社に見えている。
この会社のサイトにアクセスする若者は子供の頃から長いモノに巻かれる事を躾けられ、そのバブル世代の声に擦り寄っている。
しかし、この会社はそんなコロナ世代の若者を取る気は無い。
何故ならバブル世代が馬鹿にして来た氷河期世代とゆとり世代の息子世代だからだ。
ただ、それだけの理由。
だから、馬鹿にする馬鹿にする。
可哀相と言いつつ下に見ている。
使い捨て去る気満々に。
それ程までに彼等は怖れているの。
その世代が実力を発揮出来無いように……
だから私は待っている。
たった一つの浪費物を……
けれど来るとは限らない。
「すいません、中丸さんこれの計算はどっちでしたっけ?」
「これは……新しい方の式で」
新しい事務員は入るが、殆どが経験者。
即戦力を求む、なんて言ってるが、ただ育てる力が無いだけ。
だから事務員は氷河期世代とゆとり世代のババアだらけ。
それに気付かず馬鹿にしている社長に媚び、若者と思っている社員は十五年後に若者から同じ話をされて何を思うのか。
聞いてみたい気もするけど、そんなスグ先の事すらも読めずに口にする馬鹿の話は聞く価値も無いでしょうね。
馬鹿にされている私達には、この会社の行く末が見えている。
その原因が、人を馬鹿にしている馬鹿者達の奢りと誇りだと。
端的にいえば、埃を被っている見栄を張って買った物。
役職の高級車や若者のフロアインテリアやデザイン小物に、馬鹿な企画の残骸。
そもそもネットの解放を唱っておきながら今や閲覧にまで規制規制……
アクセス数稼ぎに煙草・自転車・アンチと叩いて自演乙誘導ですら、最近は若者自体が見向きもしなくなっているというのに……
先日も何処かで喫煙所が撤去されたと浮かれる嫌煙家の自演しかない書き込みに、誰かと思えばウチの社員。
【迷惑なの気付けよバーカ】
【ウケるw今時喫煙所とか】
【そりゃ迷惑な客はお断りだろ】
【やっとあそこのスーパー行けるわ】
【やっぱり禁煙じゃないと行く気しねえ】
【URL禁煙の店ここで見ると分かり易くて良いよな】
etc……
お前が気付けよ。私にすら気付かれてる社の悪行用IPからのサイト誘導書き込みとか……
そもそも今までソコに喫煙所が在ったのは店は迷惑とも思って無いからで、撤去した事こそが嫌煙家が仕事の邪魔になる程に店へ迷惑に訴えたからでしょ……
どっちが迷惑かも判らない様な馬鹿に洗脳されていく若者が、ドンドン馬鹿者になってく様は見ていて儚い……
こんな事してまで自社サイトに誘導してる会社が優良サイト扱いされてる時点で終わってる。
だから私は野望を持って待っていた。
いえ、経理の私はこの部屋で馬鹿な領収書を受け取り精査してデータ入力してるけど、経理部は他の場所にある。
そう、全社員が同じ部屋では無い。
そもそも役員の爺さん連中なんて会社に殆ど来てもいない。
経理部だって通称で、部署名は無い。だから事務員としか……
それは誰得?
イメージの為だけで、皆は経理部の所在は知っている。
何の意味も無い、ただのメディア戦略。
だから経理部ではこのイベントで浪費するのは、この部屋に居る私と他数名だけ。
けれど、女子トイレの話を聞いたら男は言葉も出ないでしょうね。
いつかマイクで拾って、この部屋に実況中継してあげたい程に……
性悪女が汚い考えに練って練って捻り出した物が貴男達の手に届けられているのだから……
知った上でソレを受け取れるのかも見てみたいわ。
でも、今回は私も練って練って捻り出した浪費を届けたから、あの性悪女の気持ちが分かった気がしてる。
これはギャンブルみたいなモノね。
相手が罠にハマるか?
と、待っている感じ。
でも、私は素直に書いてある。
罠では無いからイエスかノーか
この会社で馬鹿に洗脳されて馬鹿になったら、それは本当に馬鹿になった証拠だもの
馬鹿じゃないならどうするか?
