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レベル7

 中学校の校庭は森に姿を変えており、小さな小川まで流れていた。奥に見える校舎と体育館は中世のヨーロッパ風に変わっている。森の小道を歩くと小鳥がさえずり、小川のせせらぎの音もしている。


 小川の水を触ると冷たくて、小さな小魚まで泳いでいる。昨日までは確かに校庭で、今ある光景はvRで再現しているのは間違いない。小川の冷たい水が流れる感覚は、オレ達の脳内に埋め込まれたマイクロチップが錯覚を見せているんだ。


 しかも、目を閉じてこの場所を感じたら、明らかに森の中と全く同じなのには驚く。森の中の独特な匂いもするし、木々が揺れる音や、小川のせせらぎの音も聞こえる。また、小川の水を少し飲んだけれど、水道水と違ってとても美味しい。


 けれど、明らかにこれは錯覚で惑わされたらダメだ。ここは完全にVRの世界で、現実の中にある仮想空間そのもの。

 でもオレは……、頭が混乱しそうになる。


 体育館の中に入ると、床は古そうな板ばりで屋根は木の合掌造りだ。椅子も木でできているけれど、何故か折りたたみ式。機能的な動きはそのままで、金属製の椅子から、木製の古めかしい椅子に変わっている。

 何ともはや、頭が本当に混乱しそうだ。クレオとエリーも混乱しているみたいで、周りを見ては驚いている。


 人が大勢ここに集まっているけれど、この辺りでたったこれだけの人達しか居ないという事は、殆どの人達は魔物に殺されたのか?

 あまりにも厳しすぎる現実に怒りを覚える。誰が一体、何の目的でここまでするんだ?


 体育館の窓から朝日が入り込み、あまりの眩しさに右手を上げて太陽の光を止めようとした。すると、朝日を背にして向こうから見覚えのある若い女性が近寄ってくる。金髪の長い髪、特徴的な武具。

 もしかして……?


 いや、そんな事があるはずが無い。昨夜見たアバターは、アメリカ地区からの出場で、ここに現れるのは不可能。

 しかし、近寄って来る若い女性はアバターとそっくりで、現実とは思えないほどの美人だ!


 彼女はエリーに近づいて来て、戸惑ったような表情で言う。


「失礼ですが、貴女がエリーなのですか?」


 エリーは思わず目を見開いて彼女を見ている。

 そんな偶然があるのか、という目付きで……。


「フレイアなの?

 でも、どうしてここにいるの。アメリカに住んでいると思っていたのに」


「良かったわ。貴女がここにいると心強い。去年、お父さんが日本勤務になったので私も付いてきたの。

 エリーがここに来たって誰かが貴女を指差したから、確かめに来たんだけれど正解だったわ」


 滑らかな日本語を話しているフレイアだけれど、脳内にあるマイクロチップで同時通訳しているみたいだ。口の動きと、聞いている言葉が違う。

 生まれて初めて同時翻訳の機能が作動したので少し安心する。でも、このマイクロチップで、今は窮地に立たされている。

 横を見ると、クレオがニヤニヤしながらフレイアを見ている。


「エリーの知り合いの方なの? 紹介してよ。

 美人だし、友達申請しようかな?」


 クレオ……? なんだか楽しそう。

 でも……、何で……、オレの方を時々見てニヤニヤしているんだ……?


「えーと、一昨日戦っていた相手の方。名前はフレイアで、ベスト8まで残っていた人だよ。

 フレイア。こちらは私の母さんで、えっと……、名前はクレオパトラ」


「エリーのお母さんなんですか!?

 私はてっきり、お姉さんか、あるいは従姉いとこだと……」


 フレイア……。それ言ったら、クレオが元気づく。


「嬉しいこと言ってくれてありがとうフレイア。

 私と是非友達になりましょうよ。私のこと、クレオって呼んで。これからお互い協力して生きていかないとダメみたいだから。

 それに、これを機会に私、彼氏を探そうと思っているのよ」


 か、母さん。いや、クレオ〜〜。何を考えているんだよ〜〜!

 父さんが一昨年亡くなったばかりなのに、この状況下でそれを言うか……、普通……?


「うふふ。エリーのお母さんて面白い人ですね。

 喜んでクレオの友達になります。

 えーと。そちらの方はエリー のお兄さんですか?」


 いくら美人でも、オマケでオレに聞いてきた様な聞き方に少し苛立ちを覚える。

 でも、フレイアがオレと同じ流派の技を使う理由が分かるまでは、表面上はフレンドリーにしておかないとな。


「エリーがお世話になっています。

 昨夜の戦いを観戦して、貴女が不思議な技を使われたのでビックリしました。柔道か何かの技ですか?」


「ふうう、あの技ですか?

 あの技は、私の母から教わった八極合気の技なんですよ。もしよかったらお教えしましょうか?」


 え……?

 あの技は、門外不出なんだけれど……?




読んでくれてありがとうございます。



次話もお楽しみ。

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