その答えがやっと来た。
それは同じく、この部屋には無く無下にされ馬鹿にされ名前も無い部署にあって
最も自由を奪われ酷使され、本来名声を受ける立場にありながら手柄は全て社長に取られ
役に立たないと罵られて使い捨て去られるのを踏ん張って堪え忍んでいた氷河期世代のこの人。
「中丸さん、これ、同意します。」
私はこれから勝負に出ようと思う。
何故なら、勝利を確信する事が出来る人を手に入れたから
「ありがとうございます。共に歩む相手が私では役不足ではありませんか?」
「いえ、あなたしか居ませんよ」
「そう言って頂けると、分かりました。これから宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いします」
ヒソヒソと私達のやり取りを、ジジイババアの頭の固い古臭いモノとして馬鹿にして見ている若者社員達。
いい歳して本気でイベントに取り組んじゃって、哀れな中年。
そう見ているのが聞こえている。
仕切りの無い部屋ならではね。
それの何処が自由で開かれた新しい文化に繋がる若者なのか……
そして、一方的な考え方に囚われた馬鹿には、私達のこれがそれにしか見えなくなっている。
どちらが頭の固い古臭い者なのか……
――PATIPATIPATIPATI――
馬鹿が見下し煽り拍手をし始めていた。
「おめでとー」
いつ戻ったのか社長も茶化し、合いの手を入れる。
「ウチは社内恋愛OKで良かったな! 感謝しろよ! ほらみんな、二人を祝おう!」
――PATIPATIPATIPATI――
「ありがとうございます」
私達の門出を祝うとは恐れ入る。
しかしまぁ、私達二人だけでは無いのにそんなにも、宜しいのでしょうかね……
「門出を祝って頂きありがとうございます。では、こちらにサインをお願いします」
「それはまた気が早……何だコレ?」
そう、これは私達の反乱の確認なのだから……
「私達は今月末、つまり今年度末を持って退社させて頂きます」
「あ?」
「私達だけでは無く、氷河期世代とゆとり世代全員です」
「は? 俺を馬鹿にしてんのか?」
「いえ、馬鹿にしたのは社長です」
「ふん、恩も忘れたのか?」
「いえ、恩は最初からありません。私は事務員ですが人事権は疎か経理の方に採って頂きましたので」
「だからぁ、チッ、こういう所が馬鹿の証拠だよ、それを会社の社長である俺への恩と」
「その私を採った経理の全員が退社しますので」
「は?」
――KONKONN――
「失礼します、今聞かれた通り私も辞めさせて頂きます」
「お前、経理に雇ってやった……」
「馬鹿言わないで下さい。私はあなたにお願いされて経理もしていましたが、私はそもそもプログラマーですよ! お忘れですか? 馬鹿にするのも程々にして下さい」
「いや、だって、お前は解ってるだろ!」
「この会社がアチラの方々のお飾り会社だと?」
「馬鹿! お前それ……」
「お飾りはお飾りらしく黙っているべきでしたね社長、さん」
私を採用したのは、会社創立メンバーである元エンジニアの経理にも秀でたプログラマーが抜ける理由を明らかにしているのに尚も……
訳が分からず戸惑う若者……いえ、もう立派な馬鹿者に成ってるようで。
「では、今月分の給料と私達の退職金も計算してありますし今年度末の決済も済んでいますので明日から有給消化させて頂きます」
「はっ、馬鹿が勝手にしろ! プログラマー何かお前以外にも凄いのが沢山居るんだよ! お前等に何が出来るか楽しみだな」
未だに気付きもしない。馬鹿に教えるのも阿呆らしい。
私の隣に居る、共に歩んでくれると了承してくれた、本当に惚れ込んで誘ったこの氷河期世代の彼は……
「ありがとうございます」
この部屋の社員は疎か社長も顔すら知らないとは……
自分達は凄いとおだてられて企画を書いて出したら後は勝手にプログラマーが良いように作ってる。
その程度の自称若者の気持ちが理解るプランナーとか……
氷河期世代ゆとり世代を馬鹿にしてバブル世代と若者に媚び諂ってるサイトが時代を担う?
それ、笑えるわ。
先見の明処か、目先の事しか見えてないのに良くもまぁ……
今、社長が最初に勢いで契約満了とサインしていた彼こそが、馬鹿な社長が手柄を奪っていたこの会社の現エンジニアなのに……
人任せも大概ね。
きっと大きな組織的嫌がらせで潰しに来るつもりでしょうけど、敵には敵を。
私達には他の会社のエンジニアも同志として賛同している。
情報戦に馬鹿な社長は最初、私達が抜けた事実を隠そうとするでしょうね。
でもスグに知れ渡る。
そこで相手の情報を必死に探って、相手のエンジニアも抜けた事実に自分達が攻められる前にとぶちまける。
でも、それは相手の会社も同じ事。
それはつまり……骨抜きになった組織同士が今から潰し合いする事になる。
そして、来年度からは私の知る最強のエンジニア集団がサイトを起ち上げ運営する。
既にスポンサーも手回し済み、これまでウチの会社が馬鹿にして、無下に断って来た企業の数々……
既にサーバーの所在もとってある。
これから始まるサイトは世代を選ばない。
「所詮は氷河期世代とゆとり世代の馬鹿の集りって証明する様なもんだぞ! なあみんな! こいつ等を嘲笑って送り出してやろうぜ」
――PATIPATIPATIPATI――
来年も、あなた達はまだこの部屋でこのイベントをやっているのか楽しみね。
その偏り固まった頭で……
そんな溜まった思いを吐き出してスッキリした筈の私の心は揺れていた。
それは、話が私から他の人達に移り手持ち無沙汰に何気なく開けていた……
彼から受け取った箱の中には、返礼のチョコレートと
一枚の手紙。
当然、私は反乱の誘いに対する返事だと思って途中まで読んでいた。
けれど最後まで読んで、違和感を覚えて読み返していた。
〈今後は人生も共に歩み出せる事を願い、私の想いは貴女と共に巣立ちたく、宜しければ同意と共に返事を頂けますか?〉
私はこれを読まずに返事をしていた。
いいえ、これは……
先読みされて織り込まれ……
流石は私の惚れ込んだエンジニア。
ものの見事に嵌められて、決められてしまった私の人生。
私は今年でこのイベントを引退します。
ざまぁ、もう遅い系が流行りと知り随分と経ちますが、折に触れ一度書いてみたかったので……
ただ、ホワイトデーに綴るとは、私らしくて泣けてきますね(笑)
そして、ざまぁもう遅い……
ではありますけど、何か流行りと少し違うような?
それこそがもう遅い?
まぁ、氷河期ゆとりコロナ世代に送る一発逆転ストーリーにはなったでしょうから良しとして下さい。
こんなイベント現役ヤバくね(笑)